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第8話 第一印象は最悪!
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「ソラル・デュポン、貴殿に第6騎士団、団長を命ずる!」
「だ、団長~~!!!????」
辞令を渡す現・第6騎士団長の後ろでほくそ笑んでいるのは、裏で手を引いているに違いないルイ王子。
「これからは団長として、第6騎士団をしっかりまとめていくように! まかせたぞ、デュポン!」
「って、え? ええっーー!?」
後で知ったことだが、第6騎士団のクシー団長は、この時すでに王宮から多額の退職金を受け取り、郊外に豪華な屋敷を建設中だったという……。
しかし、2階級特進くらいならともかく、俺が団長に就任するなどあるまじきことだ。どう考えてもまともじゃない!!
「よかったな。ソラル! 団長なら誰もお前に命令できない。好き放題、やりたい放題だ!」
呆然とする俺の腰に、ルイ王子が手をまわしてくる。
「やりたい放題どころか、私に団長の責務が務まるとは到底思えません!!!」
「まあまあ! ソラルがそう言うだろうと思って、俺がちゃんとソラルが困らないようにすべて手配してやっているから安心しろ!」
ルイ王子は言うと、後ろに控えていた騎士団員に合図した。
「あいつをここに呼べ」
「御意!」
そして、アイツはついに俺の目の前に姿を現した……。
入ってきたのは長身で黒髪の年若い男だった。
俺より頭一つ分背の高いルイ王子よりも、さらに身長が高く、すらりとした手足が伸びている。
細身に見えるが、その身のこなしから鍛え抜かれた筋肉を持っていることがうかがい知れた。
そして何より、そのまっすぐで艶やかな黒髪からのぞく、青と緑の間の中間の不思議な色合いの瞳が俺の目を引いた。その瞳は蛍光色のように輝いており、ずっと見ていると吸い込まれそうな色だと思った。
「レオン・ジラール。俺の腹違いの弟だ」
「お、おとう、と……!?」
たしか我が国には王子は3人しかいないはずだが……。
「クアス共和国の舞台女優に父上が生ませた子なんだ。5年ほど前、不貞の子だと、サミュエル兄上の母親が娼館に売り飛ばそうとしていたところを、俺が拾ってやった」
クアス共和国は砂漠の向こうの異国。だから、レオンはこの国では珍しい黒髪をしているのだ。
レオンはとても美しい顔をしていた。だがその美しさはルイ王子のそれとは違い、見るものを畏れさせるような種類の危険な美しさだった。
きっとその美しさに底知れぬ恐怖を感じた第2王子の母親が、レオンを排除しようとしたのだろう。
それにしても、さすがはルイ王子。男気溢れる行動には拍手喝采を送りたい。
「今は、跡継ぎがいなかったジラール公爵家の養子に入っている。
レオン……、ソラル・デュポンだ。たった今第6騎士団長に就任した。お前はこれから、副団長としてソラルに仕えろ。ソラルを俺だと思い、誠心誠意尽くすように」
「はい、兄上。仰せのままに」
レオンが首を垂れる。
「よ、よろしく、レオン」
俺が右手を差し出すと、レオンはまるで汚物を見るような目で俺を見た。
不満であることを隠そうともしない表情。
恩着のあるルイ王子に命じられて、仕方なく嫌々ここに来たということが、俺にもありありとわかった。
レオンは、皮肉げに笑った。
「これが兄上のおっしゃるソラルなのですか?
これはまた、結構なご趣味ですね……」
「お前ごときにソラルの良さなどわかるまい。いいか、レオン、間違ってもソラルに手を出そうなんて思うなよ!」
「はっ、ご冗談を! 俺にだって相手を選ぶ権利くらいあります」
吐き捨てるように言うレオン。
――そして、思いっきりディスられている俺!
「ソラル、レオンは昔っからこの見てくれのせいで、好色爺どもから嫌らしい目で見られてきたのだ。
その反動で、男が大嫌いなんだ!
というわけで、こいつだけはお前の側に置いても、安全だ! 剣の腕も確かだし、頭もいい。
魔力も強いから申し分ない!
……しかし、ソラル! 俺と間違ってこいつに抱き着いたりするなよ!
あっという間に頭の先から真っ二つにされてしまうからな!!」
ははっと豪快に笑うルイ王子。
俺は顔をひきつらせた。いったいどこかどう安全なのか、さっぱりわからない……。
「どうぞ、よろしくお願いしま……」
へらりと笑みを向けると、レオンの蛍光色の瞳が俺を射抜いた。
「第6騎士団の業務は、どうぞすべて私にお任せください。……せいぜいおとなしくしておいてくださいね。
くれぐれもいらぬことをして、私の足をひっぱらないように!」
「は、はぃ……、気を付け、ます……」
これでは一体どちらが団長なのだかわからない。
――俺とレオンの不思議な上下関係は、こうして始まった……。
「だ、団長~~!!!????」
辞令を渡す現・第6騎士団長の後ろでほくそ笑んでいるのは、裏で手を引いているに違いないルイ王子。
「これからは団長として、第6騎士団をしっかりまとめていくように! まかせたぞ、デュポン!」
「って、え? ええっーー!?」
後で知ったことだが、第6騎士団のクシー団長は、この時すでに王宮から多額の退職金を受け取り、郊外に豪華な屋敷を建設中だったという……。
しかし、2階級特進くらいならともかく、俺が団長に就任するなどあるまじきことだ。どう考えてもまともじゃない!!
「よかったな。ソラル! 団長なら誰もお前に命令できない。好き放題、やりたい放題だ!」
呆然とする俺の腰に、ルイ王子が手をまわしてくる。
「やりたい放題どころか、私に団長の責務が務まるとは到底思えません!!!」
「まあまあ! ソラルがそう言うだろうと思って、俺がちゃんとソラルが困らないようにすべて手配してやっているから安心しろ!」
ルイ王子は言うと、後ろに控えていた騎士団員に合図した。
「あいつをここに呼べ」
「御意!」
そして、アイツはついに俺の目の前に姿を現した……。
入ってきたのは長身で黒髪の年若い男だった。
俺より頭一つ分背の高いルイ王子よりも、さらに身長が高く、すらりとした手足が伸びている。
細身に見えるが、その身のこなしから鍛え抜かれた筋肉を持っていることがうかがい知れた。
そして何より、そのまっすぐで艶やかな黒髪からのぞく、青と緑の間の中間の不思議な色合いの瞳が俺の目を引いた。その瞳は蛍光色のように輝いており、ずっと見ていると吸い込まれそうな色だと思った。
「レオン・ジラール。俺の腹違いの弟だ」
「お、おとう、と……!?」
たしか我が国には王子は3人しかいないはずだが……。
「クアス共和国の舞台女優に父上が生ませた子なんだ。5年ほど前、不貞の子だと、サミュエル兄上の母親が娼館に売り飛ばそうとしていたところを、俺が拾ってやった」
クアス共和国は砂漠の向こうの異国。だから、レオンはこの国では珍しい黒髪をしているのだ。
レオンはとても美しい顔をしていた。だがその美しさはルイ王子のそれとは違い、見るものを畏れさせるような種類の危険な美しさだった。
きっとその美しさに底知れぬ恐怖を感じた第2王子の母親が、レオンを排除しようとしたのだろう。
それにしても、さすがはルイ王子。男気溢れる行動には拍手喝采を送りたい。
「今は、跡継ぎがいなかったジラール公爵家の養子に入っている。
レオン……、ソラル・デュポンだ。たった今第6騎士団長に就任した。お前はこれから、副団長としてソラルに仕えろ。ソラルを俺だと思い、誠心誠意尽くすように」
「はい、兄上。仰せのままに」
レオンが首を垂れる。
「よ、よろしく、レオン」
俺が右手を差し出すと、レオンはまるで汚物を見るような目で俺を見た。
不満であることを隠そうともしない表情。
恩着のあるルイ王子に命じられて、仕方なく嫌々ここに来たということが、俺にもありありとわかった。
レオンは、皮肉げに笑った。
「これが兄上のおっしゃるソラルなのですか?
これはまた、結構なご趣味ですね……」
「お前ごときにソラルの良さなどわかるまい。いいか、レオン、間違ってもソラルに手を出そうなんて思うなよ!」
「はっ、ご冗談を! 俺にだって相手を選ぶ権利くらいあります」
吐き捨てるように言うレオン。
――そして、思いっきりディスられている俺!
「ソラル、レオンは昔っからこの見てくれのせいで、好色爺どもから嫌らしい目で見られてきたのだ。
その反動で、男が大嫌いなんだ!
というわけで、こいつだけはお前の側に置いても、安全だ! 剣の腕も確かだし、頭もいい。
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……しかし、ソラル! 俺と間違ってこいつに抱き着いたりするなよ!
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俺は顔をひきつらせた。いったいどこかどう安全なのか、さっぱりわからない……。
「どうぞ、よろしくお願いしま……」
へらりと笑みを向けると、レオンの蛍光色の瞳が俺を射抜いた。
「第6騎士団の業務は、どうぞすべて私にお任せください。……せいぜいおとなしくしておいてくださいね。
くれぐれもいらぬことをして、私の足をひっぱらないように!」
「は、はぃ……、気を付け、ます……」
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