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第29話 大好きな人

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「そ、ソラル、それは、つまり、俺と同じようなレベルで、レオンを好きということだなっ!?
そういうことでいいなっ!?」

 ルイ王子が俺を指さして断言する。


「そうだね。ソラルは優しいから、きっと年下の副団長のことをかばって……」

 ユーゴ様が、うんうんとうなずく。


「違うっ!!!」

 俺はかぶりを振った。

「俺、レオンより10歳以上も年上だし、気持ちを伝えてもきっと嫌がられるだけだから、ずっと黙っているつもりでいたけど……!!
こんな……、こんな、わけのわからないうちに、こんなことになっちゃったけど……、
でも俺っ、本当に好きな人とセックスしたのって、初めてだったから…‥、すごく、すごくうれしかったんだ……、レオン……」

「ソラルっ!!!!!!」

 レオンが歓喜の表情で俺に飛びついてくる。


「本当に……、好きな人……、くっ……」

 ユーゴ様の絶望した顏……。


「嘘だ! レオンっ、貴様ぁああああ!!
ーー魔法だっ、そうだ。魔法を使ったな!
ソラル、こいつの母方はクアスでも有名な魔女の一族なんだっ!
ソラル、お前は幻術にかけられている!!!!
おいレオン、ソラルにかけた魔法をいますぐ解けっ!」

 ルイ王子が鬼の形相で、俺とレオンを引き剥がそうとする。

「兄上、ご存知のはずです。どのような魔術も、人の心を操るのは不可能です。
そもそも、俺がそのような術を使えていたら、とっくに今頃……、そうだ!!!」

 突然、何かを思い出したレオン。
 ルイ王子から俺を引き離すと、上着のポケットからビロード張りの小箱を取り出した。


「「それはっ……!!!」」


 ルイ王子とユーゴ様が息を飲む。


 わけも分からず立ち尽くす俺の目の前で、レオンは片膝をついた。

「最初の計画はめちゃくちゃになったけど、ソラルが俺を好きでいてくれたなんて、死ぬほど嬉しい!
ソラル……、愛しています! 俺と結婚してください!!!!」


 ーーケッコーン!!!!????


 頭が真っ白になる俺をよそに、レオンがその小箱を開ける。

 中には……、うん、なんかよくわからないが、すごく高そうな指輪が入っていて……。



「ま、まさかそこまで話が……」

 顔面蒼白になっているユーゴ様。


「認めないっ! 俺は認めないぞっ! 絶対にっ!」

 ルイ王子も髪を振り乱す。


「あ、あの……、レオン……、結婚って、俺と、レオンが……?」

「そうだよ。この国では男同士の婚姻も認められているはずだよね。
ソラル……、俺と結婚して、一生俺のそばにいてくださいっ!」


「……!!!!!!!」

 キラリと光るレオンのあの美しい瞳の色に、俺はうろたえる。

 だって、だって……。


「でも、レオン、レオンが俺のこと好きだなんて、一度も……」

「本当は今晩、正式にプロポーズするはずだったんだ。
なのに、ソラルときたら、兄上とフランドル伯爵を自宅に招いて、それを俺に隠して……っ」

 ぎり、とレオンが唇を噛む。

 ーーそういえば、たしかに事前に予定をきかれたよね!? レオンから!


「いやっ、それはっ、レオンが俺に果たし状を持ってくるとばかり思ったから、その対策を……」

「俺はそのせいで、当初の計画の変更を余儀なくされ、ソラルをさらってこのジラール家の別邸につれてきたんだ。
ソラルは俺から逃げるつもりだってわかってたから、この際仕方なく身体から堕として俺のものにしようと……」

「仕方なく、身体から……だと!? 発想が野蛮すぎる。……やはり君のような人間にソラルを渡すわけにはいかないっ!」

 ユーゴ様が、再び剣を取る。


「許さん、許さんぞっ、ソラル! そもそもお前は俺のものだっ! お前をブチ犯すのは俺だけでいいっ!
……ソラルは絶対に渡さないっ!」

 ルイ王子が手にした魔法剣に、再び赤いオーラが宿る。


「待って、待ってください、ふたりとも!」

 俺はレオンをかばうように二人の前に立ち、両手を広げた。

「ソラル……」

「ソラルっ、そこをどけっ!」


「嫌ですっ! 俺、俺……、レオンが俺のこと思ってくれてるなんてまだ信じられないけど、
でも……っ」

 俺はレオンを振り返る。


「俺、レオンと結婚したい、です。
俺はずっと独身だと思ってたし、今まで生きてきて、こんな幸せが訪れることになるなんて、まだ信じられないけど……、
俺、レオンのプロポーズを受けます。
ルイ殿下、ユーゴ様……、今の俺があるのはお二人のおかげですっ!
俺はずっとお二人のこと尊敬していて、今も大好きです。だからっ、お二人には、レオンとの結婚を認めて欲しい!
認めてもらえると、すごく嬉しいっ!」


「「……!!!!!」」


「ソラルっ、好きだっ!!」

 レオンに後ろから思いっきり抱きしめられる。

「ぐぇ、苦し……」


「ぐはっ……」

 突然、ユーゴ様が血反吐を履いた。

 口を押さえた手から、少し血がもれている。


「ユーゴ様っ、大丈夫ですかっ!?」


 ーーやはり、さっきのレオンの攻撃のせいで……!!!


「ははっ、大丈夫、大丈夫……だよ、ちょっとびっくりした、だけ、だから。
そうか、そうなんだね。ソラルは、このジラール副団長のことが……」

 ユーゴ様は取り出した手巾で口元を拭い、剣をしまった。


「わかった。ソラル。……私は、ソラルの幸せをいつも願ってるよ。
もちろん、君たちのことは、祝福する、からね……」

 微笑むユーゴ様の口元から、ひとすじの血が流れている。


 そして、ルイ王子は、さっきから剣を握りしめたまま、微動だにしない。


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