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逆襲

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「へっぽこ妖精に眠らされてる場合じゃないぞ! 来い、イラーリアっ!」

 ファビオが叫ぶと、ビュンと風の音とともに、魔剣『イラーリア』がその手元に呼び寄せられた。


『はわわ~、我が君、ファビオ様ぁ! 光栄に存じますぅ♡』

 俺に対する態度とは180度違うしおらしさで、『イラーリア』はファビオに従う。


「はん、僕に一瞬で眠らされちゃうようなカワイイお嬢さんが、僕の相手?
ずいぶん見くびられたもんだね!」

 オベロンが、挨拶代わりとばかりに、『イラーリア』を手にしたファビオの周りに、かまいたちの攻撃を食らわせた。

「……っ」

 ほんの少しではあるが、旋風により切られたファビオの銀髪が、空を舞った。


 ーーやはり、オベロンは強い!


「いつものご自慢の剣はどうしたんだよ? そんな若い子に僕の相手が務まるのかな?」

 オベロンのせせら笑い。


「あいにく聖剣じゃ、妖精のアンタを切り刻めないんでね。それに、俺のイラーリアを甘く見てもらっちゃ困るよ!」


 ファビオは笑みを浮かべると、その左腕を高く挙げ、そのままむき出しになった手首に自らその刃を走らせた。

 ファビオは顔色を変えず、流れ出た鮮血を、そのまま『イラーリア』の剣身にたらした。


「さあ、イラーリア! お前の真の実力を、見せてやれ!」



『ぐわあああああああ、久しぶり、久しぶりの、ファビオさまのおぉおおお、血、血、血ぃいいいいいいいいい!!!!
いただきまぁあああああす!!!!』


 今まで聞いたことのない、どすの利いた声。イラーリアはその剣身を震わせると、滴るファビオの血を音を立てて飲み尽くした。


「……っ、おまえ、まさかっ……!」


『ああ、最高、最高、最高だわぁああああ、おいしぃいいいいい!! この震えるほどの美味、滾るぅうううううううう!!!!』

 ブルンと震えた『イラーリア』は、剣身の色をみるみる真紅に変えた。
 そこからは禍々しいオーラが立ち上っている。



「ひ、卑怯だぞっ! 魔剣に餌を与えて補強するなんてっ!」


 ーー話に聞いたことがある。

 魔剣は、その主人から、髪や血といった『代償』を与えられることで、その真の力を発揮することができるのだ。


  ファビオは無言で、『イラーリア』を一振りした。
 離れていた俺にすら、その熱風が伝わってくる。


「ひゃああああああっ!」

 次の瞬間、俺が目を開けると、オベロンの後ろ髪はすっかり短くなっていた。


「ああ、言い忘れてたけど、そのおかっぱ頭、時代遅れだったぜ? これでちょっとはすっきりしただろ?」

「貴様っ、僕の美しい髪をっ……! 許さないぞっ!」

 オベロンはすっかり短くなった自分の頭を撫でると、憎々し気にファビオを睨みつける。


「最近、すっかりご無沙汰だったから、俺のイラーリアちゃんも嬉しくて仕方ないみたいだ……。
妖精さんの美味しい血が、たくさんすすれるってね……」

 ファビオは、魔剣を横向きに構えてオベロンを見据える。


『ああ、とっても美味しそうな匂いがするぅうううううう!!!!』

 『イラーリア』はぶるぶると歓喜に震えて、今にもオベロンに襲い掛かりそうだ。
 その姿はもうすでに「剣」という範疇は超えていて、強大な「魔物」の気配が色濃くなっている。


「じゃあ、まずは耳から、いくか?」

「ま、待て!!」

 ファビオの問いに、オベロンは後ずさった。
 オベロンにより完璧に貼られていたはずの身の回りの防御のベールは、今やほころびを見せ始めている。


「くそっ、これは完全にルール違反だぞっ!
麗しい僕が、こんなケダモノを相手にするなんて、まっぴらごめんだ!!
だから、僕は撤退する! いいか、これは逃げるんじゃないぞ! 勇気ある撤退、だっ!」

 言うなり、オベロンは一瞬でその姿を消した……、が、




「甘いな、妖精王、この私の結界から出られるとでも思ったのか?」


 ――オルランドが、オベロンの目の前に立ちふさがっていた。




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