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第21話 疑惑の書簡
しおりを挟むーー緊急の案件あり。至急本部に来られたし。ただし、副団長には内密に。
俺が翌朝出勤すると、デスクにこんな奇妙な伝達文が届けられていた。
第6騎士団のほとんどの業務をレオンがこなしているのは騎士団の皆が知っているはずなので、副団長に内密に、というのが解せない。
ただ、騎士団長として呼び出しに応じないわけにはいかないので、俺は頭をひねりながらも本部に出向いたのだった。
そこで待ち構えていたのは、意外な人物だった。
「第6騎士団長、ソラル・デュポン! 前へ!」
本部の会議室にずらりと並んでいるのは、赤い制服に身を包んだ、全員がみごとに金髪碧眼の近衛師団員たち!
その中央部に立っているのは、泣く子も黙る近衛師団長だった。もちろん金髪碧眼。
ちなみに、王族の警備や身の回りのことを担当している近衛師団は、家柄と顔面がこれ以上なく良くないと採用されないという狭き門である。
よって、近衛師団員たちが揃ったこの部屋は、照明が倍になったのではないかというほどキラッキラしていた。
「ど、どうも、だ、第6騎士団長……、デュポン、です……」
田舎出身の俺はこのきらびやかな雰囲気に耐えきれず、思わずどもってしまった。
「貴殿を呼び出したのは他でもない。貴殿は先日、第3騎士団長のベフトォンにルイ殿下への手紙を託した。これに相違ないかっ!?」
「は、はいっ、相違ありませんっ」
俺が答えると、近衛師団長の傍らの団員が、手元の書類になりやら書き込み始めた。
ーーなに? 俺、なにか問題を起こした? もしかして俺は今、断罪されようとしているのか?
「そして、その手紙の書き出しはこうだ。『長らくの間ご無沙汰していて申し訳ありません。御子様もすっかり大きくなられたのでしょうね』、これに相違ないかっ!?」
「はいっ、相違ありません」
もしかしてルイ王子へ俺の書いた手紙が、不敬罪にあたるとか!? 俺は全身から血の気が引いていくのを感じた。
俺は農民出身だ。もちろん貴族様の手紙の詳しいルールなんかわからない。
「それはおかしいな。この書き出しが正しいとすれば、貴殿はルイ王子としばらく書簡のやり取りをしていなかったことになる。しかし、ルイ王子によるとつい先日まで、貴殿とルイ王子は頻繁に手紙のやり取りをしていたとのことだ」
「はっ……?」
しばらく、何を言われているのかわからなかった。
「デュポン団長、ルイ殿下は、急に貴殿から『ご無沙汰しています』と書簡が届いて、大変驚かれている。これがどういうことなのか、説明してもらおうかっ!」
「説明、と、言われましても……」
俺がルイ王子に手紙を書いたのは、おおよそ1年半ぶり。ルイ王子からさっぱり手紙が届かなくなっていたのは、きっと御子様も生まれ、すっかり俺のことなど忘れてグオルガで楽しく過ごされているせいだろうと思い込んでいた。
そのことを説明すると、近衛師団長は咳払いした。
「貴殿に嘘偽りを言っている様子はない。……とすると、誰かが貴殿になりかわって、ルイ殿下と書簡のやり取りを続けていた、ということになる。その人物に心当たりはあるか?」
「……」
心当たりは、あった。というか、こんなことができるのは、ただ一人。
ルイ王子への手紙を出すときも、レオンに丸投げにしていた俺……。
だが、レオンが俺になりかわってルイ王子と手紙のやり取りをして、一体なんの得があるのか?
もしやーー、敬愛する兄と、無能な団長である俺が交流を持つことに常々ムカついていたから、手紙のやり取りを邪魔するためにこんなまわりくどいことを!?
「まあ、いい。こちらでもだいたいの調べはついている。さて、デュポン団長、ルイ殿下からの御言葉だ。心して聞くように」
「はっ」
俺は片膝をつき、左胸に拳を当てた。
「『ソラル、貴様! 一体どういうことだ!? 俺を騙しておいてただで済むと思うなよ。次会うときは覚えておけよ、足腰立たなくなるくらいブチ犯してやるからな!』原文ママ、だ! 以上!」
「……っ」
俺はいったいどう反応したらいいんだ!?
「あとはこちらからの伝達事項だ。手紙の本文にあった「第6騎士団長の辞任」はルイ殿下により却下された。ただ、貴殿が事情を説明する機会を設けるため、ルイ殿下が直々に明日の夜、貴殿の自宅を訪問されるから都合をつけるように」
「あすの、夜?」
「ルイ殿下はすでにグオルガを出立されている。万難を排して殿下をお迎えするように。こちらからは以上だ。下がってくれ」
「……はっ」
会議室を退出した俺は、めまいを覚えた。
――いったい何がどうなっているんだ?
だが、愚鈍な俺にも明確にわかることがあった。
――ルイ王子が明日やってくる! 俺をブチ犯すために!!!!
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