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第10話 手のかかりすぎる男
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「はあ……、それは……、その……」
「騎士団長として、十分な給金は得ているはずですっ!
それをあなたは、いったい何に使っているんですかっ!?
まさか、人に言えないような……」
「違う、断じて、違う!
俺は、実家に仕送りをしていただけなんだっ!!!」
「実家に……?」
レオンはイラついた表情で俺を見る。
「そう。俺の家って農家なんだ! 農家って、意外に元手がかかるものなんだよ。
大型機械やら、肥料やら、種やら、なんでも結構高くって!
今まではそれをみんな借金して役所から借りてたんだけど、俺が仕送りすれば、新しい機械とかがまるっと買えるんだよね。で、それを村のみんなで使いまわして収穫すれば、今までの借金もなくなって、村のみんなも豊かに……、なるから……」
最後の方、俺の声はだんだん小さくなる。
レオンはふぅーっと息をついた。
「団長のご実家の話はよく分かりました。
が、それとこれとは話は別です!」
レオンは掴んだ俺の手首を軽くひねる。
「痛っ、いたたた!」
「団員から聞きました。昼食は毎日のように黒パンのみらしいですね。
この家の様子からも、あなたが日ごろ十分な食事をしていないのは明らかです。
それについてはどう説明されますか!?」
「そ、それは……」
18まで実家暮らしで、食事についてよく考えたことはなかった。腹が減れば、畑の大根を抜いて生のまま食べていたような生活だ。
王都に出てきてからは、ユーゴ様のもとにやっかいになっていたため、黙っていても豪華な食事が目の前に出てくる状況だった。そして、騎士団に所属してからは宿舎で提供されるボリューム満点・栄養満点の食事を当たり前のようにとっていた。
ルイ王子は大きな誤解をしていた。残された俺のことを考え、これ以上なく豪華な屋敷を提供してくれてはいたが、まさか俺がここまで自分で身の回りのことをできないやつだとは思っていなかったのだろう。
――そう、俺は、生活能力が皆無の男だった。
俺は――、騎士団長になってから、今までで一番生活環境が悪くなっていたのだ!!
「もしかして……兄上に、逢えないからですか?」
黙ってしまった俺に、レオンは低く聞いた。
「へ?」
「兄上恋しさのあまり、あなたは、こんなに、やつれて……」
ギリ、とレオンは歯ぎしりする。
「いやっ、違う、違う! そういうことじゃない!」
俺は首を振る。
「ほら、俺は農家出身の平民だろう? 王都のものって、なにもかも高級すぎて、俺の感覚とは合わないんだよ!
俺だって最初は、家の中のものをそろえようとしたんだ。でも、高価なラグを買うくらいなら、妹たちに綺麗なドレスを買ってやりたいし、俺が一人で豪華な食事をするより、兄弟に肉を腹いっぱい食べさせてやりたくて……。俺は、黒パンを食っておけばそれなりに腹は膨れるし……、料理してくれる人を雇うことも考えたけど、そもそも平民の俺が王都のお嬢さんをメイドとして雇うだなんて、おこがましくて…‥」
それに、ルイ王子からは、寂しく思う間もないくらい、鬱陶しいくらい頻繁に手紙が届いていた。王族なので他国にいても1日で届く魔法便が使い放題!!俺が返事を怠ると、重ねて怒りの手紙が鬼のように毎日届く始末。
しかも以前送った手紙に俺が書いた『私はとても元気でやっておりますからご心配なく』の一文がルイ王子の逆鱗に触れたらしく、それ以降俺は『早く殿下にお会いしたいです。一日千秋の思いで待っております』と毎回手紙を締めくくらなければならなくなっていた。
レオンは俺の手首を離すと、もう一度ふうーっと息を吐いた。
「……あなたのことは、よく、わかりました。
しかし、このままで済ますわけにはいきません!」
立ちあがると、レオンはあの宝石のようは瞳でギロリと俺を見下ろした。
そして、おもむろに騎士団の制服の上着を脱ぎ、シャツだけになると腕まくりをした。
「俺は兄上にあなたの監視をまかされているんです。あなたがこんな生活をして野垂れ死ぬようなことがあっては、兄上に顔向けできません。兄上のせいで食欲がないわけではないのなら、今からでも食事はできますね!?」
「は、はいっ、もちろん……っ、です」
――なぜこいつの前では、俺はこうも卑屈になってしまうのか。
「騎士団長として、十分な給金は得ているはずですっ!
それをあなたは、いったい何に使っているんですかっ!?
まさか、人に言えないような……」
「違う、断じて、違う!
俺は、実家に仕送りをしていただけなんだっ!!!」
「実家に……?」
レオンはイラついた表情で俺を見る。
「そう。俺の家って農家なんだ! 農家って、意外に元手がかかるものなんだよ。
大型機械やら、肥料やら、種やら、なんでも結構高くって!
今まではそれをみんな借金して役所から借りてたんだけど、俺が仕送りすれば、新しい機械とかがまるっと買えるんだよね。で、それを村のみんなで使いまわして収穫すれば、今までの借金もなくなって、村のみんなも豊かに……、なるから……」
最後の方、俺の声はだんだん小さくなる。
レオンはふぅーっと息をついた。
「団長のご実家の話はよく分かりました。
が、それとこれとは話は別です!」
レオンは掴んだ俺の手首を軽くひねる。
「痛っ、いたたた!」
「団員から聞きました。昼食は毎日のように黒パンのみらしいですね。
この家の様子からも、あなたが日ごろ十分な食事をしていないのは明らかです。
それについてはどう説明されますか!?」
「そ、それは……」
18まで実家暮らしで、食事についてよく考えたことはなかった。腹が減れば、畑の大根を抜いて生のまま食べていたような生活だ。
王都に出てきてからは、ユーゴ様のもとにやっかいになっていたため、黙っていても豪華な食事が目の前に出てくる状況だった。そして、騎士団に所属してからは宿舎で提供されるボリューム満点・栄養満点の食事を当たり前のようにとっていた。
ルイ王子は大きな誤解をしていた。残された俺のことを考え、これ以上なく豪華な屋敷を提供してくれてはいたが、まさか俺がここまで自分で身の回りのことをできないやつだとは思っていなかったのだろう。
――そう、俺は、生活能力が皆無の男だった。
俺は――、騎士団長になってから、今までで一番生活環境が悪くなっていたのだ!!
「もしかして……兄上に、逢えないからですか?」
黙ってしまった俺に、レオンは低く聞いた。
「へ?」
「兄上恋しさのあまり、あなたは、こんなに、やつれて……」
ギリ、とレオンは歯ぎしりする。
「いやっ、違う、違う! そういうことじゃない!」
俺は首を振る。
「ほら、俺は農家出身の平民だろう? 王都のものって、なにもかも高級すぎて、俺の感覚とは合わないんだよ!
俺だって最初は、家の中のものをそろえようとしたんだ。でも、高価なラグを買うくらいなら、妹たちに綺麗なドレスを買ってやりたいし、俺が一人で豪華な食事をするより、兄弟に肉を腹いっぱい食べさせてやりたくて……。俺は、黒パンを食っておけばそれなりに腹は膨れるし……、料理してくれる人を雇うことも考えたけど、そもそも平民の俺が王都のお嬢さんをメイドとして雇うだなんて、おこがましくて…‥」
それに、ルイ王子からは、寂しく思う間もないくらい、鬱陶しいくらい頻繁に手紙が届いていた。王族なので他国にいても1日で届く魔法便が使い放題!!俺が返事を怠ると、重ねて怒りの手紙が鬼のように毎日届く始末。
しかも以前送った手紙に俺が書いた『私はとても元気でやっておりますからご心配なく』の一文がルイ王子の逆鱗に触れたらしく、それ以降俺は『早く殿下にお会いしたいです。一日千秋の思いで待っております』と毎回手紙を締めくくらなければならなくなっていた。
レオンは俺の手首を離すと、もう一度ふうーっと息を吐いた。
「……あなたのことは、よく、わかりました。
しかし、このままで済ますわけにはいきません!」
立ちあがると、レオンはあの宝石のようは瞳でギロリと俺を見下ろした。
そして、おもむろに騎士団の制服の上着を脱ぎ、シャツだけになると腕まくりをした。
「俺は兄上にあなたの監視をまかされているんです。あなたがこんな生活をして野垂れ死ぬようなことがあっては、兄上に顔向けできません。兄上のせいで食欲がないわけではないのなら、今からでも食事はできますね!?」
「は、はいっ、もちろん……っ、です」
――なぜこいつの前では、俺はこうも卑屈になってしまうのか。
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