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召喚
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「クソッ、転移ができない! 貴様っ、人間の分際で、僕の魔法を封じたのかっ!?」
オルランドに壁側に追い詰められたオベロンは、忌々し気に舌打ちする。
「ここはすでに、私の結界内、だよ。妖精王」
オルランドは忍び笑いを漏らすと、すっと右手をあげた。
「何をする気だよっ? 言っただろう? もうお前らと戦うつもりなんてない!
僕は逃げるっていっただろ! こんなことしてないで、さっさと3人で寝室にしけこめよっ!
……ティトのことも、勝手にすればいいだろっ!
でもどうせ、新しい魔王様は処女厨なんかじゃないから、僕は絶対にあきらめないけどねっ!!」
この期に及んでなおも悪態をつくオベロンに、オルランドは目を細めた。
「まあまあ、せっかくこんなところまでわざわざ来てくれたんだ。そんなに急いで帰ることもないだろう?
妖精王のあなたに、ぜひとも会わせたい方がいるんだよ」
「は? 会わせたい、方……だって?」
眉を顰めるオベロン。今この瞬間も、逃げ出せそうな場所を必死で探している。
「ああ、契約したはいいが、危険すぎていままで一度も呼び出したことはなかったが……、
きっと『彼女』もあなたに会いたがっているはずだ……」
言い終えないうちに、オルランドはすでに召喚魔法の体勢に入っていた。
「ちょ、ちょっと、待てっ! お前っ、何を……っ!! ちょっ、ちょっと本当に、や、やめろ、」
オベロンが慌てふためく。
オルランドはその両の手を、天に掲げた。
「深潭の闇より生まれしものよ……、
今、その永き眠りより目覚めよ。
封印されし禁断の帳より今ここに一時の顕現をーー召喚・ベリアル!!」
「な、なんで、なんで、お前が、お前ごときが、ベリアル様を……、嫌だああああああああ!!!!」
オベロンの叫び声とともに、あたりには黒い煙が立ち込めて、俺はしばらく何も見えなくなった。
『……久しいのう、オベロンよ』
腹の底から響いてくるような、冷え冷えとした重い声音。
「ひょええええええっ、ま、魔王様っ、おひさしゅうございますっ……」
オベロンは、額を床にこすりつけんばかりに這いつくばった。
オベロンの目の前には、大きな二本の角をはやした女性形の悪魔がいた。
波打つ長い黒髪は、床まで垂れており、黒く艶のある装束がその肉感的な身体を包んでいる。
息を呑むほど美しい顔はしかし、ひどく残忍な表情をしていた。
見てはいけないものだとわかっているのに、思わず目を向けてしまうーー、この悪魔にはそんな危うい魅力が漂っていた。
しかし……、
――魔王、様??
『相変わらずしょうもない悪さをしておるのか? どうせ当代ともうまくいっておらんのであろ?』
鋭くとがった真っ黒い爪を、オベロンに向ける悪魔。その言葉で俺は気づいた。
――この悪魔『ベリアル』は、先代の魔王なのだ。
代替わりしたという先代の魔王が、しかしなぜオルランドによって呼び出されたのか……。
「魔王様ぁ! お願いですぅ! 僕ってば今、この人間たちにいじめられてるんですぅ!
可愛い部下だった僕のために、どうか魔王様のお力を貸してくださいぃ!!」
泣き顔を作ったオベロンは、ベリアルに懇願する。
『できぬ』
身もふたもない返答に、オベロンの顔に絶望の色が広がる……。
「そんなあ、そんなあ……!」
『愚か者が! 見てわからぬのか? 妾はいま、この人間に召喚されたのじゃ。悪魔の契約は絶対じゃ。
何であろうと逆らうことはできぬ。……さて』
ベリアルはゆっくりとオルランドを振り返った。
『望みはなんじゃ? このおしゃべりな妖精を一瞬で灰にすればよいのか?
それとも、妾のこの爪で、一枚ずつ皮を剥いでゆっくり楽しむか……?』
ククッとベリアルは喉の奥で笑う。
その表情は、かつての部下であろうと、自分にとってはまるで虫けらのごとき存在だと語っている。
オルランドに壁側に追い詰められたオベロンは、忌々し気に舌打ちする。
「ここはすでに、私の結界内、だよ。妖精王」
オルランドは忍び笑いを漏らすと、すっと右手をあげた。
「何をする気だよっ? 言っただろう? もうお前らと戦うつもりなんてない!
僕は逃げるっていっただろ! こんなことしてないで、さっさと3人で寝室にしけこめよっ!
……ティトのことも、勝手にすればいいだろっ!
でもどうせ、新しい魔王様は処女厨なんかじゃないから、僕は絶対にあきらめないけどねっ!!」
この期に及んでなおも悪態をつくオベロンに、オルランドは目を細めた。
「まあまあ、せっかくこんなところまでわざわざ来てくれたんだ。そんなに急いで帰ることもないだろう?
妖精王のあなたに、ぜひとも会わせたい方がいるんだよ」
「は? 会わせたい、方……だって?」
眉を顰めるオベロン。今この瞬間も、逃げ出せそうな場所を必死で探している。
「ああ、契約したはいいが、危険すぎていままで一度も呼び出したことはなかったが……、
きっと『彼女』もあなたに会いたがっているはずだ……」
言い終えないうちに、オルランドはすでに召喚魔法の体勢に入っていた。
「ちょ、ちょっと、待てっ! お前っ、何を……っ!! ちょっ、ちょっと本当に、や、やめろ、」
オベロンが慌てふためく。
オルランドはその両の手を、天に掲げた。
「深潭の闇より生まれしものよ……、
今、その永き眠りより目覚めよ。
封印されし禁断の帳より今ここに一時の顕現をーー召喚・ベリアル!!」
「な、なんで、なんで、お前が、お前ごときが、ベリアル様を……、嫌だああああああああ!!!!」
オベロンの叫び声とともに、あたりには黒い煙が立ち込めて、俺はしばらく何も見えなくなった。
『……久しいのう、オベロンよ』
腹の底から響いてくるような、冷え冷えとした重い声音。
「ひょええええええっ、ま、魔王様っ、おひさしゅうございますっ……」
オベロンは、額を床にこすりつけんばかりに這いつくばった。
オベロンの目の前には、大きな二本の角をはやした女性形の悪魔がいた。
波打つ長い黒髪は、床まで垂れており、黒く艶のある装束がその肉感的な身体を包んでいる。
息を呑むほど美しい顔はしかし、ひどく残忍な表情をしていた。
見てはいけないものだとわかっているのに、思わず目を向けてしまうーー、この悪魔にはそんな危うい魅力が漂っていた。
しかし……、
――魔王、様??
『相変わらずしょうもない悪さをしておるのか? どうせ当代ともうまくいっておらんのであろ?』
鋭くとがった真っ黒い爪を、オベロンに向ける悪魔。その言葉で俺は気づいた。
――この悪魔『ベリアル』は、先代の魔王なのだ。
代替わりしたという先代の魔王が、しかしなぜオルランドによって呼び出されたのか……。
「魔王様ぁ! お願いですぅ! 僕ってば今、この人間たちにいじめられてるんですぅ!
可愛い部下だった僕のために、どうか魔王様のお力を貸してくださいぃ!!」
泣き顔を作ったオベロンは、ベリアルに懇願する。
『できぬ』
身もふたもない返答に、オベロンの顔に絶望の色が広がる……。
「そんなあ、そんなあ……!」
『愚か者が! 見てわからぬのか? 妾はいま、この人間に召喚されたのじゃ。悪魔の契約は絶対じゃ。
何であろうと逆らうことはできぬ。……さて』
ベリアルはゆっくりとオルランドを振り返った。
『望みはなんじゃ? このおしゃべりな妖精を一瞬で灰にすればよいのか?
それとも、妾のこの爪で、一枚ずつ皮を剥いでゆっくり楽しむか……?』
ククッとベリアルは喉の奥で笑う。
その表情は、かつての部下であろうと、自分にとってはまるで虫けらのごとき存在だと語っている。
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