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第9話 レオン・ジラールという男
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ルイ王子がグオルガへと旅立った後、第一騎士団長の椅子は空席のままとなった。
そして、ルイ王子は去り際に王命を出し、騎士団員たちの乱れた風紀を一掃したのだった。
「これでソラルに手を出そうとする不届きものは、全員牢獄につなぐことができるな! おいそれと第6騎士団長に手を出そうという輩もいなくなるだろう。安心安心!!」
晴れ晴れと笑うルイ王子だったが、そもそも騎士団長としての立場を利用し、俺を手籠めにした張本人はルイ王子ではなかったのだろうか……? 理解に苦しむ。
だが、結果的に、新入団した年若い団員や、従騎士、小姓たちが、年嵩の騎士たちに尻を狙われるという悪しき習慣はなくなり、騎士団は今までになくクリーンな労働環境となったのだった。
そして俺は、騎士団長となったことで、王都の一等地にある豪華な屋敷に引っ越すこととなった。もちろん、ルイ王子から下賜されたものだ。
だが、もともと農村出身の俺。大家族でせせこましく暮らすのが当たり前だった俺が、一人豪華な屋敷でぽつんといるのは、なんだかいたたまれなかった……。
レオンは本当に優秀な男だった。
しかも、なんとまだ21歳だというから驚きだ。
ルイ王子の言った通り、第6騎士団の団長としての仕事はほとんどレオンが請け負ってくれた。
俺はレオンの書いた原稿を読んで団員を激励し、レオンの用意してくれた予算書や人事計画書にサインし、レオンが立てた諜報計画へGOを出した……。
レオンは例のあの冷たい視線を俺に向けながらも、無言でてきぱきと業務を進めていく。
――このままではいけない!と俺は焦った。まかりなりにも騎士団長だ! 俺だってもっと騎士団のために役に立ちたい。
だが……、なんでも先回りしてやってくれる優秀すぎる部下がいるという、上司としては夢のようなこの状況…‥。
もともとの流され体質が災いし、俺はものの一週間でこの環境に慣れてしまった。一度ぬるま湯につかってしまったら、そこから抜け出すのはなかなか難しい……。
そう、俺はあっという間に、レオン・ジラールへ依存を深めていってしまったのだった。
そして…‥、悪いことは重なるものだ。
俺はついに……、私生活までレオン・ジラールへ依存するようにになっていくのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すべては俺の至らなさが原因だった……。
あれは、俺が第6騎士団長になって数か月が経ったころ……。
その日、昼からの本部での団長会議を終えた俺は、今日はやけに足がふらつくなと思いながら、第6騎士団へと戻った。
「団長、急ぎでこの書類にサインを」
俺がデスクにつくや否や、レオンが大量の書類を手に近づいてくる。
「あ、ああ……、わかった。ここに…‥」
立ちあがった俺は、耳元でざあーっという音がして、急に血の気が引いていくのを感じた。
――ヤバい。
目の前が暗くなっていくその時、すくそばのレオンの焦ったような顏を見て、こいつも人間らしい表情ができるんだな……なんて、のんきに思っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
目が覚めると、青と緑に光る不思議な色の瞳が俺を見下ろしていた。
「……っ!」
俺と目が合ったレオンは、一瞬うろたえたような顏をしたが、すぐにいつもの無表情にもどった。
「あれ、ここは……?」
見慣れた天井。ここは俺の屋敷の俺の寝室に違いなかった。
「覚えていますか? さきほどあなたは団長室で倒れられたんです」
「ああ、そう、だった……」
俺は寝台から上半身を起こした。
地味に頭が痛い……。
「医務室でしばらく様子を見ていたのですが、目を覚まされないようでしたのでここまで運びました」
「君が!?」
「それが何か」
とりすました表情。
「それは……、すまなかった。迷惑をかけた」
レオンは露骨にむっとした顔をして、盆に乗った薬と水を俺に差し出した。
「まずは薬を飲んでください。話はそれから」
「……はい」
なぜかものすごい圧を感じる……。
俺が薬を飲みほしたのを見届けると、レオンは突然俺の右手首をつかんで引き寄せた。
「こんなにやせ細って!!! どうして今まで黙っていたんですかっ!?」
「……はっ!?」
明らかに、レオンは怒っていた。
「なんなんですかっ、この家はっ!?
執事もいなければ、メイドすらいない!
台所には食料もなければ、食器も何もかもそろっていない!
寝台や机、椅子はかろうじてあるようですが、これはもともとの備え付けのものですね!?
あなたは、あなたは……ずっと、ずっとこのがらんどうのような家で暮らしていたんですかっ!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・
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そして、ルイ王子は去り際に王命を出し、騎士団員たちの乱れた風紀を一掃したのだった。
「これでソラルに手を出そうとする不届きものは、全員牢獄につなぐことができるな! おいそれと第6騎士団長に手を出そうという輩もいなくなるだろう。安心安心!!」
晴れ晴れと笑うルイ王子だったが、そもそも騎士団長としての立場を利用し、俺を手籠めにした張本人はルイ王子ではなかったのだろうか……? 理解に苦しむ。
だが、結果的に、新入団した年若い団員や、従騎士、小姓たちが、年嵩の騎士たちに尻を狙われるという悪しき習慣はなくなり、騎士団は今までになくクリーンな労働環境となったのだった。
そして俺は、騎士団長となったことで、王都の一等地にある豪華な屋敷に引っ越すこととなった。もちろん、ルイ王子から下賜されたものだ。
だが、もともと農村出身の俺。大家族でせせこましく暮らすのが当たり前だった俺が、一人豪華な屋敷でぽつんといるのは、なんだかいたたまれなかった……。
レオンは本当に優秀な男だった。
しかも、なんとまだ21歳だというから驚きだ。
ルイ王子の言った通り、第6騎士団の団長としての仕事はほとんどレオンが請け負ってくれた。
俺はレオンの書いた原稿を読んで団員を激励し、レオンの用意してくれた予算書や人事計画書にサインし、レオンが立てた諜報計画へGOを出した……。
レオンは例のあの冷たい視線を俺に向けながらも、無言でてきぱきと業務を進めていく。
――このままではいけない!と俺は焦った。まかりなりにも騎士団長だ! 俺だってもっと騎士団のために役に立ちたい。
だが……、なんでも先回りしてやってくれる優秀すぎる部下がいるという、上司としては夢のようなこの状況…‥。
もともとの流され体質が災いし、俺はものの一週間でこの環境に慣れてしまった。一度ぬるま湯につかってしまったら、そこから抜け出すのはなかなか難しい……。
そう、俺はあっという間に、レオン・ジラールへ依存を深めていってしまったのだった。
そして…‥、悪いことは重なるものだ。
俺はついに……、私生活までレオン・ジラールへ依存するようにになっていくのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
すべては俺の至らなさが原因だった……。
あれは、俺が第6騎士団長になって数か月が経ったころ……。
その日、昼からの本部での団長会議を終えた俺は、今日はやけに足がふらつくなと思いながら、第6騎士団へと戻った。
「団長、急ぎでこの書類にサインを」
俺がデスクにつくや否や、レオンが大量の書類を手に近づいてくる。
「あ、ああ……、わかった。ここに…‥」
立ちあがった俺は、耳元でざあーっという音がして、急に血の気が引いていくのを感じた。
――ヤバい。
目の前が暗くなっていくその時、すくそばのレオンの焦ったような顏を見て、こいつも人間らしい表情ができるんだな……なんて、のんきに思っていた。
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目が覚めると、青と緑に光る不思議な色の瞳が俺を見下ろしていた。
「……っ!」
俺と目が合ったレオンは、一瞬うろたえたような顏をしたが、すぐにいつもの無表情にもどった。
「あれ、ここは……?」
見慣れた天井。ここは俺の屋敷の俺の寝室に違いなかった。
「覚えていますか? さきほどあなたは団長室で倒れられたんです」
「ああ、そう、だった……」
俺は寝台から上半身を起こした。
地味に頭が痛い……。
「医務室でしばらく様子を見ていたのですが、目を覚まされないようでしたのでここまで運びました」
「君が!?」
「それが何か」
とりすました表情。
「それは……、すまなかった。迷惑をかけた」
レオンは露骨にむっとした顔をして、盆に乗った薬と水を俺に差し出した。
「まずは薬を飲んでください。話はそれから」
「……はい」
なぜかものすごい圧を感じる……。
俺が薬を飲みほしたのを見届けると、レオンは突然俺の右手首をつかんで引き寄せた。
「こんなにやせ細って!!! どうして今まで黙っていたんですかっ!?」
「……はっ!?」
明らかに、レオンは怒っていた。
「なんなんですかっ、この家はっ!?
執事もいなければ、メイドすらいない!
台所には食料もなければ、食器も何もかもそろっていない!
寝台や机、椅子はかろうじてあるようですが、これはもともとの備え付けのものですね!?
あなたは、あなたは……ずっと、ずっとこのがらんどうのような家で暮らしていたんですかっ!?」
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