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第28話 告白
しおりを挟む「君は……、ルイ殿下に勝てるとでも思っているのか? 無謀すぎる!」
ユーゴ様の言葉に、レオンは唇をゆがめる。
「ええ、そうでしょうね。かつて兄上に決闘を申し込まれ、第一騎士団長の座を追われたあなたは、兄上にかなうはずもない。
だが、俺は違う!」
レオンの魔法剣から、瞳と同じ色のオーラが放出された。
「レオン、最後の情けをかけてやる。
お前が俺に勝てるはずはない。ここでおとなしく引き下がれ。
そうすれば、命だけは助けてやる」
ルイ王子が、上半身を低くし狙いを定める。
「兄上、兄上は本当に義侠心に厚い立派な方だ。
でも、俺は兄上に謝らなければなりません。
……兄上、あなたは本当に俺より強いとでもお思いですか?」
「……どういう、意味だ」
「ああ、兄上は気づいていらっしゃらなかったのですね。
俺は手合わせの時、……ずっと、あなたに手加減をしていました。
俺が兄上より強いとわかったら、兄上のプライドをひどく傷つけてしまうと思って……。
それに、俺は兄上のように、自分の命を賭して、魔獣狩りなどしたくはなかった。
この国のために戦うつもりなど、最初からさらさらなかった。
だが、俺の実力を知れば、あの傲慢な王は兄上でなく、俺を第一騎士団長に任命するのは明らかだった。
だから……、俺はずっと弱いふりをしていた」
「……戯言をっ!」
「信じていただけないのなら、自らの剣で確かめてもらうしかありませんね……、ただ」
レオンは凪いだ湖面のような静かな瞳で、ルイ王子とユーゴ様を見た。
「兄上おひとりでは、あまりにも分が悪い。
どうでしょう? この際、あなた方お二人と決着をつけるというのは」
「君は……、ルイ王子と私の二人相手に勝てると思っているのか!?」
ユーゴ様が、ぎり、と歯ぎしりする。
レオンはほほ笑み、言った。
「ええ、もちろんです。
兄上、フランドル伯爵、俺は、あなた方二人に決闘を申し込みます。
俺が勝ったら、第一騎士団長には俺が就任する。
そして、--ソラルには金輪際手出しはさせない、いいですね!?」
「望むところだ。あとで後悔しても知らないぞ!」
ユーゴ様もその腰の長剣を抜いた。
「レオン、貴様ああああ! 俺を侮辱し、ソラルを弄んだ罪!!
今から、死ぬほど後悔させてやるっ!」
ルイ王子の剣からも、赤いオーラがほとばしる。
そんな二人を前に、レオンは動じず俺を振り返った。
そして静かに言った。
「ソラル、ちょっと下がってて。大丈夫、すぐに終わるから」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
本当に、決着は一瞬でついた。
レオンがその魔法剣を振りかざした瞬間、あのコカトリスを倒した時のように、あたりが青と緑のまばゆい光に包まれ、何も見えなくなった。
そして次の瞬間、俺が目にしたのは、部屋の床と壁に突き刺さっている、ルイ王子とユーゴ様のそれぞれの剣だった。
ユーゴ様は膝をつき、両手を地面についていた。ルイ王子は、しりもちをついた格好で茫然と目を見開いていた。
ーー真実、そこにいたレオン以外、何が起こったのかよくわかっていない状況だった。
「ひ、卑怯だっ! 魔法剣の力を使うのはっ!」
ユーゴ様が呻いた。
「どこが卑怯なのですか? 魔法剣を使えるということも才能のうち、ではありませんか?」
――その通りだった。
ルイ王子も魔法剣の使い手だ。だが、おそらく……、レオンの魔法剣の威力には遠く及ばないだろう。
俺は驚愕していた。レオンの持っていた力が、これほど強大だったことに。
使い道を間違えれば、国一つくらい簡単に滅ぼせるくらいの力だろう。
「それに……、もし剣技であなたたちを倒した場合、腕の一本や二本、落としてしまうことになるのですよ。
俺は、ソラルにそんな血生臭い場面は見せたくない」
「レオン……、どうして……」
ルイ王子がふらりと立ち上がった。まとめられていた髪はすべて下ろされ、頬から一筋、血が流れていた。
「俺は……、ソラルが欲しい。心の底から。
そのためには、第一騎士団長になる必要がある。……それだけです。
兄上には、申し訳ないと、思っています。でも……」
レオンは皮肉めいた笑みを浮かべる。
「兄上にだって、悪いことばかりではないと思いますよ。
もう魔獣との戦いに怯えて、夜も眠れなくなることはなくなる……。
俺は強いので、心配は無用です。
これからは、毎晩ぐっすりお休みになって、王族としての使命を果たしてください」
「……っ!」
ルイ王子の身体が小刻みに震えている。
「……くそっ、この俺が……っ、ここまで虚仮にされるとはっ! おいっ、ソラルっ!」
ルイ王子が燃えるような赤紫色の目で俺を見た。
「お前は、それで、いいのか!? この男に身をゆだねるのかっ!?」
「俺は……」
ユーゴ様が憐れむように俺を見た。
「ソラル、この男に脅されて無理やり従っているだけなんだろう?
こんな薬を使って無理やり犯すような男だ……、まともなはずがない。
ソラル、おいで! 私が全部……」
「うるさい! お前らだって同じようなものだっただろう!?
ソラルの良心につけこんで、まだ何も知らないソラルの身体を開いたフランドルも、第一騎士団長の任務に乗じて、ソラルを手籠めにした兄上も!!
……まだそんなおしゃべりができるとは、こんな攻撃ではまだ生ぬるかったか? 今度はとどめを刺してやる!」
レオンがまた、魔法剣を振りかざそうとする。
「待て レオン! もうやめるんだ!」
俺はルイ王子とユーゴ様の前に回り込んだ。
「ソラル、恐れることはない、お前の思っていることを言え!」
ルイ王子が俺に命ずる。
「そうだよ。ソラル、君は、君だけのために生きていいんだ!」
ユーゴ様の包み込むような微笑み。
「俺は……」
俺はぎゅっと拳を握り締める。俺は大きく息を吸い込んだ。
「俺は、俺は……っ、ずっと……、ずっとレオンのことが好きだったんだ!!!!」
「「「なんだって!?」」」
3人の声がそろった。
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