上 下
54 / 63
【番外編】

ティトの魔法学園の一日 8

しおりを挟む
 もう、もうっ、もぉおおおおおおお!!!!

 俺はバタバタと足を踏み鳴らしながら廊下を走っていた。

 午後一番の授業は移動教室。
 補助魔法のテストがあるので、遅れるわけにはいかないのだ!

 それをわかっているのか、いないのか、あの二人は昼休み中、さんざん俺の身体を弄んで……。

 ――腹が立つのに、あの二人の悩ましい息遣いを思い出すと、また身体の奥が疼いてしまう……。


「おい、ティト!」

 後ろから突然声をかけられて俺はビクッと肩を震わせた。

 振り向くと、グラート君が腕組みして立っていた。


「どこに行くつもりだ? 授業は変更になったんだ。テストは明日に延期。
自習になったからクラスに戻れ」

「あ、そ、う、なんだ……」

 俺は足を止め、ホッと息をつく。

 グラート君はムッとした顏で、俺を見上げた。


「お前、首に赤い痣がついてるぞ。あと、顔も赤いし、髪も乱れてる……」

「えっ、あ、あれ、あ、あっ、そうっ、ど、どうしたのかなっ、さっき虫にでも刺されたのかもっ……!」

 俺は慌てて首元を手で覆った。


 ――もうっ! 見えるところにキスマークつけるなって、あれほど言ってたのに!!!!



 慌てる俺に、グラート君は綺麗にプレスされた白いハンカチを差し出した。


「汗、出てる。これで拭けよ」

「え、あ、でも、俺も、ハンカチ、持って……」

「いいから!」

 怒ったように言うと、グラート君は背伸びして、俺の額に自分のハンカチを押し付けてきた。

「あ、ありがとう……」



「ティト、お前さ……、あの二人に囲われてる、のか?」

 二人して教室に戻りがてら、グラート君がぼそりと言った。



「は? はぁーっ!? か、かこ、囲うっ!?」

 10歳の少年とは思えないセリフに、思わず俺の脚が止まる。

「父上と、兄上たちが言ってた。ティトは、あの剣聖と大魔導士に囲われてるんだって……。
お前、もし本当は、嫌なんだったら、俺に言えよ! 俺が父上に頼んで、なんとかしてやる!」

 グラート君の緑色の瞳は真剣な光を宿している。

 俺は慌てて、かぶりを振った。

「そんなはず、あるわけないよ! グラート君のお父さんとお兄さんは何か誤解してる!
俺は、あの二人の、生涯のパートナー? っていうのかな、その、……つまり、
俺はあの二人が大好きで一緒にいるわけであって、決して囲われているとか、そういうわけでは……」

「……大好き?」

 グラート君の眉間に深いしわが寄る。


「うん、俺、あの二人のことが、すごくすごく、好きなんだ、だから……」

 俺が大きくうなずくと、グラート君はぷいっとそっぽを向いた。


「チッ、なんだよっ……、人が、せっかく……、もういいっ、勝手にしろっ!」

「あっ、グラート君っ!」


 俺が声をかけてもグラート君は振り向くことなく、一人でその場から走り去ってしまった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「ただいまぁ~! はあ、今日もなんかよくわかんないけど疲れた……」


 ーーそんなこんなで放課後。

 教頭先生に転移魔法をかけてもらった俺は、まだ二人の戻っていない我が家のドアの前に立っていた。



 と、その時俺は、ドアの前にうずくまっている黒く大きな物体に気がついた。


「ポチ!!!!」

 俺は駆け寄ると、そのフサフサの黒い毛並みに抱きついた。 


「久しぶりだね! わあっ、今日もどこかで喧嘩してきたの? すごい怪我してるじゃないか!」

 見るとポチを触った俺の手には、べっとりと血がついている。

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

処理中です...