10 / 43
第10話 手のかかりすぎる男
しおりを挟む
「はあ……、それは……、その……」
「騎士団長として、十分な給金は得ているはずですっ!
それをあなたは、いったい何に使っているんですかっ!?
まさか、人に言えないような……」
「違う、断じて、違う!
俺は、実家に仕送りをしていただけなんだっ!!!」
「実家に……?」
レオンはイラついた表情で俺を見る。
「そう。俺の家って農家なんだ! 農家って、意外に元手がかかるものなんだよ。
大型機械やら、肥料やら、種やら、なんでも結構高くって!
今まではそれをみんな借金して役所から借りてたんだけど、俺が仕送りすれば、新しい機械とかがまるっと買えるんだよね。で、それを村のみんなで使いまわして収穫すれば、今までの借金もなくなって、村のみんなも豊かに……、なるから……」
最後の方、俺の声はだんだん小さくなる。
レオンはふぅーっと息をついた。
「団長のご実家の話はよく分かりました。
が、それとこれとは話は別です!」
レオンは掴んだ俺の手首を軽くひねる。
「痛っ、いたたた!」
「団員から聞きました。昼食は毎日のように黒パンのみらしいですね。
この家の様子からも、あなたが日ごろ十分な食事をしていないのは明らかです。
それについてはどう説明されますか!?」
「そ、それは……」
18まで実家暮らしで、食事についてよく考えたことはなかった。腹が減れば、畑の大根を抜いて生のまま食べていたような生活だ。
王都に出てきてからは、ユーゴ様のもとにやっかいになっていたため、黙っていても豪華な食事が目の前に出てくる状況だった。そして、騎士団に所属してからは宿舎で提供されるボリューム満点・栄養満点の食事を当たり前のようにとっていた。
ルイ王子は大きな誤解をしていた。残された俺のことを考え、これ以上なく豪華な屋敷を提供してくれてはいたが、まさか俺がここまで自分で身の回りのことをできないやつだとは思っていなかったのだろう。
――そう、俺は、生活能力が皆無の男だった。
俺は――、騎士団長になってから、今までで一番生活環境が悪くなっていたのだ!!
「もしかして……兄上に、逢えないからですか?」
黙ってしまった俺に、レオンは低く聞いた。
「へ?」
「兄上恋しさのあまり、あなたは、こんなに、やつれて……」
ギリ、とレオンは歯ぎしりする。
「いやっ、違う、違う! そういうことじゃない!」
俺は首を振る。
「ほら、俺は農家出身の平民だろう? 王都のものって、なにもかも高級すぎて、俺の感覚とは合わないんだよ!
俺だって最初は、家の中のものをそろえようとしたんだ。でも、高価なラグを買うくらいなら、妹たちに綺麗なドレスを買ってやりたいし、俺が一人で豪華な食事をするより、兄弟に肉を腹いっぱい食べさせてやりたくて……。俺は、黒パンを食っておけばそれなりに腹は膨れるし……、料理してくれる人を雇うことも考えたけど、そもそも平民の俺が王都のお嬢さんをメイドとして雇うだなんて、おこがましくて…‥」
それに、ルイ王子からは、寂しく思う間もないくらい、鬱陶しいくらい頻繁に手紙が届いていた。王族なので他国にいても1日で届く魔法便が使い放題!!俺が返事を怠ると、重ねて怒りの手紙が鬼のように毎日届く始末。
しかも以前送った手紙に俺が書いた『私はとても元気でやっておりますからご心配なく』の一文がルイ王子の逆鱗に触れたらしく、それ以降俺は『早く殿下にお会いしたいです。一日千秋の思いで待っております』と毎回手紙を締めくくらなければならなくなっていた。
レオンは俺の手首を離すと、もう一度ふうーっと息を吐いた。
「……あなたのことは、よく、わかりました。
しかし、このままで済ますわけにはいきません!」
立ちあがると、レオンはあの宝石のようは瞳でギロリと俺を見下ろした。
そして、おもむろに騎士団の制服の上着を脱ぎ、シャツだけになると腕まくりをした。
「俺は兄上にあなたの監視をまかされているんです。あなたがこんな生活をして野垂れ死ぬようなことがあっては、兄上に顔向けできません。兄上のせいで食欲がないわけではないのなら、今からでも食事はできますね!?」
「は、はいっ、もちろん……っ、です」
――なぜこいつの前では、俺はこうも卑屈になってしまうのか。
「騎士団長として、十分な給金は得ているはずですっ!
それをあなたは、いったい何に使っているんですかっ!?
まさか、人に言えないような……」
「違う、断じて、違う!
俺は、実家に仕送りをしていただけなんだっ!!!」
「実家に……?」
レオンはイラついた表情で俺を見る。
「そう。俺の家って農家なんだ! 農家って、意外に元手がかかるものなんだよ。
大型機械やら、肥料やら、種やら、なんでも結構高くって!
今まではそれをみんな借金して役所から借りてたんだけど、俺が仕送りすれば、新しい機械とかがまるっと買えるんだよね。で、それを村のみんなで使いまわして収穫すれば、今までの借金もなくなって、村のみんなも豊かに……、なるから……」
最後の方、俺の声はだんだん小さくなる。
レオンはふぅーっと息をついた。
「団長のご実家の話はよく分かりました。
が、それとこれとは話は別です!」
レオンは掴んだ俺の手首を軽くひねる。
「痛っ、いたたた!」
「団員から聞きました。昼食は毎日のように黒パンのみらしいですね。
この家の様子からも、あなたが日ごろ十分な食事をしていないのは明らかです。
それについてはどう説明されますか!?」
「そ、それは……」
18まで実家暮らしで、食事についてよく考えたことはなかった。腹が減れば、畑の大根を抜いて生のまま食べていたような生活だ。
王都に出てきてからは、ユーゴ様のもとにやっかいになっていたため、黙っていても豪華な食事が目の前に出てくる状況だった。そして、騎士団に所属してからは宿舎で提供されるボリューム満点・栄養満点の食事を当たり前のようにとっていた。
ルイ王子は大きな誤解をしていた。残された俺のことを考え、これ以上なく豪華な屋敷を提供してくれてはいたが、まさか俺がここまで自分で身の回りのことをできないやつだとは思っていなかったのだろう。
――そう、俺は、生活能力が皆無の男だった。
俺は――、騎士団長になってから、今までで一番生活環境が悪くなっていたのだ!!
「もしかして……兄上に、逢えないからですか?」
黙ってしまった俺に、レオンは低く聞いた。
「へ?」
「兄上恋しさのあまり、あなたは、こんなに、やつれて……」
ギリ、とレオンは歯ぎしりする。
「いやっ、違う、違う! そういうことじゃない!」
俺は首を振る。
「ほら、俺は農家出身の平民だろう? 王都のものって、なにもかも高級すぎて、俺の感覚とは合わないんだよ!
俺だって最初は、家の中のものをそろえようとしたんだ。でも、高価なラグを買うくらいなら、妹たちに綺麗なドレスを買ってやりたいし、俺が一人で豪華な食事をするより、兄弟に肉を腹いっぱい食べさせてやりたくて……。俺は、黒パンを食っておけばそれなりに腹は膨れるし……、料理してくれる人を雇うことも考えたけど、そもそも平民の俺が王都のお嬢さんをメイドとして雇うだなんて、おこがましくて…‥」
それに、ルイ王子からは、寂しく思う間もないくらい、鬱陶しいくらい頻繁に手紙が届いていた。王族なので他国にいても1日で届く魔法便が使い放題!!俺が返事を怠ると、重ねて怒りの手紙が鬼のように毎日届く始末。
しかも以前送った手紙に俺が書いた『私はとても元気でやっておりますからご心配なく』の一文がルイ王子の逆鱗に触れたらしく、それ以降俺は『早く殿下にお会いしたいです。一日千秋の思いで待っております』と毎回手紙を締めくくらなければならなくなっていた。
レオンは俺の手首を離すと、もう一度ふうーっと息を吐いた。
「……あなたのことは、よく、わかりました。
しかし、このままで済ますわけにはいきません!」
立ちあがると、レオンはあの宝石のようは瞳でギロリと俺を見下ろした。
そして、おもむろに騎士団の制服の上着を脱ぎ、シャツだけになると腕まくりをした。
「俺は兄上にあなたの監視をまかされているんです。あなたがこんな生活をして野垂れ死ぬようなことがあっては、兄上に顔向けできません。兄上のせいで食欲がないわけではないのなら、今からでも食事はできますね!?」
「は、はいっ、もちろん……っ、です」
――なぜこいつの前では、俺はこうも卑屈になってしまうのか。
131
お気に入りに追加
1,731
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
絶対抱かれない花嫁と呪われた後宮
あさ田ぱん
BL
ヴァレリー侯爵家の八男、アルノー・ヴァレリーはもうすぐ二十一歳になる善良かつ真面目な男だ。しかし八男のため王立学校卒業後は教会に行儀見習いにだされてしまう。一年半が経過したころ、父親が訪ねて来て、突然イリエス・ファイエット国王陛下との縁談が決まったと告げられる。イリエス・ファイエット国王陛下の妃たちは不治の病のため相次いで亡くなっており、その後宮は「呪われた後宮」と呼ばれている。なんでも、嫉妬深い王妃が後宮の妃たちを「世継ぎを産ませてなるものか」と呪って死んだのだとか...。アルノーは男で、かわいらしくもないので「呪われないだろう」という理由で花嫁に選ばれたのだ。自尊心を傷つけられ似合わない花嫁衣装に落ち込んでいると、イリエス・ファイエット国王陛下からは「お前を愛するつもりはない。」と宣言されてしまい...?!
※R-18 は終盤になります
※ゆるっとファンタジー世界ですが魔法はありません。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結】あなたの妻(Ω)辞めます!
MEIKO
BL
本編完結しています。Ωの涼はある日、政略結婚の相手のα夫の直哉の浮気現場を目撃してしまう。形だけの夫婦だったけれど自分だけは愛していた┉。夫の裏切りに傷付き、そして別れを決意する。あなたの妻(Ω)辞めます!
すれ違い夫婦&オメガバース恋愛。
※少々独自のオメガバース設定あります
(R18対象話には*マーク付けますのでお気を付け下さい。)
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる