【完結】足手まといの俺が「史上最強パーティを離脱したい」と言い出したら、なぜか国の至宝と呼ばれる剣聖とその親友の大魔道士に囲い込まれる話

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ティトのこれから

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 しばらく、沈黙が続いた。


「あの、ファビオ様、オルランド様……」


「……俺の気持ちには応えられない……、そういうことか?」

 ファビオのこんな怖い声を、俺は初めて聞いた。


「驚いたよ、ティト。急にこんなことを言われて」

 オルランドの声は穏やかだった。だが、その両の手は、色が変わるほど強く握りしめられていた。


「『嘆きの森』で野営してたときから、ずっと仲良くやってきたじゃないか!
ティトも毎日楽しいって言ってくれていた。
俺たちの気持ちにずっと気づいてなかったなんて、嘘だ!!」

 ファビオはぐっと顔を俺に近づけた。
 
 怒りに満ちたその顔まで、はっとするほど美しい……。



「ごめん、なさい。でも、本当にお二人の気持ちには全然気づいてなかったんです。
俺は、ずっと夢だったダンジョン攻略に同行できて、すごく嬉しくて、それに舞い上がってて……。
だからお二人の気持ちにも配慮できず、結果として迷惑をかけることになってしまいました……」


「ティトはただ、ダンジョンの冒険をしたかっただけってこと? 君は俺たちを利用したの?
……ティト、君がそんな酷薄な人間だとは思わなかった」

 オルランドの昏い瞳に、俺はドキリとする。


「そんなつもりは、なかったんです。
ただ、俺が考えなしだっただけで…‥」

 俺は膝の上で拳を握り締める。



「俺はっ、絶対納得できないっ!!」

 ガンっと拳をテーブルに叩きつけたファビオ。

 普段はこんな荒っぽいことをする人ではない。
 ――それだけ怒りが、強いのだろう。

 俺は背筋が、寒くなった。


「私も、きちんと理由を聞くまでは、承知することはできかねる!」

 オルランドの眉間に寄った皺がますます深くなる。


「……」


 でも、どうしてなのだろう? 俺は二人のお邪魔虫で、俺がいない方が二人にとっては都合がいいに違いないのに、なぜこうも二人は、さっきから怖い表情で俺を見ているのだろう。

 本当なら、二人は喜んで俺のパーティ離脱を受け入れてくれて、それで俺は笑顔で二人の結婚を祝福するはず、だったのに……。


 目の前にいる二人は、すごく恐ろしい表情なのに、なぜか悲壮な顔もしていて、しかも俺のパーティ離脱を絶対許さないという構えを見せている……。


 ――なにかが、おかしい。
 
 俺は何を間違ってしまったんだ!?



「ティト、君はパーティを離脱して、これからどうするつもり?
また魔法学園に戻るの?」

 オルランドの感情を抑えた問いに、俺は気づいた。


  ああ、そうなのか!
 二人はきっと、俺がこの冒険から戻ってから、学園で居場所がなくなってしまい、路頭に迷ってしまうのではないかと心配してくれているのだ。

 なんて心優しい二人なのだろう!
 ーー俺は心がじんわりと暖かくなった。



「はい、もちろんそのつもりです。ちゃんと休みの許可はとってあるから、戻ってからも俺の仕事はあるから大丈夫です!
あと俺……、フォンターナ先生から一緒に住もうっていわれてるんです」


「「!!!!!!」」


 フォンターナ先生は本当に親切な人で、自分で下宿を探すのは大変だし、お金も余分にかかるからといって、俺に余った部屋を無料で貸し出してくれると、以前から申し出てくれていた。お金持ちのフォンターナ先生のお屋敷には、部屋がたくさんあまっているらしい。
 18歳になった俺は、もうすぐ学園の使用人の寮は出ないといけないから、今後はそこで厄介になろうと思っていた。でもタダで住むなんて申し訳ないので、俺は、そこで家事や力仕事をして、フォンターナ先生に恩返しするつもりだった。



「「フォン、ターナ、だとっ?」」

 二人の声がそろう。


 しかしなぜ二人は、こんなに憎々しげにフォンターナ先生の名前を呼ぶのだろう?


「はい、フォンターナ先生はいまのところ結婚の予定もないし、決まった人もいないから、なにも遠慮することはないって言ってくれていて……、だから俺、お金がたまるまでしばらく、先生の所に厄介になろうかと……」


「「……駄目だ……」」


「え!?」




「「絶っ対に、ぜえええええったいにっ、ダメだっ!!!!」」



 二人は同時に立ち上がった。

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