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【番外編】
総帥の一日 〜始業前〜
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~始業前~
俺はため息をつきながら、赤紫色の美しい御髪をキメの細かい櫛で梳かしていた。
「あの……、いつも思うんですけど……、これって、俺がする必要、あります!?」
「ソラル! 忘れたのかっ!? 第3王子であるこの俺の髪を毎朝整えるのは、騎士団総帥の大切な任務の一つだ!
ほら、この前お前がもらった「総帥の心得」の15ページにも書いてあっただろう!!!」
麗しのルイ王子がふんぞりかえって俺を見る。
「ええ……、まあ……、そうですけど……、あの、昨日みたいに右側を編み込む感じで、いいでしょうか?」
「よし、頼むぞ」
上機嫌なルイ王子。
どうやらルイ王子は、レオンへの報復として、騎士団総帥……つまり俺の任務内容について、王族の特権を振りかざしてさまざまな変更を加えた、らしい……。
でもまあ、ルイ王子が第一騎士団長だったころは、任務に同行している俺が毎朝ルイ王子の支度を整えるのが習わしだったので、俺としては特に違和感はないのだが……。
「絶対俺より、王宮の女官の人たちのほうが上手に結えると思いますよ……」
俺は、小指で一筋、ルイ王子の髪をすくった。
――編み込みって難しいんだよな。昔よく、一番下の妹に頼まれてやってあげたりしたけど……。
「お前が俺の髪を担当してくれることになって、女官長はたいそう喜んでいるんだぞ」
「そりゃまたどうして?」
「毎朝、どの女官が俺の髪を仕上げるかで死闘が繰り広げられていたらしい。今回、総帥のお前が担当することになったので、誰も口出しできなくなり、結果余計な争いもなくなり、女官たちも平和になった……」
「へえ…‥、相変わらず、大層なご人気ぶりで……」
っていうか、全部ルイ王子のせいじゃん!
そんな争いの種になるくらいなら、いっそのこと自分で結えばいいのに……、もしくはーー、
「そんな長ったらしい髪! さっさと切ってしまえばいいでしょうっ!」
ドカンっ! という音とともに、部屋の扉が蹴破られた。
「レオンっ!!」
入ってきたのは、怒りのオーラに包まれ、髪を逆立てた第一騎士団長--、レオン・ジラール。
恐ろしいことに、俺の将来の夫である……。
「短く刈り揃えれば、編み込む必要などなくなります! いっそのこと、俺が今ここで刈り上げて差し上げましょうか!? 兄上のことです、きっとお似合いになられますよっ!!!」
俺は、見るも無残にひしゃげてしまった扉を見て茫然とした。
――あーあ、レオンってば、またこの扉、壊しちゃったよ! 「今度壊したらもう新しいのつけませんからねっ!!!!」って第6騎士団の修繕担当者に言われてたのに!
このままじゃ、俺とレオンの部屋の間の唯一の隔たりであったこの扉が取っ払われ、もう入り放題、出放題、プライバシーのかけらもない状態!になってしまう!!!!!
「男の嫉妬は見苦しいぞ! レオン」
扉の破壊にはもはや慣れっこのルイ王子は、涼しい顔でレオンを煽る。
「なにをっ!? そもそも兄上が、私利私欲のために、俺のソラルに不要な仕事をやらせるからですっ! 俺は、王に直接抗議するっ!」
「フン、ソラルに髪を結ってもらうくらいでそこまで逆上するとはな。小さい男は嫌われるぞ、レオン。
そもそも、ソラルと俺の間にはお前の入る余地もないくらい、濃厚な絆があるんだ。昔どれだけ俺がソラルを可愛がってやったか……、なあ、ソラル?」
ルイ王子が艶っぽい目つきで、ツツっと俺の手に指を這わす。
「……わあっ、何するんですか殿下! ほどけちゃったじゃないですかっ!? ……せっかくいつもより綺麗に編み込めてたのにっ!!」
「ソラル、その手を離せ! 俺が今、その赤紫の髪を全部むしってやるっ!!!!!」
ルイ王子の頭に伸ばしたレオンの手を、ルイ王子が掴んだ。
「レオン、俺が王になったら、お前からソラルを必ず取り返すからな!」
レオンはその手を振り払い、鼻で笑う。
「兄上、兄上は相変わらず自分のお立場をわかっていらっしゃらない。お忘れですか? 俺も王位継承者になったんですよ?」
レオンの瞳がきらめく。
――そう、俺とレオンの婚約とほぼ同時に、国王はレオンを自分の息子として認知し、レオンはれっきとした王位継承順位・第7位となったのだった。
「もし兄上が王になったとしても、俺がまた下剋上して差し上げますよ!」
「くそっ、生意気なっ!
ソラル! お前の心に巣くったこの魔獣はいつか俺が必ず狩ってやるからなっ!!!!」
俺はそんな二人のやりとりにため息をついた。
「はいはい、よくわかりました! ほらほら二人とも、今日は王族会議があったんじゃなかったんですか?
もう出ないと間に合いませんよ!」
俺はぐちゃぐちゃになってしまった扉をなんとか戻せないか、かつてあった場所にはめ込んでみる。
――駄目だ、絶望的!!!
「「ソラル~~!!!!!」」
情けない声を出して俺にまとわりついてくる二人を何とか部屋から追い出し、俺はようやく始業時間を迎えたのだ。
――今日も長い一日になりそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
ランチタイムへ続きます!!笑
俺はため息をつきながら、赤紫色の美しい御髪をキメの細かい櫛で梳かしていた。
「あの……、いつも思うんですけど……、これって、俺がする必要、あります!?」
「ソラル! 忘れたのかっ!? 第3王子であるこの俺の髪を毎朝整えるのは、騎士団総帥の大切な任務の一つだ!
ほら、この前お前がもらった「総帥の心得」の15ページにも書いてあっただろう!!!」
麗しのルイ王子がふんぞりかえって俺を見る。
「ええ……、まあ……、そうですけど……、あの、昨日みたいに右側を編み込む感じで、いいでしょうか?」
「よし、頼むぞ」
上機嫌なルイ王子。
どうやらルイ王子は、レオンへの報復として、騎士団総帥……つまり俺の任務内容について、王族の特権を振りかざしてさまざまな変更を加えた、らしい……。
でもまあ、ルイ王子が第一騎士団長だったころは、任務に同行している俺が毎朝ルイ王子の支度を整えるのが習わしだったので、俺としては特に違和感はないのだが……。
「絶対俺より、王宮の女官の人たちのほうが上手に結えると思いますよ……」
俺は、小指で一筋、ルイ王子の髪をすくった。
――編み込みって難しいんだよな。昔よく、一番下の妹に頼まれてやってあげたりしたけど……。
「お前が俺の髪を担当してくれることになって、女官長はたいそう喜んでいるんだぞ」
「そりゃまたどうして?」
「毎朝、どの女官が俺の髪を仕上げるかで死闘が繰り広げられていたらしい。今回、総帥のお前が担当することになったので、誰も口出しできなくなり、結果余計な争いもなくなり、女官たちも平和になった……」
「へえ…‥、相変わらず、大層なご人気ぶりで……」
っていうか、全部ルイ王子のせいじゃん!
そんな争いの種になるくらいなら、いっそのこと自分で結えばいいのに……、もしくはーー、
「そんな長ったらしい髪! さっさと切ってしまえばいいでしょうっ!」
ドカンっ! という音とともに、部屋の扉が蹴破られた。
「レオンっ!!」
入ってきたのは、怒りのオーラに包まれ、髪を逆立てた第一騎士団長--、レオン・ジラール。
恐ろしいことに、俺の将来の夫である……。
「短く刈り揃えれば、編み込む必要などなくなります! いっそのこと、俺が今ここで刈り上げて差し上げましょうか!? 兄上のことです、きっとお似合いになられますよっ!!!」
俺は、見るも無残にひしゃげてしまった扉を見て茫然とした。
――あーあ、レオンってば、またこの扉、壊しちゃったよ! 「今度壊したらもう新しいのつけませんからねっ!!!!」って第6騎士団の修繕担当者に言われてたのに!
このままじゃ、俺とレオンの部屋の間の唯一の隔たりであったこの扉が取っ払われ、もう入り放題、出放題、プライバシーのかけらもない状態!になってしまう!!!!!
「男の嫉妬は見苦しいぞ! レオン」
扉の破壊にはもはや慣れっこのルイ王子は、涼しい顔でレオンを煽る。
「なにをっ!? そもそも兄上が、私利私欲のために、俺のソラルに不要な仕事をやらせるからですっ! 俺は、王に直接抗議するっ!」
「フン、ソラルに髪を結ってもらうくらいでそこまで逆上するとはな。小さい男は嫌われるぞ、レオン。
そもそも、ソラルと俺の間にはお前の入る余地もないくらい、濃厚な絆があるんだ。昔どれだけ俺がソラルを可愛がってやったか……、なあ、ソラル?」
ルイ王子が艶っぽい目つきで、ツツっと俺の手に指を這わす。
「……わあっ、何するんですか殿下! ほどけちゃったじゃないですかっ!? ……せっかくいつもより綺麗に編み込めてたのにっ!!」
「ソラル、その手を離せ! 俺が今、その赤紫の髪を全部むしってやるっ!!!!!」
ルイ王子の頭に伸ばしたレオンの手を、ルイ王子が掴んだ。
「レオン、俺が王になったら、お前からソラルを必ず取り返すからな!」
レオンはその手を振り払い、鼻で笑う。
「兄上、兄上は相変わらず自分のお立場をわかっていらっしゃらない。お忘れですか? 俺も王位継承者になったんですよ?」
レオンの瞳がきらめく。
――そう、俺とレオンの婚約とほぼ同時に、国王はレオンを自分の息子として認知し、レオンはれっきとした王位継承順位・第7位となったのだった。
「もし兄上が王になったとしても、俺がまた下剋上して差し上げますよ!」
「くそっ、生意気なっ!
ソラル! お前の心に巣くったこの魔獣はいつか俺が必ず狩ってやるからなっ!!!!」
俺はそんな二人のやりとりにため息をついた。
「はいはい、よくわかりました! ほらほら二人とも、今日は王族会議があったんじゃなかったんですか?
もう出ないと間に合いませんよ!」
俺はぐちゃぐちゃになってしまった扉をなんとか戻せないか、かつてあった場所にはめ込んでみる。
――駄目だ、絶望的!!!
「「ソラル~~!!!!!」」
情けない声を出して俺にまとわりついてくる二人を何とか部屋から追い出し、俺はようやく始業時間を迎えたのだ。
――今日も長い一日になりそうだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
ランチタイムへ続きます!!笑
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