上 下
58 / 63
【番外編】

ティトの魔法学園の一日 12

しおりを挟む
 オベロンとポチがいなくなって少しも経たないうちに、ファビオとオルランドが帰宅した。


「ったく、あのクソ魔王のせいで、こんなに帰るのが遅くなったぜ!!」

 忌々し気に舌打ちすると、ファビオは着ていたきらびやかな上着をソファに投げかけた。


「結局あの騒ぎはなんだったんだろうね? 私たちを足止めするためとしか思えなかったが……」

 オルランドも着ていた黒いローブを脱ぐ。

 
 確かに、いつもに比べて、少しばかり二人の帰宅時間が遅い。

 ――でもそのおかげで、ゆっくりポチを遊べたんだけど……。




「王宮でなにかあったの?」

 俺が聞くと、二人は大きなため息をついた。


「結局なにもなかったんだよ、ティト」

 オルランドは俺に近づくと、さらりと俺の頬を撫でた。

「なにも……?」

「魔界で不穏な動きがあるとかいう密告だか、密書だかがあったみたいで、俺たちみんな集められて……、
でも結局なんにも起こりもしないし、っつーか、魔王自体がどっかに行ってただけだったんだろ?」

 ファビオは俺を後ろから抱きしめると、げんなりしたように言った。


「まったく、人騒がせな魔王だよ。どうやら人間界に秘密の恋人がいるらしくて、ちょくちょく魔界から離れているらしいね」

 オルランドは俺をファビオから引き離すと、俺をひょいと横抱きにした。


「ったく、人間にうつつを抜かす前に、ちゃんと魔界を治めてろっつーの。……って、おいっ、オルランド!!」

「だめだよ、ファビオ! ティトを可愛がるのは後! 先に夕食にしよう」


 オルランドは俺をそのままダイニングに連れて行くと、いつもの席に俺を座らせてくれた。

「ありがとう。でもごめん! 今日こそは二人に夕食を作って待ってようって思ってたのに、
いろいろあって、遅くなってできなかったんだ……」

 俺の言葉に、二人は破顔した。

「夕食の心配なんて、ティトはしなくていいんだからな!」

「そうだよ、ティト。その気持ちだけで私たちは十分だよ」

「……!!」


 ――こんな優しい二人と結婚できて、きっと俺は世界一の幸せものなんだろうなあ……!!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 結局、オルランドがきのこたっぷりのホワイトシチューを作ってくれて、三人で夕食になった。


「で、家に帰ってからなにをしてて遅くなったのかな、ティト?」

 オルランドが小首をかしげる。


「いろいろあったって、俺たちがいない間に、何があったんだ?」

 吸い込まれそうなファビオの青い瞳がじっと俺を見る。


「……っぐ!」

 さっそくの二人からの追求に、俺は喉をつまらせそうになった。


「あの、それは……、つまり、お客さんが……」

「「客っ!!??」」

 二人してガタンッと椅子を鳴らして立ち上がるものだから、俺は大いにあせった。


「いや、客、というか、つまり、オベロンが、家に来て……」

「ああ、オベロンか……。驚かすなよ。にしてもあいつ、相変わらず暇だな!」

「ティト、オベロンに何か言われたりされたりしなかっただろうね!?」


「うん、大丈夫。オベロンはいつも通りだったよ。紅茶を一緒に飲んで、おしゃべりしてただけ。
それより、あのね……、あのね……、俺っ!」


 今度は俺が、勢いよく椅子から立ち上がった。

 ファビオとオルランドが、驚いた様子で俺を見た。



 ――そうだ! やっぱり、こんなこと、ずっと続けてちゃいけない!

 ポチのこと、二人にずっと黙っておくことなんて、できない!


 ポチはあんなに可愛くていい子なんだし、それに二人は剣聖と大魔導士という規格外の人物だし、だから……!!

 もしかして……、もしかしたら魔獣をペットにすることくらい、ファビオとオルランドにしたら大したことではないのかもしれない!!

 ――だから……、



「あのねっ、俺っ、二人に大事な話があるんだ!!!!」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない

ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』 気付いた時には犯されていました。 あなたはこの世界を攻略 ▷する  しない hotランキング 8/17→63位!!!から48位獲得!! 8/18→41位!!→33位から28位! 8/19→26位 人気ランキング 8/17→157位!!!から141位獲得しました! 8/18→127位!!!から117位獲得

処理中です...