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終わらなければいいのに

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 それでも、当の二人はどうだったかはともかく、俺にとってはすべてが初めての経験で、すごくキラキラした毎日だったことは間違いない。
 ファビオが貸してくれた魔剣『イラーリア』はもちろん、オルランドが揃えてくれた伝説の勇者顔負けの装備一式。身につけるだけで感激で、身体が震えるほどだった。

 ちなみに、ファビオとオルランドの装備は、装備といえないほど無防備な軽装だ。
 オルランドだけは魔道士らしく黒いローブをお飾り程度にまとってはいるが、ファビオに至っては魔法学園に通っている頃の、貴族のご令息スタイルとあまり代わり映えしない。白地に錦糸で縁取りされたきらびやかな丈の長い上衣は、そのまま夜会にも行けるくらいだ。背中に背負った聖剣『ドゥリンダナ』だけが、彼が剣士であることを見るものに知らしめている。
 というのも、SSSクラスの彼らがモンスターから攻撃を受けて負傷する心配はほとんどゼロ。ここが『嘆きの森』だろうが、国内最大のダンジョンだろうが、公園で遊ぶのとさして変わりがないのだ。この無双の魔剣士と魔道士にとっては!


 傍目で見ていても、二人にとってこの冒険は、単なる卒業前の暇つぶしであることは明らかだ。

 でも、俺にとって……、ただの足手まといに違いない俺にとっては、きっとこれから先の人生でも一生得ることのできない、かけがえのない宝物みたいな毎日で……。


 この旅はもうすぐ終わる。

 ダンジョンを攻略し、冒険が終われば、俺はもちろんお払い箱。ファビオは剣聖となり、オルランドは大魔道士となる。平民の俺にとっては遠い雲の上の人だ。話すことはおろか、きっと直接顔を合わせることすらないだろう。


「このままずっと、終わらなければいいのに……」


 一人つぶやくと、隣の『イラーリア』がカタカタと震えて反応した。


『うるさい! 早く寝なさいってば! アンタは余計なこと考えないで、全部ファビオ様に任せてればいいんだから!』

「ごめんね、起こしちゃった?」

『……』


 俺の言葉に、『イラーリア』からもう返答はない。 


 目を閉じると浮かぶのは、蒼玉の瞳と黒曜石の瞳……。


 魔法学園にいたころから、ずっと憧れていた存在……。そんな二人が、今俺のすぐそばにいる。



 ーーずっとファビオ様とオルランド様と一緒にいたい。

 平民の俺にとって、あまりにもおこがましい望み。だが、叶うわけもないのに、こんなに近くに二人を感じ、その優しさに触れてしまった今となっては、身勝手にも願わずにいられない。



 ーーファビオ様、オルランド様……。

 俺は寝間着代わりにしているシャツの胸元をぎゅっと握りしめる。


 そう、俺はいつの間にか、二人に対して憧れとは違う、特別な感情を抱くようになってしまっていたんだ……。






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