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7.身に余る光栄
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「……っ」
温かい、身体。
しばらく俺はぎゅっとシヴァを抱きしめていた。
――はあああああぁ、幸せ、すぎるぅ!
思いっきり鼻から息を吸い込み、この匂いを堪能する俺!!
それからシヴァは、俺からゆっくりと身体を離すと、俺をじっと見つめた。
「お前は、俺を受け入れてくれるのか?」
「も、もちろんです! 身に余る光栄ですっ!」
もう心臓がわけわからないほどビートを打っていて、頭の中は大太鼓が鳴り響きしっちゃかめっちゃかだが、なんとか俺は答えた。
「ふっ……」
俺の言葉に気を良くしたのか、シヴァはほんの少し笑った。
「ぐっ!」
俺の脳では処理で切れないほどの事態に、俺の自我は崩壊寸前だ。
そして……、
「このひと時、すべてを忘れさせてくれ……」
俺の頬にその大きな手のひらをあてると、シヴァは俺に顔を寄せてきた。
「!!!!」
その美しい顔が俺にゆっくりと近づいてくるのを、俺は瞬きもせずじっと見つめていた。
もしかして、これは‥‥…、
これは……!!
「ああーっ! ちょ、ちょっと待ったぁあ!!」
だが、あろうことか、俺はあのシヴァの美しいお顔を手で押しのけてしまっていた。
「この期に及んでなんなんだっ!? やはり、お前は俺のことを……」
みるみる不機嫌になっていくシヴァ。
「違うんです! お願いです! 後生です! 後生ですから! 俺に準備を、準備をさせてください!!」
俺は、ベッドの上でひれ伏していた。
だって、だって、だって!!
俺が最後に食べたものって、今日の晩餐会で余った芋を丸めて衣をつけて揚げたヤツだよ!
もちろん、スパイシーな香辛料もたっぷりつけて!
そんでもって、日中大量の芋をあっちやこっちへ運んだせいで、汗だっていつも以上にいっぱいかいた!
ただでさえみすぼらしいのに、その上不潔だなんて!!
しかもそれが、一生に一度きりのシヴァとの夢の夜だっていうんだから!!
「準備……?」
シヴァが眉根を寄せる。
「そう、そう、そうなんです! ほらっ、男同士って、女性相手と違って準備が必要なんです!
だから、ちょっと、ほんのちょっとだけ、待っててもらえますっ!?」
友人のラムからもらった男同士のハウツー本で仕入れたにわか知識を、さも何もかも知っているかのように披露した俺は、慌ててベッドから飛び降りると、一目散で入り口側の洗面所に駆け込んだ。
もちろん湯を沸かしている暇なんてないので、冷水を頭からかぶって身を清め、口をゆすいでからハーブを一枚口に含み、ラム(男)がくれたいい匂いのする練り香水を耳の後ろに擦り付けると、俺は戸棚の奥にある秘密の小箱に手を伸ばした。
――まさか、これを使う日がくるとは!!!!
白い小箱にはこれまたラムからもらった、いわゆる滑りを良くする「潤滑油」が入っていた。そして隣には男性器を模した妙にリアルな張り形!
――こんなことになるなら、怖がったりせずにさきに自分でしっかり慣らしておけばよかった!!
俺は未使用のままの張り形に、そっと指で触れた。
そう、俺は何を隠そう、まっさらな身体だ。誰とも付き合ったことはないし、性経験など皆無!
なにしろ、生涯愛を捧げると決めたのは、シヴァ・ミシュラのみ!
妙に乙女チックなところのある俺は「アンタの初恋なんて、どうせ実るわけないんだから、さっさとその辺の男で初体験すませちゃえば?」なんていう悪友の囁きには決して首を縦に振らず、一途にシヴァに操を立て続けていたのだ!
しかし、今の俺といえば、シヴァには経験豊富な遊びなれた相手として認識されてしまっている!
――どうしよう!? そんなあと腐れのないはずの一夜限りの相手の俺が、まさかの未経験だなんてバレたら、確実にドン引きされてしまう!
そんなめんどくさい相手はお断りだと、怒って出て行ってしまうかもしれない。それどころか、詐称の罪でその場で叩き切られてしまったり……。
ガタン、と居間兼寝室から音がして俺は我に返る。
――どうしたって、時間がない! もうこうなったら、やるしかない!
俺は香油の入ったガラス瓶を手に、扉を開けた。
――いる!!
もしかしたら精霊かなにかに騙されていただけて、戻ったらそこには誰もいなかった……、なんてオチになるのではないかと心配したが、シヴァは確かにそこにいた。
ぼんやりとした表情のシヴァは、所在なげに俺のベッドに腰掛けていた。
それだけでも手を合わせて拝みたいくらいだというのに、今から俺は恐れ多くもその逞しい腕に抱かれようとしているのだ!
脳内が沸騰しそうな興奮を抑えて、俺はベッドに近づいた。
「用意は済んだのか?」
「はい」
俺の言葉に、シヴァは俺に手を伸ばした。
「こちらへ」
――ああ、もう、どうしよう……!!
顏が、顔が良すぎる!!
温かい、身体。
しばらく俺はぎゅっとシヴァを抱きしめていた。
――はあああああぁ、幸せ、すぎるぅ!
思いっきり鼻から息を吸い込み、この匂いを堪能する俺!!
それからシヴァは、俺からゆっくりと身体を離すと、俺をじっと見つめた。
「お前は、俺を受け入れてくれるのか?」
「も、もちろんです! 身に余る光栄ですっ!」
もう心臓がわけわからないほどビートを打っていて、頭の中は大太鼓が鳴り響きしっちゃかめっちゃかだが、なんとか俺は答えた。
「ふっ……」
俺の言葉に気を良くしたのか、シヴァはほんの少し笑った。
「ぐっ!」
俺の脳では処理で切れないほどの事態に、俺の自我は崩壊寸前だ。
そして……、
「このひと時、すべてを忘れさせてくれ……」
俺の頬にその大きな手のひらをあてると、シヴァは俺に顔を寄せてきた。
「!!!!」
その美しい顔が俺にゆっくりと近づいてくるのを、俺は瞬きもせずじっと見つめていた。
もしかして、これは‥‥…、
これは……!!
「ああーっ! ちょ、ちょっと待ったぁあ!!」
だが、あろうことか、俺はあのシヴァの美しいお顔を手で押しのけてしまっていた。
「この期に及んでなんなんだっ!? やはり、お前は俺のことを……」
みるみる不機嫌になっていくシヴァ。
「違うんです! お願いです! 後生です! 後生ですから! 俺に準備を、準備をさせてください!!」
俺は、ベッドの上でひれ伏していた。
だって、だって、だって!!
俺が最後に食べたものって、今日の晩餐会で余った芋を丸めて衣をつけて揚げたヤツだよ!
もちろん、スパイシーな香辛料もたっぷりつけて!
そんでもって、日中大量の芋をあっちやこっちへ運んだせいで、汗だっていつも以上にいっぱいかいた!
ただでさえみすぼらしいのに、その上不潔だなんて!!
しかもそれが、一生に一度きりのシヴァとの夢の夜だっていうんだから!!
「準備……?」
シヴァが眉根を寄せる。
「そう、そう、そうなんです! ほらっ、男同士って、女性相手と違って準備が必要なんです!
だから、ちょっと、ほんのちょっとだけ、待っててもらえますっ!?」
友人のラムからもらった男同士のハウツー本で仕入れたにわか知識を、さも何もかも知っているかのように披露した俺は、慌ててベッドから飛び降りると、一目散で入り口側の洗面所に駆け込んだ。
もちろん湯を沸かしている暇なんてないので、冷水を頭からかぶって身を清め、口をゆすいでからハーブを一枚口に含み、ラム(男)がくれたいい匂いのする練り香水を耳の後ろに擦り付けると、俺は戸棚の奥にある秘密の小箱に手を伸ばした。
――まさか、これを使う日がくるとは!!!!
白い小箱にはこれまたラムからもらった、いわゆる滑りを良くする「潤滑油」が入っていた。そして隣には男性器を模した妙にリアルな張り形!
――こんなことになるなら、怖がったりせずにさきに自分でしっかり慣らしておけばよかった!!
俺は未使用のままの張り形に、そっと指で触れた。
そう、俺は何を隠そう、まっさらな身体だ。誰とも付き合ったことはないし、性経験など皆無!
なにしろ、生涯愛を捧げると決めたのは、シヴァ・ミシュラのみ!
妙に乙女チックなところのある俺は「アンタの初恋なんて、どうせ実るわけないんだから、さっさとその辺の男で初体験すませちゃえば?」なんていう悪友の囁きには決して首を縦に振らず、一途にシヴァに操を立て続けていたのだ!
しかし、今の俺といえば、シヴァには経験豊富な遊びなれた相手として認識されてしまっている!
――どうしよう!? そんなあと腐れのないはずの一夜限りの相手の俺が、まさかの未経験だなんてバレたら、確実にドン引きされてしまう!
そんなめんどくさい相手はお断りだと、怒って出て行ってしまうかもしれない。それどころか、詐称の罪でその場で叩き切られてしまったり……。
ガタン、と居間兼寝室から音がして俺は我に返る。
――どうしたって、時間がない! もうこうなったら、やるしかない!
俺は香油の入ったガラス瓶を手に、扉を開けた。
――いる!!
もしかしたら精霊かなにかに騙されていただけて、戻ったらそこには誰もいなかった……、なんてオチになるのではないかと心配したが、シヴァは確かにそこにいた。
ぼんやりとした表情のシヴァは、所在なげに俺のベッドに腰掛けていた。
それだけでも手を合わせて拝みたいくらいだというのに、今から俺は恐れ多くもその逞しい腕に抱かれようとしているのだ!
脳内が沸騰しそうな興奮を抑えて、俺はベッドに近づいた。
「用意は済んだのか?」
「はい」
俺の言葉に、シヴァは俺に手を伸ばした。
「こちらへ」
――ああ、もう、どうしよう……!!
顏が、顔が良すぎる!!
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