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ああ、この恋の光が……

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「ティトっ、どれだけ俺を振り回せば気が済むんだ!
魔法学園で出会ってから、俺はほとんど毎日、君のメールボックスに俺の自作の詩を届けていたはずだ!!
俺の名前だって、ちゃんと書いてた! それを君は……っ!」

 ファビオが息がかかりそうなくらい、俺に顔を近づけてくる。

 ――美しい人って、いい匂いもするんだぁ……!

 ってそんなことじゃなく!!


「し、知りませんっ、毎日届く詩なんて、俺は何も……、あ……」

 言いかけところで、俺は思い出した。


「そう言えば、だいぶ前に呪文がかかれたみたいな全然読めない手紙がメールボックスに届くようになって、
オルランド様に相談したことが……」

 恐る恐る俺がオルランドを見ると、オルランドはにいっと唇のはしを吊り上げた。


「ファビオ、驚きだよ! お前に詩の才能があっただなんて!」

「なん、だとっ!」

 ファビオがオルランドの襟首をつかんだ。


「オルランド、お前っ、何をしたっ!?」

 オルランドはファビオの腕を振りほどくと、楽し気な笑みを浮かべた。


「そもそもお前は、なんにでもかっこつけすぎなんだよ!
ティトは最近ようやく読み書きを一通り覚えたばかりなんだ。
そんなことも知らないで、最初っから流麗体の文字なんか使って、イキがって書いたお前が悪い。
ティトにとっちゃ、あんなぐにゃぐにゃした崩し字、魔女の書いた呪文にしか見えなかったんだよ。
だが、安心しろ! もちろん、あの呪いの手紙は、私が全部回収した」

「ファ、ファビオ様っ、大変申し訳ありません。俺、まだちゃんと文字が読めなくて……、
オルランド様に相談したら、これは呪いの手紙だから、解呪してくれるって……、それで……」

 オルランドは目を細めて、あたふたする俺を見た。

「ティトは何も悪くないよ。あんな害悪な手紙、君が読んではいけないものだ。
ファビオ、そのあとの手紙は全部、私に転送するように魔法をかけて、すべて私の元に届いていたんだよ。
長い付き合いだが、お前があんなに情熱的な詩を書く男なんて、知らなかったよ……。
ファビオ、私は感動したよ。

『ああ、この恋の光が
羽ばたきとともに空を舞い
張り裂けるほどの
この胸のたかなり』……だっけ?

情緒あふれる繊細ないい詩だ!」



「言うなああああああああっ!!!!」

 首元まで真っ赤になったファビオは、再びすごい勢いで、オルランドにつかみかかった。

 ファビオの剣幕とは裏腹に、オルランドは涼しい顔だ。


「あんなに素晴らしい詩を、私だけが読んでいたのではもったいないと思ったのでね。
お前のファンクラブに相談したんだ。そうしたら彼女たち、すごく感動して、この素晴らしい詩編をぜひ本にまとめたいという話になった。
もうすぐ自費出版されるらしいよ。こんど、出版の記念に、学園の大講堂で朗読会が開かれるんだ。
ファビオ、ぜひお前も参加し……」


「殺す殺す殺す殺すっ、お前だけは絶対に殺すっ!!」


 ファビオは聖剣『ドゥリンダナ』を手元に呼び寄せると、躊躇なくその鞘を抜いた。




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