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鉄壁の守り

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「アンタ、平民なんだってな? どうやってあんなお偉い貴族様を仲間に引き入れたんだ?」

 ファビオとオルランドが戻ってこないことをいいことに、近くのテーブルにいた酔っ払いの冒険者が俺の隣に座ってきた。

「いえ、俺は、仲間というか……」

「そうか、アンタはポーター荷物持ちか? その割には、その魔剣、すげーな。装備も一流じゃん! あの二人に揃えてもらったんだろ? さすがは大貴族のお坊ちゃまたちだよな。けどアンタは見たところ、特に能力もなさそうだし、たいして強くもなさそうだ。ってことわよ、アンタはこっちの方であのお坊ちゃまたちの面倒を見てるってことだよな?」

 酔っ払いの手が、俺の尻に伸びる。


「やめろ!」

 俺は、させまいとその手を掴んだ。


「んだよ、もったいぶるなよ。……どうせあのお坊ちゃまたちに掘られまくってんだろ?」

 酔っ払いはニヤニヤ笑うと、俺の顔に酒臭い息を吹きかけた。


「あいつらアッチの方も強そうだから、毎晩だとアンタも大変だよなあ。今日もこれから、しっぽりお楽しみってか? なあ、アイツらがいないうちに、俺もいっぺんくらい相手してくれよ」

 酔っぱらいの冒険者は俺の腕を掴むと、力任せに俺を抱き寄せようとした。

 だが……、


「うあああああああっ!!!」

 目の前の冒険者が絶叫する。
 
 その姿は赤い魔力に包まれていた。


『ったく、アンタね! 自分の身くらい自分で守れないの? こんな小汚いオッサン、隣に座ってきた時点でさっさと殴り飛ばしなさいよっ! こんなことで私の手を煩わせないで頂戴っ! アンタが他の男に触られでもしたら、こっちまでとばっちりが来るって何度言ったらわかるわけ? ああもうっ、ほんと苛つくんだからぁーっ!」

 魔剣『イラーリア』はその苛立ちをぶつけるかのように、酔っぱらいの冒険者に電流を流し続ける。


「ぎゃあああああ!!!!」

「あの、イラーリア、さん、もう、大丈夫、なので!」


『あー、ムカつくムカつく、ムカつくぅー!! なんでアンタみたいなパッとしない子に、我が主ファビオ様がっ……!』


「あの、イラーリアさんっ? これ以上やると、死んじゃうんでっ!』




「誰が死んじゃうって?」

「私達のいない間に、一体何があったのかな、ティト?」


「ヒィっ……!」

 いつの間にか戻ってきていたファビオとオルランドが、なぜか二人揃って笑顔でこちらを見ている。


「この男は誰だ?」

「説明して、ティト」


「あの……、それは……、つまり」


 おろおろする俺。周りのひそひそ声が耳に入った。



「あの男、知らなかったのかよ? あの子に手を出したらヤバいことになるっていうの……」

「昨日このダンジョンに来たばっかりらしいぜ。馬鹿なやつだよなー。もうダンジョン攻略どころじゃないだろうな」

「あの子の魔剣マジでやべーよな。あれに睨まれたら一巻の終わりだぜ」

「馬鹿だね。魔剣だけじゃないでしょ。アンタにはあの子のまわりの闇のオーラが見えないの? あれは並の魔法使いじゃ怖くて近寄れないね。クワバラクワバラ」



 

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