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二人との出会い
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「あー暇だあっ!」
いつもなら、今頃はダンジョン内で、ファビオとオルランドがばっさばっさと魔物を狩りまくっているころだ……。
部屋のテーブルの上に、二人が食料やお菓子をたくさん準備してくれていたので、俺は特に外にでなくても困ることはなかった。
だが……、
「あー、やることないっ! ヒマっ!」
学園で働いていた頃は、早朝の掃き掃除から始まって、壊れ物の修繕や荷物運び、先生たちの御用聞きなど、日暮れまで毎日あくせく働いていた。思えばこんなにヒマを持て余したことなど、一度もない。
俺はぼんやりと思い出す。
フォンターナ先生の紹介で、魔法学園で働き始めたのは16歳の夏。
幼い頃から農作業をしていたので、学園での力仕事は特に苦にならなかった。
それよりも、俺の生まれた村では見たこともないような立派な建物や、貴族の子女たちの優雅な身なり、そして俺もたまにおこぼれに預かれる学園食堂での贅沢なランチ……。
裏方からとはいえ、こんな華やかな世界に関われたことを俺はとても幸せに思っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、君、剣術に興味があるの?」
手にしたほうきで、剣を振るう真似事をしていた俺は、声をかけられてびっくりして振り返った。
そこには澄んだ青い瞳が印象的な、とんでもなく美しい男子生徒が立っていた。
「さ、サヴォイア、様っ……」
俺みたいな下男でも、ファビオとオルランドのことはよく知っていた。学園の生徒たちは、いつも彼らに注目していたし、嫌でもその噂は耳に入ってくるからだ。
「君、なかなか筋がいいよ。ほうきじゃなくて、本物の剣を貸してあげようか?」
笑顔で近づくファビオに、俺はふるふると首を振った。
「た、大変、申し訳っ、ありません。お、俺は今っ、ここの掃除をしているだけ、ですので、どうか、お構いなく……、お坊ちゃま!」
「ああ、ここでいつも掃除をしてるんだ。じゃあ、毎朝この時間にここに来たら、君に会えるのかな?」
「は、はい……、いや、その、えーっと……」
学園の超有名な生徒に話しかけられて、俺は完全にパニクっていた。
だが一体何をどう気に入ったのか、はたまた単なる気まぐれか、ファビオはそれ以来毎朝必ず俺の掃除場所に現れ、人目を忍んで俺に剣術指南をしてくれるようになったのだ。
そして、オルランドと学園内で出会ったのも、ほぼ同じ時期だった。
その時も、俺はほうきを手に、構内の掃除をしているところだった。
その日は特に風が強い日で、次から次に落ちてくる葉っぱに俺は苦戦していた。そんなとき、学園の生徒が書いた勧誘チラシが俺の目の前に飛んできて、俺はそれを拾い上げた。
「ほ、ぼ、し、ゆ、ぅ、と、し、よし、ん、し、やかん、げ……」
「部員募集、初心者歓迎、だよ」
「わああっ!!」
とつぜん俺のすぐ後ろから低音の美声がして、俺は飛び上がった。
「ふふっ、ごめんね。あんまり熱心に読んでるから、何を見ているのか、気になっちゃって!」
振り向くと、長い黒髪の、たいへん趣のある美形が立っていた。
「ぐ、グリマルディ、さま……っ!」
オルランドは俺からチラシを取り上げた。
「君、もしかして読み書きを習ってないの?」
黒い瞳に見つめられ、俺は赤くなってうつむいた。
「あ、あの、俺、学校には、行ってなく、て……」
「そう、じゃ、私が教えてあげるよ。読み書きができたほうが何かと便利だろう?
必要な教材も渡したいから、明日もこの時間、ここに来れるかい?」
「え、あの、でも、そんな、こと、お坊ちゃまには……っ」
「じゃ、約束だよ。明日待っているからね」
「え、あ、ええっ!? あのっ、そのっ!」
そしてオルランドもまた、それから俺に毎日こっそり、文字の読み書きを教えてくれるようになったのだった……。
いつもなら、今頃はダンジョン内で、ファビオとオルランドがばっさばっさと魔物を狩りまくっているころだ……。
部屋のテーブルの上に、二人が食料やお菓子をたくさん準備してくれていたので、俺は特に外にでなくても困ることはなかった。
だが……、
「あー、やることないっ! ヒマっ!」
学園で働いていた頃は、早朝の掃き掃除から始まって、壊れ物の修繕や荷物運び、先生たちの御用聞きなど、日暮れまで毎日あくせく働いていた。思えばこんなにヒマを持て余したことなど、一度もない。
俺はぼんやりと思い出す。
フォンターナ先生の紹介で、魔法学園で働き始めたのは16歳の夏。
幼い頃から農作業をしていたので、学園での力仕事は特に苦にならなかった。
それよりも、俺の生まれた村では見たこともないような立派な建物や、貴族の子女たちの優雅な身なり、そして俺もたまにおこぼれに預かれる学園食堂での贅沢なランチ……。
裏方からとはいえ、こんな華やかな世界に関われたことを俺はとても幸せに思っていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ねえ、君、剣術に興味があるの?」
手にしたほうきで、剣を振るう真似事をしていた俺は、声をかけられてびっくりして振り返った。
そこには澄んだ青い瞳が印象的な、とんでもなく美しい男子生徒が立っていた。
「さ、サヴォイア、様っ……」
俺みたいな下男でも、ファビオとオルランドのことはよく知っていた。学園の生徒たちは、いつも彼らに注目していたし、嫌でもその噂は耳に入ってくるからだ。
「君、なかなか筋がいいよ。ほうきじゃなくて、本物の剣を貸してあげようか?」
笑顔で近づくファビオに、俺はふるふると首を振った。
「た、大変、申し訳っ、ありません。お、俺は今っ、ここの掃除をしているだけ、ですので、どうか、お構いなく……、お坊ちゃま!」
「ああ、ここでいつも掃除をしてるんだ。じゃあ、毎朝この時間にここに来たら、君に会えるのかな?」
「は、はい……、いや、その、えーっと……」
学園の超有名な生徒に話しかけられて、俺は完全にパニクっていた。
だが一体何をどう気に入ったのか、はたまた単なる気まぐれか、ファビオはそれ以来毎朝必ず俺の掃除場所に現れ、人目を忍んで俺に剣術指南をしてくれるようになったのだ。
そして、オルランドと学園内で出会ったのも、ほぼ同じ時期だった。
その時も、俺はほうきを手に、構内の掃除をしているところだった。
その日は特に風が強い日で、次から次に落ちてくる葉っぱに俺は苦戦していた。そんなとき、学園の生徒が書いた勧誘チラシが俺の目の前に飛んできて、俺はそれを拾い上げた。
「ほ、ぼ、し、ゆ、ぅ、と、し、よし、ん、し、やかん、げ……」
「部員募集、初心者歓迎、だよ」
「わああっ!!」
とつぜん俺のすぐ後ろから低音の美声がして、俺は飛び上がった。
「ふふっ、ごめんね。あんまり熱心に読んでるから、何を見ているのか、気になっちゃって!」
振り向くと、長い黒髪の、たいへん趣のある美形が立っていた。
「ぐ、グリマルディ、さま……っ!」
オルランドは俺からチラシを取り上げた。
「君、もしかして読み書きを習ってないの?」
黒い瞳に見つめられ、俺は赤くなってうつむいた。
「あ、あの、俺、学校には、行ってなく、て……」
「そう、じゃ、私が教えてあげるよ。読み書きができたほうが何かと便利だろう?
必要な教材も渡したいから、明日もこの時間、ここに来れるかい?」
「え、あの、でも、そんな、こと、お坊ちゃまには……っ」
「じゃ、約束だよ。明日待っているからね」
「え、あ、ええっ!? あのっ、そのっ!」
そしてオルランドもまた、それから俺に毎日こっそり、文字の読み書きを教えてくれるようになったのだった……。
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