上 下
11 / 63

キス

しおりを挟む
 ぺろりとファビオの傷を舐めて、口の中に血の味が広がったところで、俺は我に返った。


 ファビオの美しい青の瞳が、驚きに見開かれている。


「も、申し訳、ありませんっ! 俺は……、なんて失礼なことを……、わあっ!!」


 次の瞬間、俺の視界は一変した。

 俺の腰と背中に手を回したファビオに、俺は押し倒されていたからだ。


 ダンジョンの冷えた床を、俺は背中で感じていた。だが、俺の身体を守るようにファビオに抱えられていたため、倒れるときに俺は全く衝撃を感じなかった。


「あの……、ファビオ、様……?」

 ファビオが熱を帯びた表情で、俺を見下ろしている。俺は信じられない思いでファビオを見つめ返した。


「先に仕掛けたのは、ティトだからな……」


 息がかかるほどの距離で囁くと、ファビオはそのまま俺に唇を合わせてきた。


「んっ、むっ、う……」

 びっくりしてジタバタする俺の両手を押さえつけるようにすると、ファビオは何度も俺に口づけた。


「ティト、ティト……っ」


 ファビオの熱い吐息……。



「あっ、ファビオっ、さまっ……、んっ、んんっ……!」


 気づくと、ぬるりと熱い舌が口内に侵入していた。
 俺はあまりに混乱していて、一体自分の身に何が起こっているのかさえわかっていなかった。


「ティト、すごく、可愛い、俺のティト……」

 逃げようとする俺の舌をあっという間に絡め取ると、ファビオは俺の舌先を吸い上げた。


「んあっ、あ、あ……」

 身体の奥に、今まで感じたことのない衝撃が走る。



 ーーそうだ、これはキスだ!



「ティト、すごく、熱い……、ほらもっと、もっと……」


「んっ、あ、ダメ、これ、以上は……、あっ、ファビオ、さま……っ」


 ーー俺はいま、ファビオと舌を絡め合い、情熱的な口づけを交わしている。




 くちゅ、くちゅと唾液と舌が絡み合う音が響く。

 ファビオが握りしめた俺の指先も、熱い。



「ティト、もう我慢できない、ティト!」

「ああ、ファビオ、さま……っ」

 身体の中心部に、熱い疼きを感じたその時ーー、



「はい、ここまでね。……ファビオ、お前、今私の存在を完全に忘れていただろう?」

 怒気をはらんだオルランドの声。
 俺はオルランドに抱き上げられる形で、ファビオから引き離された。



「ティト、大丈夫か? いきなりあんなに食い尽くすみたいなキスをして! 可哀想に。すごく怖かっただろう?」

 オルランドは俺にかがみ込むと、その親指でそっと俺の唇を拭った。そしてその黒いローブの裾で俺を隠すようにすると、ファビオに向き直る。



「ファビオ。わかっているね。お前はたった今、重大なルール違反を犯した。
一切の申し開きは認めないよ」


「……くそっ、オルランド!」

 ダンジョンの床の上に座ったままのファビオが、その拳を叩きつけた。

 床には一瞬で大きな亀裂が走った。

 オルランドはそれを見て眉をひそめた。


「ファビオ、お前はいつも直情的すぎる。まあ、私もあんなふうに情熱的にティトに迫られてしまったら、理性を保てる自信なんて、到底ないけどね……」

「オルランド、だからこれは不可抗力、だろ?」

 ファビオがふらりと立ち上がって、額にかかった銀色の髪を払った。


「不可抗力、ね。たしかに、最初のティトの行動は確かにそうだったのかもね。でもファビオ……」

 オルランドはその唇に笑みを浮かべる。



「そもそも、私には疑問なんだよ。なんでお前は都合よく、唇だけを怪我したんだい?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

R18禁BLゲームの主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成りました⁉

あおい夜
BL
昨日、自分の部屋で眠ったあと目を覚ましたらR18禁BLゲーム“極道は、非情で温かく”の主人公(総攻め)の弟(非攻略対象)に成っていた! 弟は兄に溺愛されている為、嫉妬の対象に成るはずが?

処理中です...