上 下
9 / 63

過信と油断

しおりを挟む
 ダンジョン第4層ともなると、モンスターの様相はガラリと変わる。

 物理攻撃だけでは倒せないモンスター、特殊魔法でこちらを惑わしてくるモンスター、そして、人の言葉を理解し、こちらの精神を揺さぶる攻撃を仕掛けてくるモンスター……。

 人語を話すことのできるモンスターは、姿かたちもモンスターという概念からは外れており、肌の色や角、牙や尻尾といった形容を除けば、人の形に近く、その分大変たちが悪い。他のダンジョンではボス格のようなレベルのモンスターに、ここ4層では当たり前のように遭遇する。


 だが、そんな他の冒険者では苦戦するようなモンスター相手にも、ファビオとオルランドが怯むことはまったくなかった。


「いいね、いいね! ようやく俺の『ドゥリンダナ』ちゃんが本領発揮できるモンスターが出てきてくれて嬉しいよ!」

 ファビオがその聖剣『ドゥリンダナ』を一閃させると、人食い鬼・オーガ10体の首が一瞬で飛んだ。あたりに青い血が大量に飛び散る。


「うわー、そんなエグい絵面、ティトに見せないでくれるかな?」

 苦笑いのオルランドは、両手を上げると召喚魔法でモンスターを呼び出す。


「『獅子神』来い!」

 魔物を食するこの獅子の姿をした召喚モンスターは、咆哮すると同時に、目の前のヒュドラに飛びかかってその鋭い爪を立てた。


「うわ、お前そんなモンスターも飼ってたのかよ!? こっちのほうがよっぽどエグいだろ? 引くわー」

「あはは、すごいだろ? さすがに『獅子神』は、危なくて王都あたりでは出せないからね!」

 二人が軽口を叩いている間に、『獅子神』はあっという間にヒュドラを食らいつくしてしまった。




「さ、次、行こうか、ティト」

 二人の鮮やかな戦いぶりに圧倒されていた俺は、ファビオに声をかけられ、ようやく我に返った。


 ーーどうしよう、俺また、なんの役にも立ってない!


「あの、俺っ……」




『待たれよ、勇者よ!』

 そのとき、何者かが直接俺たちの脳内に語りかけてきた。

 あたりはあっという間に黒い煙に包まれる。


「あれ? 勇者ってもしかして俺のこと?」

 ファビオがとぼける。


「まあ、お前はそのうち剣聖になるんだから、あながちその表現は間違いでもないんじゃない?」

 オルランドにも動じる様子はない。


「あの、ファビオ様、オルランド様……っ」

「しっ、ティトは下がって!」

 オルランドが俺の前に立つ。


 みるみるうちに、黒い煙は一箇所に集まり、それはデーモンに姿を変えた。

 青黒い肌、羊のような角、コウモリのような羽、そして尻尾……。尖った耳に鋭い牙と爪……。だが、黒い装束を身にまとったその姿は、人間に酷似している。




『我が名にかけて、貴様らをこれ以上先へ進ますわけには行かぬ!』


「おお、これはちょっとは骨がありそうだな」

 ファビオが口笛を吹き、聖剣を肩に担いだ。


「デーモン、か。いいね。ぜひ私のコレクションに加えたいな」

 オルランドが手のひらに闇の魔力を集め始める。



『死の宣告!!』

 デーモンから紫色の波動が放たれた。『死の宣告』により、俺たちは制限時間以内にデーモンを倒さないと全員が死亡することになってしまった。


「おいっ、オルランド、あと何カウントだ?」

 聖剣を握りしめ、ファビオが叫ぶ。

「きっかり60!」

「なら、全然、余裕!」


 ファビオは聖剣『ドゥリンダナ』を振り上げる。


 だが、その一撃がデーモンに届く直前に、デーモンは召喚魔法を繰り出した。


『リリス、召喚! あとは頼んだぞ! フリーズ!』

 『ドゥリンダナ』がデーモンの身体を引き裂き、その姿は砂となって崩れ落ちる。


 だが……、今際の際にデーモンが唱えたフリーズ魔法によって、ファビオの動きが一瞬止められてしまう。


「くそっ、油断した! オルランドっ、ティトを!」

「お前の解除が先だ! 大丈夫、ティトを信じろ!」

 オルランドはファビオに解除魔法を浴びせる。




『可愛い坊や、私と遊びましょ?』

「……!!」


 後方へ下がっていた俺のすぐ目の前に、リリスーー美しい女性の姿かたちをした悪魔が迫っていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

モブに転生したはずが、推しに熱烈に愛されています

奈織
BL
腐男子だった僕は、大好きだったBLゲームの世界に転生した。 生まれ変わったのは『王子ルートの悪役令嬢の取り巻き、の婚約者』 ゲームでは名前すら登場しない、明らかなモブである。 顔も地味な僕が主人公たちに関わることはないだろうと思ってたのに、なぜか推しだった公爵子息から熱烈に愛されてしまって…? 自分は地味モブだと思い込んでる上品お色気お兄さん(攻)×クーデレで隠れМな武闘派後輩(受)のお話。 ※エロは後半です ※ムーンライトノベルにも掲載しています

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

薬屋の受難【完】

おはぎ
BL
薬屋を営むノルン。いつもいつも、責めるように言い募ってくる魔術師団長のルーベルトに泣かされてばかり。そんな中、騎士団長のグランに身体を受け止められたところを見られて…。 魔術師団長ルーベルト×薬屋ノルン

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...