上 下
5 / 66

5.我に返る

しおりを挟む
 そして、今!



「で、どこへ行けばいいんだ?」

 衛兵たちに奇異の目で見られながらも王宮の裏口を出たところで、俺の手を引くシヴァが、くるりと振り返った。

「え……!?」

 何とシヴァは、何も考えず歩きだしていたらしい。


「お、俺の家っ、ちょっと歩いたところなんで、狭いけど、よければ、そこに……」

「わかった。案内してくれ」

 シヴァが俺の横に並ぶと、俺の腰を抱き寄せた。


「……っ!!」

 硬直する俺の身体。


 人並みには身長もある俺よりも、さらに頭一つ分高いシヴァ。

 俺の身体に回された腕は逞しく、時折ふれる身体からはなにやらいい匂いすらする!!


 あのシヴァが、今、俺のすぐ隣に!

 なんかもう、これ、夢、かな?

 っていうか、俺、もうすぐ死ぬのかも!!??

 でも、ひと時の夢でもいい!! 神様に見せられた最後の幻でもこの際いい!

 ああ、もう、ずっとこのかぐわしい空気を吸っていたい!!


 天にも昇る気持ちの俺だったが、家が近づくにつれ、急に俺は我に返った。


 ――シヴァが、俺のうちに!!??

 あの、家というよりは、むしろどちらかというと小屋に近い、あの俺のボロ家に!!??

 っていうか、もちろん朝起きてすぐ出てきたからベッドメイキングなんてできているはずもなく、シーツはぐしゃぐしゃ!



 王宮内の食堂で働いていた俺は、王宮のあっせんで、王宮に勤める貴族や騎士、職員たちの住むいわゆる王都の高級住宅街のはずれに居をあてがわれていた。

 だが、その実態はもちろん立派なお屋敷などではなく、住宅街の端にある小さな森のはずれに隠れるようにしてひっそりと建っている森小屋!

 昔は森の管理人が住んでいたのだが、引退して田舎に引っ越してしまったとかで、ちょうど空きがあったため一人暮らしで荷物の少なそうな俺にたまたまあてがわれた、というわけだ。
 そしてそこは家というよりは、丸太づくりの小屋といったほうが正確だ。 

 王宮の下級騎士たちの独身寮よりも、ずっとずっと粗末な住居……。


 そんなところに、今を時めく、シヴァ・ミシュラ様を招き入れるなんて……!


 ――そんな罰当たりなこと、俺にはできないっ!!



「……? どうした?」

 急に足を止めた俺の顔を、シヴァはのぞき込んできた。


「あの……、やっぱり、ごめんなさい、俺には、できませんっ!!」

 俺はシヴァから離れると、身体を直角に折り曲げて頭を下げた。


「は?」

「俺……っ、見た目もこんなだし、家もあれだし……。だから……、一晩の情けをかけてもらうにしたって、どうしても、あなたには釣り合うとは思えません!
夢はやっぱり、夢のままなんです! だから……、突然大それたことを言って驚かせてしまって、すみませんっ。ですから、さっきのことは忘れてくださいっ……」

「顔を上げろ」

 冷たい声に、恐る恐る顔を上げた俺。


 凍るほどに冷えた緑色の瞳が俺を見下ろしていた。

 シヴァは俺の顎に指をかけた。


「逃がさない」

「え……?」

「いったいいくらで雇われた? どうせ下町の男娼のたぐいだろう?
誰の差し金なのかは知らないが、ここで俺に声をかけたこと、じっくり後悔させてやる!」

 シヴァは俺の首根っこを掴むと、まるでズタ袋みたいにひょいと俺を肩に担いだ。

「わああああっ!!」


「ここで痛い目に遭いたくなかったら、さっさとお前の根城を吐け!」

「はっ、はいぃ、わ、わかりましたぁー!」」



 ――もしかして俺、今からシヴァにボコボコにされたり、する!?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【doll】僕らの記念日に本命と浮気なんてしないでよ

月夜の晩に
BL
平凡な主人公には、不釣り合いなカッコいい彼氏がいた。 しかしある時、彼氏が過去に付き合えなかった地元の本命の身代わりとして、自分は選ばれただけだったと知る。 それでも良いと言い聞かせていたのに、本命の子が浪人を経て上京・彼氏を頼る様になって…

え?なんでオレが犯されてるの!?

四季
BL
目が覚めたら、超絶イケメンに犯されてる。 なぜ? 俺なんかしたっけ? ってか、俺男ですけど?

【R18】【Bl】魔力のない俺は今日もイケメン絶倫幼馴染から魔力をもらいます

ペーパーナイフ
BL
俺は猛勉強の末やっと魔法高校特待生コースに入学することができた。 安心したのもつかの間、魔力検査をしたところ魔力適性なし?! このままでは学費無料の特待生を降ろされてしまう…。貧乏な俺にこの学校の学費はとても払えない。 そんなときイケメン幼馴染が魔力をくれると言ってきて… 魔力ってこんな方法でしか得られないんですか!! 注意 無理やり フェラ 射精管理 何でもありな人向けです リバなし 主人公受け 妊娠要素なし 後半ほとんどエロ ハッピーエンドになるよう努めます

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

処理中です...