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ティトと魔法のオルゴール

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「わあああああっ、やめてくださいっ、ファビオ様っ!」

 俺はファビオの後ろから、ぎゅっと抱き着いた。
 ファビオがくるりと、感極まった表情で俺を振り返る。

「ティト!! そんなに熱烈に、俺を抱きしめてくれるなんてっ!! やっぱり君は俺のことを……っ!」

 ファビオはあろうことか聖剣を放り投げると、俺を正面からひしと抱きしめた。


「え!? ファビオ、さまっ!?」


 ――そういう場合では、ないと思うのだが。


「ずるいぞ、ファビオ! ティト、私のことも抱きしめておくれ!!」

 今度はオルランドがファビオを俺から引きはがしにかかる。


「は!?」


 ――ええーっと、今、何をしてたんだっけ……。

 そうそう……。


「あのっ、オルランド様っ! 俺、オルランド様から頂いたプレゼントにも、全然心当たりが……、あっ」


 そしてまた俺は、思い出してしまった。

「そういえば……、メールボックスに届いていた小さな箱がどうしても開かなくて、ファビオ様に相談したことがあったんです」

「なん、だと!? ファビオっ、一体どういうことだっ!?」

 ファビオの腕の中から解放された俺が、ぜえぜえと息を荒げながら言うと、今度はファビオがにやりと笑った。


「そういうお前だって、たいそうなロマンティストじゃないか、オルランド!
ああ、あの愛のオルゴールの調べ、お前の美声がいかんなく発揮されていたな! それに、朝起こすための甘い囁き声……。
いやあ、新鮮だったよ! お前って、意外とナルシストな奴だったんだな! 大魔導士様にそんな一面があったなんて!!」

「どうして、お前が、知っている!!」

 憤怒でどす黒く変わってしまったオルランドの顔。


 ファビオはせせら笑った。

「お前こそ、ティトの気持ちになって考えるべきだったな。
魔力が有り余るお前は、きっと気づきさえしないんだろうな。あの魔道具の箱をあけるのだって、かなりの魔力を消費するんだよ。
知っているだろう? ティトは生活魔法も苦手なんだ。
あの箱が開かなくて困っていたティトを俺が手助けしたやった、それだけのことだよ」

「すみません、オルランド様!
俺、何も知らなくて! ファビオ様はこれは呪いの箱だから、回収して燃やしておくって……」

 おろおろする俺に、ファビオは微笑んで見せた。


「お前と同じように、そのあとのお前の贈り物は、全部俺に届くように采配したってわけ。
心配いらないよ。ティト、あの箱の中身は燃やしてなんかいないよ。
あんなによくできた魔道具を捨ててしまうのはあまりにもったいないと思ったからさ、
俺も相談したんだ。お前の親衛隊に!
そしたら、すぐにチャリティオークションを開催してくれてさー。全部すごい高値で売れたんだ。
安心しろ、オルランド! 金は恵まれない子供たちのための教会の基金に、全額寄付してやったさ!!」

「き、さ、ま……」

 呻くように言うと、オルランドはファビオの襟元をつかんだ。


「ははっ、そう怒るなよ、オルランド!
ああ、一つ言い忘れていたことがあったんだ。
あの目覚ましもオルゴールも、お前の声で『ティト、ティト』ってうるさかったからさー、その部分だけ魔法で消去しようとしたんだよな。
じゃないと売り物になんないし!
しかし、お前の魔法って複雑で難しいのな。だから、しょうがないからお前の母上に頼んで、その部分だけ消してもらったんだー!」

「!!!!!!!!」

 オルランドはファビオを突き飛ばすと、その両の手を上にあげた。

「あ、あ……、オルランドっ、様ッ……!!」


 オルランドの頭上にはすでに、大きな黒い魔力の塊が蠢いている。
 オルランドは、怒りで我を忘れていた。



「死ね! ファビオっ!! お前にはその道しか残されていない!!」





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