上 下
3 / 43

第3話 サクセスストーリーの幕開け

しおりを挟む
 ユーゴ様の本宅には、美しいと評判の5歳年下の妻と、これまた可愛いと評判の3歳の娘が一人……。

 ユーゴ様を責めないでやってほしい!

 若干30歳の騎士団長が妻と子どもと離れて、王都に単身赴任!
 ハードな騎士団長の任務をこなすには、性欲の定期的な発散はマストとなる。
 俺がここにくるまで、ユーゴ様には小姓もおらず、よそに愛人も作ったりしていなかったのだから、他の騎士たちと比べてもユーゴ様の忍耐力はかなりのものだと思う。

 俺は女でもなければ貴族の子弟でもない。妊娠もしないし、ユーゴ様が飽きて捨てても復讐する手立ても人脈もない。
 ユーゴ様にとっては、俺はとってもお手頃な性欲発散の相手に違いなかった。

 でも俺はそれでも全然かまわなかった。もともと、何の後ろ盾もない農家の三男坊。
 騎士団の従騎士になれたというだけでも、俺の田舎では大出世だ。
 しかも、殴られるでも蹴られるでもなく、毎日おいしい食事と十分な衣服が提供され、さらにはご主人自らが毎夜優しく奉仕してくださるというご褒美までついている。

 こんな夢みたいな待遇、そうそう転がっちゃいない。

 ――だが、どんな夢もいつかは必ず覚めるときがくるわけで……。

 ユーゴ様が40歳になる年、ユーゴ様は騎士団を引退した。
 それにより、ユーゴ様は本宅へと帰り、家督を継ぐこととなった。

 ここでも不思議な騎士道精神を発揮したユーゴ様は、俺に「一緒に本宅へ帰ってくれないか?」と最後の情けをかけてくれたが、俺はもちろん首を振った。

 平民出身の愛人がどの面さげて、本妻とお子様のいる貴族様の本宅に居候するというのだ!?

 ユーゴ様は俺の決意が固いと知ると、とても悲しそうな顔をした。あと腐れのない愛人といえども、10年も一緒にいたのだ。やはり情が湧いていたのだろう。

 ユーゴ様はまたまた遺憾ない紳士ぶりを発揮し、王都に残された俺が生活に困らないようにと、様々なことを手配してくれた。

 俺は、第6騎士団の騎士として正式に採用され、王都の騎士専用の宿舎に住まわせてもらうことになった。

 ――その時俺は28歳。

 コネを頼りに生き抜く俺の、騎士団・サクセスストーリーの幕開けだった。



 その時の俺は剣の技術はそこそこ上達していたとはいえ、騎士団の前線で活躍するような腕前には程遠かった。
 
 しかもほかの騎士に比べて、明らかに体格では見劣りする。かといって、魔力もたいしたことはなく、強力な攻撃魔法が仕えるでもない。

 俺はどこからどう見ても、「元・第一騎士団長の愛人枠」でコネ採用された使えないやつだった。

 だが、そこはユーゴ様。どこでどう手をまわしたのかは不明だが、騎士団員のなかで俺を見下してくるやつ、からかってくるやつ、そして露骨に誘ってくるやつはなぜか皆無だった。
 きっとユーゴ様の影響力は計り知れないほど大きかったのだろう。どちらかというと、俺は恐れられ、避けられているといったほうが正しかった。
 

 また幸運なことに、俺が採用された第6騎士団は、前線部隊ではなく騎士団の裏方部隊であった。
 前線で戦う騎士団へ物資や食料の配達を手配したりはもちろんのこと、予算組みなどの事務的作業や、団員の人事などの機密事項、そして国家機密の諜報活動なども取り扱うため、第6騎士団はそこそこ優秀な人間が集まっていた。
 
 俺はそこで、こまごまとした雑用を請け負い、働いた。
 働くのは楽しかった。裏方仕事がほとんどなので、命の危険もなく、ケガもない。
 そして、団員の宿舎はボリューム満点の食事もでるので、生活には困らなかった。給料も高かったので、実家に仕送りもできてとても感謝された。

 郊外の本宅にもどったユーゴ様からは、まめに手紙が届いた。たまにユーゴ様が用事で王都に来た時は、二人で食事をすることもあった。ただ、ユーゴ様からはそれとなく誘われたが、あれからは身体の関係は断っていた。
 もちろん優しいユーゴ様は俺に関係を無理強いすることはなく、別れの時にぎゅっと抱きしめられ、ちょっと長めのキスをするところで落ち着いていた。



 そして、神の導きか、天使の悪戯か……。また俺に運命を変える出会いが訪れた……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

奴の執着から逃れられない件について

B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。 しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。 なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され..., 途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

貧乏大学生がエリート商社マンに叶わぬ恋をしていたら、玉砕どころか溺愛された話

タタミ
BL
貧乏苦学生の巡は、同じシェアハウスに住むエリート商社マンの千明に片想いをしている。 叶わぬ恋だと思っていたが、千明にデートに誘われたことで、関係性が一変して……? エリート商社マンに溺愛される初心な大学生の物語。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

処理中です...