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【番外編】
ティトの魔法学園の一日 9
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すっかり弱ってしまっているのか、ポチは黒光りする瞳でちらりと俺を見ると、またすぐに目を閉じてしまった。
「さあ、頑張って中に入って! すぐに手当しなきゃ! この前学校で治癒魔法も習ったから、傷口くらいはふさげるよ!
それに、いまから美味しいクッキーも焼いてあげる!」
俺の言葉がわかるのか、ポチはふらふらと立ち上がると、俺に続いて家の中に入ってくる。
ポチ、と俺が勝手に名前をつけたこの大きくて黒い犬は、一体どこからやってくるのかはよくわからないが、たまにふらりと俺の目の前に現れる。
それもファビオとオルランドがいないときを狙って。
ポチは堂々とした体躯の黒くてフサフサの毛並みが美しい犬で、飼い犬ではなさそうだが、「俺たち以外の人と生き物は絶対家に入れちゃダメ!」と強くファビオとオルランドに言われているので、残念ながらうちで飼うことはできない。それどころか、こうやってたまにポチを家にあげて世話をしていることも、二人には秘密だ。
「あー、うちで飼ってあげられたらいいのになあ! 犬、飼いたいなあ……」
治癒魔法をかけて、傷の手当をして、黒々とした毛並みをブラッシングしてあげた俺は、ポチに抱き着くとフサフサの首元に鼻をこすりつける。
撫でられて気持ちがいいのか、ポチもされるがままだ。
ポチは不思議な犬で、俺のつたない治癒魔法をちょっとかけただけで、傷口はすぐに塞がってしまった。まだすこしフラフラしているが、これほどの怪我を負いながら、あっという間にここまで回復できるのだから、どうやら普通の犬ではなさそうだ……と俺は前から思っている。
「じゃあ、いまからクッキーを焼くからね! ポチも食べるよね!?」
ーーちょうど、セラフィーナちゃんから『失敗知らずのクッキーのもと』をもらったところだ。
これなら俺にだって、美味しいクッキーが焼けるはず!!
説明書通りに、クッキーの粉にミルクと卵を入れて混ぜて、型抜きして、オーブンにいれたところで予期せぬ来訪者があった。
「ちょっとぉー! 聞いてよ、ティト!
魔王様ったら、ひどいんだからぁあああ!!!!」
相変わらずノックもなしに、おかっぱ頭の妖精王が部屋の中に入ってくる。
ちなみにこの妖精王・オベロンは、ファビオとオルランドの眷属かつ俺のご先祖様であるからして、この俺たちの家にも入り放題となっている。
――だが、ファビオとオルランドをとんでもなく煙たがっているオベロンがこの家にふらりとやってくるのは、やはりあの二人がいないときに限るのだが……。
「この麗しの妖精王の僕を呼びつけておいてさぁ、すっごく嫌だったけど、魔王様の命令とあらば行くしかないじゃん!?
それなのに、いざ魔王様のところに出向いたら『魔王様は急用ができてお留守です』だってさー!
いったい何様のつもりなワケって感じ! あ、魔王様だけど……。
ってそうじゃなくって、今日僕、薔薇の妖精の可愛い子たちとみんなでピクニックに行くはずだったのにさあー!
ひどすぎじゃない? ねえ、ティトもそう思うでしょ……って、あれ、ティト、ソレ、何??」
俺は足もとにいるポチを、あわてて背中に隠した。
「えっ、その、あのなんでも、な……」
「さっきからすごい魔力の気配がするって思ったら、それ、もしかして魔獣っ!? ティト、魔獣なんて手なずけたの!?」
俺と同じ紺色の瞳が、大きく見開かれる。
「ち、違う! これはポチ! たまにうちに遊びにくる犬なんだ!!」
「……でもそれ、どう見ても犬じゃないよね? 普通、犬には角はないよ!」
オベロンの瞳がくりくりと楽し気に動く。
「……っ!!」
――やっぱり!!
俺もそうじゃないかって、実は思ってたんだ!!
「さあ、頑張って中に入って! すぐに手当しなきゃ! この前学校で治癒魔法も習ったから、傷口くらいはふさげるよ!
それに、いまから美味しいクッキーも焼いてあげる!」
俺の言葉がわかるのか、ポチはふらふらと立ち上がると、俺に続いて家の中に入ってくる。
ポチ、と俺が勝手に名前をつけたこの大きくて黒い犬は、一体どこからやってくるのかはよくわからないが、たまにふらりと俺の目の前に現れる。
それもファビオとオルランドがいないときを狙って。
ポチは堂々とした体躯の黒くてフサフサの毛並みが美しい犬で、飼い犬ではなさそうだが、「俺たち以外の人と生き物は絶対家に入れちゃダメ!」と強くファビオとオルランドに言われているので、残念ながらうちで飼うことはできない。それどころか、こうやってたまにポチを家にあげて世話をしていることも、二人には秘密だ。
「あー、うちで飼ってあげられたらいいのになあ! 犬、飼いたいなあ……」
治癒魔法をかけて、傷の手当をして、黒々とした毛並みをブラッシングしてあげた俺は、ポチに抱き着くとフサフサの首元に鼻をこすりつける。
撫でられて気持ちがいいのか、ポチもされるがままだ。
ポチは不思議な犬で、俺のつたない治癒魔法をちょっとかけただけで、傷口はすぐに塞がってしまった。まだすこしフラフラしているが、これほどの怪我を負いながら、あっという間にここまで回復できるのだから、どうやら普通の犬ではなさそうだ……と俺は前から思っている。
「じゃあ、いまからクッキーを焼くからね! ポチも食べるよね!?」
ーーちょうど、セラフィーナちゃんから『失敗知らずのクッキーのもと』をもらったところだ。
これなら俺にだって、美味しいクッキーが焼けるはず!!
説明書通りに、クッキーの粉にミルクと卵を入れて混ぜて、型抜きして、オーブンにいれたところで予期せぬ来訪者があった。
「ちょっとぉー! 聞いてよ、ティト!
魔王様ったら、ひどいんだからぁあああ!!!!」
相変わらずノックもなしに、おかっぱ頭の妖精王が部屋の中に入ってくる。
ちなみにこの妖精王・オベロンは、ファビオとオルランドの眷属かつ俺のご先祖様であるからして、この俺たちの家にも入り放題となっている。
――だが、ファビオとオルランドをとんでもなく煙たがっているオベロンがこの家にふらりとやってくるのは、やはりあの二人がいないときに限るのだが……。
「この麗しの妖精王の僕を呼びつけておいてさぁ、すっごく嫌だったけど、魔王様の命令とあらば行くしかないじゃん!?
それなのに、いざ魔王様のところに出向いたら『魔王様は急用ができてお留守です』だってさー!
いったい何様のつもりなワケって感じ! あ、魔王様だけど……。
ってそうじゃなくって、今日僕、薔薇の妖精の可愛い子たちとみんなでピクニックに行くはずだったのにさあー!
ひどすぎじゃない? ねえ、ティトもそう思うでしょ……って、あれ、ティト、ソレ、何??」
俺は足もとにいるポチを、あわてて背中に隠した。
「えっ、その、あのなんでも、な……」
「さっきからすごい魔力の気配がするって思ったら、それ、もしかして魔獣っ!? ティト、魔獣なんて手なずけたの!?」
俺と同じ紺色の瞳が、大きく見開かれる。
「ち、違う! これはポチ! たまにうちに遊びにくる犬なんだ!!」
「……でもそれ、どう見ても犬じゃないよね? 普通、犬には角はないよ!」
オベロンの瞳がくりくりと楽し気に動く。
「……っ!!」
――やっぱり!!
俺もそうじゃないかって、実は思ってたんだ!!
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