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第13話 船酔いと感じた違和感
しおりを挟む それは、またしても俺の迂闊さが引き起こした事態だった。
「いいなあ、護衛で南の島かあ! 俺も行ってみたいものだなー」
お飾り団長であることは周知の事実である俺。
もちろん重要な業務は、副団長のレオンがほとんど担当している。
この時の、他国の王族の護衛もその一つ。
我が国を来訪していた王族を第6騎士団が護衛して、南の島の本国にお送りする任務だ。
「……行きますか? 一緒に」
秋服に変わった騎士団の青い制服をこれ以上なく美しく着こなしたレオンが、俺をちらりと見て言った。
「だよなあ、俺なんかがいても、足手まといもいいとこだし……って、なに? 今何か言った?」
「あそこは穏やかな気候ですし、今のところ海も荒れていませんし、魔獣たちもおとなしくしている時期です。
団長が物見遊山でついてきたとしても、特に危険はないでしょう」
「え、俺も行ってもいいの? 本当に!?」
お察しのとおり、田舎から出てきた俺は旅行などしたこともない。南の島という言葉に、俺の胸は躍った。
そして、旅行……ではなく出張のための準備もすべてレオンに丸投げした俺は、意気揚々と南の島へ向けて出発したのであるが……。
「う、うげ、ぎ、ぎもち、わるい……」
船に乗って早々、俺はさっそくレオンに迷惑をかけていた。
乗船してしばらくははしゃいでいた俺だったが、気づくと重度の船酔いをしていたのだ。
船の欄干にぐったりと身を預けている俺。
「さきほどから食べ過ぎです! いいですか? ちょっと衣服を緩めますよ」
ずっと背中をさすってくれているレオンが、俺の騎士団の制服に手をかける。
――船酔いがこんなに厳しいものだとは知らなかった!!!
「うっ…‥、ごめ、ん、迷惑かけて……」
「いえ……」
シャツのボタンをはずそうとするひんやりとしたレオンの指が、俺の首筋に触れた。
「ん……」
「身体が、熱いですね。熱が出ているかもしれません」
そう言って、シャツの中に入ったレオンの手のひらが俺の鎖骨を撫でた。
「んあっ、あ、ちょっと……」
「……船乗りによると、薄荷油をみぞおちのあたりに塗るとすっとして、ずいぶん気分が楽になるらしいですよ」
「ああ、たしかに、気持ちよさそう……」
「では、試しますか」
冷静な口調で、レオンはどこからか取り出した小瓶の中の液体を、自分の手のひらに広げた。
「え!? あ!? ちょっ……」
知らぬ間に全開にされていたシャツのボタン。
レオンはシャツを開いて俺の肌をあらわにすると、当然のようにその手のひらで俺の胸を撫でた。
後ろから、まるで抱きしめられているような恰好で、レオンの手が俺の裸の胸をすべっていく。
「あっ、レオン、もうっ、いいっ、から! 大丈夫、俺が、自分で…‥」
「どうですか? すっとしてきましたか? 気持ちがいい?」
慌てる俺に対して、まるで落ち着いているレオンの声音。
「あっ、やめっ、も…‥‥、そこはっ、違うっ、から! ひゃっ!」
レオンの指先が、俺の乳首にかかる。
とたんに、しばらく忘れていた、欲望の火が俺の身体にともる。
「ここ、ですか? 何が、違うの、かな?」
耳元で囁かれると、がくんと腰の力が抜けた。
「やあっ、そこっ、触るなっ、駄目っ、だめ、だから……っ!」
「暴れないで。これを塗ると楽になりますから。……ね?」
「はっ、あ、ああんっ、やだっ、そこ、ばっかり……、もう、塗りおわった、だろ! もうっ、やっ、つまむなぁ……
あ、あっ」
ビクビクと身体が跳ねる。
耳元の含み笑い。絶対、わざと、わかってやっている!
「もう、や、だめ……、レオン、お願い……、あっ……!」
このままだとイってしまう。
――こんなところ、誰にも見られたくない。
――部下に、胸をいじられただけでこんなにも反応してしまう俺のこと、誰にも知られたくない。
「あ、本当にっ! やっ、やだから、お願い、お願いっ、レオンっ!!」
気づくと、俺の頬には涙が伝っていた。
レオンははっとしたように手を離した。
「すみません。調子に乗りすぎました」
手のひらを手巾で拭くと、素早く俺の衣服を整える。
「……しばらくそこで休んでいてください。俺は巡回してきます」
「……」
俺は本当に愚鈍な団長だった。
この時なぜレオンがこんなことをしたのか――、俺は深く考えることを放棄した。
これは騎士団員のなかでよくあるような、男同士の単なるおふざけだと、俺は自分に言い聞かせた。
レオンがおふざけでそんなことをするような人間でないことは、俺が一番よくわかっていたはずなのに……。
でも、俺はその都合の悪い事実から目を背けた。
そのことが、事態をますます悪化させることになるなんて、思いもせずに。
・・・・・・・・・・・・・・・・
~船乗りの話~
「薄荷油はさァ、みぞおちじゃなくって眉間に塗るもんなんだよなァ~、
あの副団長さん、ぜんっぜん人の話を聞いちゃいねえんだよなあ~」
「いいなあ、護衛で南の島かあ! 俺も行ってみたいものだなー」
お飾り団長であることは周知の事実である俺。
もちろん重要な業務は、副団長のレオンがほとんど担当している。
この時の、他国の王族の護衛もその一つ。
我が国を来訪していた王族を第6騎士団が護衛して、南の島の本国にお送りする任務だ。
「……行きますか? 一緒に」
秋服に変わった騎士団の青い制服をこれ以上なく美しく着こなしたレオンが、俺をちらりと見て言った。
「だよなあ、俺なんかがいても、足手まといもいいとこだし……って、なに? 今何か言った?」
「あそこは穏やかな気候ですし、今のところ海も荒れていませんし、魔獣たちもおとなしくしている時期です。
団長が物見遊山でついてきたとしても、特に危険はないでしょう」
「え、俺も行ってもいいの? 本当に!?」
お察しのとおり、田舎から出てきた俺は旅行などしたこともない。南の島という言葉に、俺の胸は躍った。
そして、旅行……ではなく出張のための準備もすべてレオンに丸投げした俺は、意気揚々と南の島へ向けて出発したのであるが……。
「う、うげ、ぎ、ぎもち、わるい……」
船に乗って早々、俺はさっそくレオンに迷惑をかけていた。
乗船してしばらくははしゃいでいた俺だったが、気づくと重度の船酔いをしていたのだ。
船の欄干にぐったりと身を預けている俺。
「さきほどから食べ過ぎです! いいですか? ちょっと衣服を緩めますよ」
ずっと背中をさすってくれているレオンが、俺の騎士団の制服に手をかける。
――船酔いがこんなに厳しいものだとは知らなかった!!!
「うっ…‥、ごめ、ん、迷惑かけて……」
「いえ……」
シャツのボタンをはずそうとするひんやりとしたレオンの指が、俺の首筋に触れた。
「ん……」
「身体が、熱いですね。熱が出ているかもしれません」
そう言って、シャツの中に入ったレオンの手のひらが俺の鎖骨を撫でた。
「んあっ、あ、ちょっと……」
「……船乗りによると、薄荷油をみぞおちのあたりに塗るとすっとして、ずいぶん気分が楽になるらしいですよ」
「ああ、たしかに、気持ちよさそう……」
「では、試しますか」
冷静な口調で、レオンはどこからか取り出した小瓶の中の液体を、自分の手のひらに広げた。
「え!? あ!? ちょっ……」
知らぬ間に全開にされていたシャツのボタン。
レオンはシャツを開いて俺の肌をあらわにすると、当然のようにその手のひらで俺の胸を撫でた。
後ろから、まるで抱きしめられているような恰好で、レオンの手が俺の裸の胸をすべっていく。
「あっ、レオン、もうっ、いいっ、から! 大丈夫、俺が、自分で…‥」
「どうですか? すっとしてきましたか? 気持ちがいい?」
慌てる俺に対して、まるで落ち着いているレオンの声音。
「あっ、やめっ、も…‥‥、そこはっ、違うっ、から! ひゃっ!」
レオンの指先が、俺の乳首にかかる。
とたんに、しばらく忘れていた、欲望の火が俺の身体にともる。
「ここ、ですか? 何が、違うの、かな?」
耳元で囁かれると、がくんと腰の力が抜けた。
「やあっ、そこっ、触るなっ、駄目っ、だめ、だから……っ!」
「暴れないで。これを塗ると楽になりますから。……ね?」
「はっ、あ、ああんっ、やだっ、そこ、ばっかり……、もう、塗りおわった、だろ! もうっ、やっ、つまむなぁ……
あ、あっ」
ビクビクと身体が跳ねる。
耳元の含み笑い。絶対、わざと、わかってやっている!
「もう、や、だめ……、レオン、お願い……、あっ……!」
このままだとイってしまう。
――こんなところ、誰にも見られたくない。
――部下に、胸をいじられただけでこんなにも反応してしまう俺のこと、誰にも知られたくない。
「あ、本当にっ! やっ、やだから、お願い、お願いっ、レオンっ!!」
気づくと、俺の頬には涙が伝っていた。
レオンははっとしたように手を離した。
「すみません。調子に乗りすぎました」
手のひらを手巾で拭くと、素早く俺の衣服を整える。
「……しばらくそこで休んでいてください。俺は巡回してきます」
「……」
俺は本当に愚鈍な団長だった。
この時なぜレオンがこんなことをしたのか――、俺は深く考えることを放棄した。
これは騎士団員のなかでよくあるような、男同士の単なるおふざけだと、俺は自分に言い聞かせた。
レオンがおふざけでそんなことをするような人間でないことは、俺が一番よくわかっていたはずなのに……。
でも、俺はその都合の悪い事実から目を背けた。
そのことが、事態をますます悪化させることになるなんて、思いもせずに。
・・・・・・・・・・・・・・・・
~船乗りの話~
「薄荷油はさァ、みぞおちじゃなくって眉間に塗るもんなんだよなァ~、
あの副団長さん、ぜんっぜん人の話を聞いちゃいねえんだよなあ~」
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