上 下
42 / 43
【番外編】

ソラルの里帰り 〜その6〜

しおりを挟む
 レオンの舌が、当然のように俺の唇を割って中に入ってくる。

「んっ、あっ……」

 レオンにしっかりと抱きとめられているため、俺は身動きが取れない。
 レオンの舌が俺のそれに絡まり、口の中全部を舐めつくされる。

 まわりにはざわめきが起こった。


「レオンっ、駄目っ、みんな……、見てっ、あっ!」

「構わない……だろっ、俺たちは、婚約してるんだからっ……」

 あまりにも濃厚なキスに、俺は身をよじる。


 だって、ここはリーズの結婚式の会場で、今はダンスの時間で…‥。

 なかなか離れない俺たちに、女の子たちの黄色い悲鳴も聞こえてくる。


「だってっ、恥ずかしいっ、やだレオンっ、んあっ、レオン駄目、俺っ…‥」

 レオンに舌を吸われ、俺はレオンの背中をつかんだ。

「ソラル……っ、愛してるっ、誰にも、誰にも、渡さないっ」

「あっ、ああ……、俺も、……愛してる、から……」

 レオンの熱を身体に感じ、俺の身体も反応しはじめている。

 これは、ちょっとどころでなく、とんでもなくヤバい!!

「ソラル、ソラル……っ」

 ますます身体を密着させてくるレオンに、

「ここでこれ以上は、駄目っ、だから……、あとは今夜、ゆっくりっ…‥!」

 息も絶え絶えにあえぐと、レオンは突然がばっと身体を離した。

「レオン……?」

 目の前のレオンは、艶めかしく唇を舐めた。

「そうだな、……さすがに、これ以上は俺もまずい。あとは、今夜、たっぷりと……、それに、わかってるよな? ソラル。
あの変質者とイチャイチャしたら、夜は俺が満足するまでお仕置きする約束だったよな?」

「は!?」

 ――絶対絶対、そんな約束していない!

 それに、

「どこをどうみたらイチャイチャになるんだよっ! あんなの、一方的に……っ」

「一方的に、なに? 隙だらけのソラルが、あっという間に俺以外の男にキス、されそうになったって?」

 青と緑の中間色の不思議な色合いの瞳。

 ――やばい、やばいよ、これは。絶対に、絶対に、すごく、すごーく怒っているヤツですよ!!

「レオン……、あの……」

 突然、音楽が鳴りだした。おそらく、俺たちのいざこざに気を使った楽団が、慌ててワルツの曲を演奏し始めたのだ。

「あっ、レオン、ほら、ワルツ! ワルツだよ! 一緒に踊ろう!」

 俺はレオンに手を差し出す。レオンは一瞬たじろいだ。


「レオン・ジラール、俺と踊ってくれますか?」

「……っ、卑怯だぞ! ソラル!」

 俺がほほ笑みかけると、レオンは怒った顔のまま俺の手を取った。


「まだ男とは、誰とも踊ってないんだろうな?」

「もちろん! 君が初めてのダンスの相手だよ、レオン!」


 ――まったく俺の婚約者は、本当にどうしようもないほど嫉妬深くて可愛い。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 レオンはダンスもとても上手だった。何をさせても超一流のレオン。もう今更何も驚かない。

「ねえ、レオン、君のお母さんのことで話があるんだ」

 レオンに腰を引き寄せられた俺は、意を決して口を開いた。

「知ってる」

「え!?」

「全部、聞いた」

「聞いた!?」

「婚約指輪……」

「指輪が、どうかしたの?」

「聞いてた……、指輪から、全部……」

 言い淀むレオンに、俺の顔色は変わった。

「レオン、もしかして、この婚約指輪ってまだ俺の知らない機能があったりする!?」


 レオンが俺の耳元に顔を寄せた。

「ソラル……、ソラルは俺が恐ろしいか……?」

 俺は目を見開く。

 俺の目の前にいるのは、心細げな眼をした一人の美しい青年だった。

「レオン……」

「言われたんだ……。あの時……、軍の変態野郎どもを蹴散らしたとき……。
――お前は魔物そのものだって、お前の存在そのものが、魔獣と変わらない忌むべきものだって……」

「そんな、こと……」

「俺はソラルがいないと生きていけない。でも、きっと、ソラルはそうじゃない。
だから……、俺はソラルに嫌われたら、もう終わりだ」


 ――だから、ずっと過去を隠していた……?

 恐ろしいほどの魔力を持ちながら、それを誰にも言わずにいた……?



 俺はレオンをぎゅっと抱きしめた。

「怖くなんて、ない。俺は、レオンのことが大好きだよ!」

 レオンの身体から力が抜ける。

「レオン、ありがとう。俺のために、この国のために、レオンの力を使ってくれて……。
第一騎士団長になってくれて、俺の部下になってくれて、俺の婚約者になってくれて、
ありがとう……、大好きだよ、レオン!」

「ソラルっ!!」

「わあっ!」


 なんと、俺はレオンに抱き上げられていた。
 
「ソラル、俺も、大好きだよ!」

 レオンが俺のおでこにキスすると、きゃあああっ!と女の子たちから悲鳴があがる。

「はい、レオン。これ、私がとってた宿屋の鍵。まだチェックアウトしてないわよ」
 
 なぜかレオンに鍵をさしだすテオドア。

「ありがたく受け取っておく!」

 レオンの瞳が美しくきらめいた。


「さあ、行こうか!」


 ――どこにっ!?



 その時俺は、泡を吹いて地面に転がっているミハイルにようやく気が付いた。


 ……なんか……、ゴメン。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。

美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

博愛主義の成れの果て

135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。 俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。 そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

処理中です...