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99層にて(最終話)

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「イラーリア、雷撃を!!」

『……』


 俺ははっとして、もう一度魔剣『イラーリア』をしっかりと握りしめた。


「偉大なる美しく清らかな魔剣・イラーリア様っ、どうか、どうか雷撃をお願いいたしますっ!」

『……わかればいいのよ。以後、言葉遣いには気をつけなさい!』


「調子に乗って、すみません……!」

『小妖精の末裔ごときの分際で、私に命令など、一億年早いのよっ!!』


 途端に、魔剣・イラーリアから激しい雷撃が繰り出され、目の前のゴーレムは一瞬で灰と散った。

「やったな、ティト!」

 煌めく青い瞳の俺の美しい人ーー、ファビオ・サヴォイアが俺を振り返る。


「ゴーレムには電撃が有効だからね。きちんと考えて攻撃できるなんて、偉いよ、ティト!」

 長い黒髪を高い位置でまとめた俺の麗しい人ーー、オルランド・グリマルディが俺を手放しでほめてくれる。


「ふぅ、さすがに魔界の最凶ダンジョンと呼ばれているだけのことはあるな。ここまで来るのに、結構てこずったぜ!」

 ダーク・ヒュドラ10体を一撃で倒したファビオは、聖剣『ドゥリンダナ』をその鞘に納めた。


「でももう99層だよ。たしかボスはこの下の100層にいるんじゃなかったっけ?」

 光魔法でダーク・ワイバーン10体を一瞬で塵と化したオルランドは、未だ光の魔力を残した手のひらをゆっくりと握りしめた。



「あー、まだ時間は十分あるし、じゃあ、もうこのまま最下層まで行っちゃう? ――おい、ジジイ、聞こえただろ? 全回復させろ!」

「ハァーっ!!?? それが人にものを頼む態度!!??」


「ご老体に鞭打つようで申し訳ないが、私も頼む。魔力がもうほとんどないから、こちらも全回復で!!」


「はぁーっ!!?? なんか、言い方変えただけだし、しかも、なんかさらにムカつくんですけどぉおおおお!!??」

 オベロンが地団太を踏む。


「オベロン……さん、すみません。俺も、できればちょっとだけ回復して、欲しいです」

 俺の言葉に、オベロンは白目をむいた。


「はーっ!!?? ティトまでっ!!?? 僕は麗しの妖精王だよっ!!!! 精霊魔法はすごくすごーく神聖なものなんだよっ!!??
お前らっ、いったい僕のことなんだと思ってるワケぇ?」


「お前はこのパーティの回復係、それだけだ。オベロン、お前は俺たちの眷属だろう? つべこべ言わず、命令に従え!」

「可愛い子孫と一緒に、魔界のダンジョン攻略なんて、これ以上喜ばしいことなんて、ないだろう? さ、早く全回復を!」

 青と黒の瞳に見下ろされるオベロン。


「わああああん!! 美味しいカフェでお茶が飲めるっていうから来ただけなのにぃ、だまされたぁあああ!!!!」

「安心しろ! これが終わったら茶の一杯でも入れてやるよ!」


「嫌だああああ! ここのダンジョンまで攻略しちゃったら、魔王様に怒られるの、僕なんだよぉおおお!!??」

「私からベリアルに話を通してあるから、大丈夫だ。ボスまでは倒さない約束で……、ほら、このダンジョンのボスから秘宝の『竜王の宝珠』をすでに預かっている!」



 オルランドの手にあるのは黒光りする丸い珠。このダンジョンのボス『竜王』を倒したものだけが得られるという世界に二つとない秘宝。

 ――ってことは、これって、ボスを倒さない約束の代わりに贈られた、このダンジョンのボスからの賄賂!!??


「わぁあああん! 早く帰りたいぃいい! ティト、助けてぇええええ!!!!」

 俺の脚元にすがりつくオベロン。


「……」



 ――そう、俺たちは今、魔界最凶といわれる、全100層からなるダンジョンの攻略に繰り出していた!!

 さらなる最強のメンバー、妖精王・オベロンを新たにパーティに加えて!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







 あれから、ダンジョン攻略を待たずに、王都に戻った俺たち三人。

 どこをどう説得したのか、すでに俺たちの関係は公に認められていて、王も祝福してくれているという状態だった。

 ――あとから聞いたところによると、剣聖となるファビオと、大魔道士となるオルランドは国にとってどうしても必要な存在であるということで、王はずいぶん前から二人のほぼ言いなり状態であったという……。

 そして驚いたことにファビオのファンクラブ会員も、オルランドの親衛隊メンバーも、こぞって俺たちの婚約を黄色い声援で祝福してくれた。
 ファンクラブと親衛隊が統合される日も、近いとか……近くないとか……。


 ――ただ、問題が一つ!!

 それはサヴォイア家とグリマルディ家の確執にあった。


 そもそもファビオとオルランドの二人は幼馴染。両家の仲は良好だった。だが……。

 仲が良かったことがかえって災いしてしまったのか、俺たち三人の結婚式の会場、段取り、衣装、花、贈り物、スピーチ、進行役、その他もろもろ……で、主にどちらが主導権を握るかということで、両家はおおいにモメた!

 ――そして、いまだ王都での俺たち三人の結婚式は開かれていない。



 ……だが、そんな両家の争いを尻目に、ファビオとオルランドは結婚のこまごました手続きを超高速で完了させ、王都から遠く離れた郊外にある湖のほとりにさっそく新居を構え、俺の田舎の小さな教会で、みんなに祝福されて結婚式をあげて……。
 そして、俺たち三人は、貴族の大きなお屋敷には程遠いが、こぎれいでこぢんまりとして住み心地のいい新居で、新生活を始めることになったのだった。


 それから、俺はなんと、あの魔法学園の初等部に入学することとなった!!

 というのも、学校で学んだこともないド平民の俺。さすがに、最低限の知識やマナーは必要だということになって、ファビオの長兄が勉強を、次兄がマナー全般を、オルランドの母親が魔法の基礎を、それぞれ個人教授してくれると申し出てくれたのだが、ファビオとオルランドがなぜか『断固拒否』!!!!

 それならばということで、魔法学園の教頭先生が特例として、俺を学園の初等部1年生として迎えてくれることになったのだ。
 ――俺は初等部の可愛らしい制服を着て、入学したばかりの10歳の子供たちと一緒に、今机を並べていろんなことを学んでいる……。
 


 そして、そして……、



「さあ、ティト、行くぞ!」

「今日もモンスターをいっぱい倒そうね!」

「はいッ!!!!」



 ――学園がお休みの週末を利用して、俺たちはまた、ダンジョン攻略へと繰り出している。

 ちなみに、国内の全ダンジョンは「出入り禁止」になってしまった俺たち。今は、オベロンの伝手を利用して、さらに手ごわい敵のいる魔界のダンジョン攻略を目指す日々だ。




 俺の愛するファビオとオルランド、そして俺の偉大なる祖先の妖精王・オベロン。史上最強パーティの冒険は、まだ始まったばかり……。


 史上最強の剣聖と大魔道士に愛された俺の物語は、これからもまだまだ続く……。



 

 (了)





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