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第17話 変わってしまった日常
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目が覚めると、そこは騎士団員専用の病室だった。
どうやら意識を失っている間に、俺は騎士団に帰還していたらしい。騎士団の治癒専門の精鋭部隊のおかげで、すでに傷はほぼ完治し、包帯もとれている状態だった。
俺の背中の傷はそこそこのものだったらしいが、レオンが魔力を流し続けてくれたおかげで大事にはいたらなかったらしい。
騎士団専属の医師からは、傷跡は残るかもしれないが、剣を振るのには支障がないこと、日常生活も特に問題なしと説明された。
病室で一晩泊まって、後遺症がないことが確認されると、俺は王都の自宅に戻り翌日からは通常通り騎士団へ出勤した。
だが……、
俺のよく知るはずの第6騎士団は、何かが変わってしまっていた。
「おはようございます。団長。お加減はもうよろしいのでしょうか?
このたびは私が付いていながら団長にけがを負わせてしまったこと、誠に申し訳なく思っております」
俺が団長室に入った途端にやってきたレオンは、まるでセリフでも読んでいるかのようにすらすらと俺にそう言った。
「え、ああ、もうすっかり大丈夫。もう痛くもないし、平気だよ。レオン、俺の方こそ、すまない。あと、あの、ありがとう。魔力を、流してくれて」
あの時のレオンとの濃厚な口づけが俺の脳裏によぎり、俺はちょっと赤くなった。だが、そんな俺をレオンはまるで気にもせずに、にっこりと笑ったのだ。
「いえ、副団長として当然のことをしたまでです。団長の回復の一助となり、何よりでした。しかし、今後はこのようなことのないよう、団長は遠征等の任務へのはご同行はおやめください」
俺はあっけにとられていた。
――なにか、なにかが、絶対におかしい。
こいつ、本当に、あのレオンなのか?
「……は、はい。あの、悪かった。結局、迷惑をかけることになってしまって……、それで君は……」
「さっそくですが、決裁を頂きたい書類がたまっております。お願いできますでしょうか?」
これ以上このことについて話すことはない、とばかりにレオンは話題を変えた。
「は、はい、すぐに……」
俺が席につくと、レオンはほほ笑みを浮かべたまま、俺のデスクに膨大な量の書類をどさりと置いた。
「午前中にお願いいたします。のちほど受け取りにまいります」
「はい……」
俺はレオンが退出したあとの扉をしばらく茫然と見つめていた。
それからも、レオンの態度はずっとおかしかった。
もちろん、第6騎士団の業務はいつも通り完璧にこなしている。だが、あの張り付いたようなレオンの笑みに、俺は強烈な違和感を感じていた。
レオンはもともと喜怒哀楽を顏に出すタイプではないが、あんなふうに愛想笑いをするような人間でもなかった。
それが俺が怪我をしてからというもの、レオンの俺への態度は「慇懃無礼」という言葉がぴったりなものに変わった。
今までは冷めたような視線を向けられていたとしても、なんだかんだいってレオンは俺の世話をやいてくれていた。そこには俺とレオンだけの絆みたいなものがあった……はずなのに!
かといって俺にはどうすることもできなかった。
俺の昼食には、ジラール家の執事がランチの入ったバスケットを届けてくれるようになり、週末にはジラール家から俺の家に豪華な食事が届けられた。
――だがそこにクアス料理が登場することは、一度もなかった。
レオンの態度が変わってから、半月ほどがたった。表面上は、俺たちは団長・副団長としてうまくやっていた。俺はずっとあの時のことについてレオンと話したかった。だが、俺が私的な話をしようとすると、レオンは全身で拒絶の態度を示した。もちろん弱腰な俺は、そんなレオンに強く出ることなどできず、日々もんもんとすごしていた。
第6騎士団長としては、順風満帆な日々だった。仕事は何のトラブルもなく、実家への仕送りも続けている。ルイ王子に言いつけられた手前か、レオンは俺が日々の生活に困らないように細々したサポートも続けてくれてはいた。
だが、俺は心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような、いいようのないむなしさを覚えていた。
そして気づいた。俺の人生のなかで、レオンという存在がどれほど大きくなっていたかということに。
だが……、すべては手遅れだった。
俺はついに目の当たりにしてしまったのだ。
レオンの心に巣くっていた恐ろしい計画の一端を……。
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どうやら意識を失っている間に、俺は騎士団に帰還していたらしい。騎士団の治癒専門の精鋭部隊のおかげで、すでに傷はほぼ完治し、包帯もとれている状態だった。
俺の背中の傷はそこそこのものだったらしいが、レオンが魔力を流し続けてくれたおかげで大事にはいたらなかったらしい。
騎士団専属の医師からは、傷跡は残るかもしれないが、剣を振るのには支障がないこと、日常生活も特に問題なしと説明された。
病室で一晩泊まって、後遺症がないことが確認されると、俺は王都の自宅に戻り翌日からは通常通り騎士団へ出勤した。
だが……、
俺のよく知るはずの第6騎士団は、何かが変わってしまっていた。
「おはようございます。団長。お加減はもうよろしいのでしょうか?
このたびは私が付いていながら団長にけがを負わせてしまったこと、誠に申し訳なく思っております」
俺が団長室に入った途端にやってきたレオンは、まるでセリフでも読んでいるかのようにすらすらと俺にそう言った。
「え、ああ、もうすっかり大丈夫。もう痛くもないし、平気だよ。レオン、俺の方こそ、すまない。あと、あの、ありがとう。魔力を、流してくれて」
あの時のレオンとの濃厚な口づけが俺の脳裏によぎり、俺はちょっと赤くなった。だが、そんな俺をレオンはまるで気にもせずに、にっこりと笑ったのだ。
「いえ、副団長として当然のことをしたまでです。団長の回復の一助となり、何よりでした。しかし、今後はこのようなことのないよう、団長は遠征等の任務へのはご同行はおやめください」
俺はあっけにとられていた。
――なにか、なにかが、絶対におかしい。
こいつ、本当に、あのレオンなのか?
「……は、はい。あの、悪かった。結局、迷惑をかけることになってしまって……、それで君は……」
「さっそくですが、決裁を頂きたい書類がたまっております。お願いできますでしょうか?」
これ以上このことについて話すことはない、とばかりにレオンは話題を変えた。
「は、はい、すぐに……」
俺が席につくと、レオンはほほ笑みを浮かべたまま、俺のデスクに膨大な量の書類をどさりと置いた。
「午前中にお願いいたします。のちほど受け取りにまいります」
「はい……」
俺はレオンが退出したあとの扉をしばらく茫然と見つめていた。
それからも、レオンの態度はずっとおかしかった。
もちろん、第6騎士団の業務はいつも通り完璧にこなしている。だが、あの張り付いたようなレオンの笑みに、俺は強烈な違和感を感じていた。
レオンはもともと喜怒哀楽を顏に出すタイプではないが、あんなふうに愛想笑いをするような人間でもなかった。
それが俺が怪我をしてからというもの、レオンの俺への態度は「慇懃無礼」という言葉がぴったりなものに変わった。
今までは冷めたような視線を向けられていたとしても、なんだかんだいってレオンは俺の世話をやいてくれていた。そこには俺とレオンだけの絆みたいなものがあった……はずなのに!
かといって俺にはどうすることもできなかった。
俺の昼食には、ジラール家の執事がランチの入ったバスケットを届けてくれるようになり、週末にはジラール家から俺の家に豪華な食事が届けられた。
――だがそこにクアス料理が登場することは、一度もなかった。
レオンの態度が変わってから、半月ほどがたった。表面上は、俺たちは団長・副団長としてうまくやっていた。俺はずっとあの時のことについてレオンと話したかった。だが、俺が私的な話をしようとすると、レオンは全身で拒絶の態度を示した。もちろん弱腰な俺は、そんなレオンに強く出ることなどできず、日々もんもんとすごしていた。
第6騎士団長としては、順風満帆な日々だった。仕事は何のトラブルもなく、実家への仕送りも続けている。ルイ王子に言いつけられた手前か、レオンは俺が日々の生活に困らないように細々したサポートも続けてくれてはいた。
だが、俺は心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような、いいようのないむなしさを覚えていた。
そして気づいた。俺の人生のなかで、レオンという存在がどれほど大きくなっていたかということに。
だが……、すべては手遅れだった。
俺はついに目の当たりにしてしまったのだ。
レオンの心に巣くっていた恐ろしい計画の一端を……。
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