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招かれざるパーテイ

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「ティト、今日はいっぱい頑張ったから疲れただろう? たくさん食べるんだよ」

 そこにただ佇んでいるだけで色気ダダ漏れと女生徒から騒がれまくっているオルランドが、俺の皿に厚切りの肉を取り分けてくれた。

「いえっ、俺は、今日も特になんにも、してない、ので……、オルランド様のほうこそ、いっぱい、食べてください」

 皿を渡されるときに、ぴったりとオルランドと膝がくっついた俺は、慌てて距離を開ける。

「ふふっ、何を緊張してるの? 私は君を取って食いやしないよ? ティトは本当にかわいいね?」

「……ひゃっ!」

 耳元に息を吹きかけるようにして低い美声で囁かれ、俺は変な声を上げた。


「おいっ、オルランドっ! 近いぞ! ティトから離れろ!」

 俺を挟んでオルランドと反対側に座るファビオが、俺をぐいと引き寄せた。

「わっ!」

 スラリとした見た目とは想像もつかない筋肉で覆われた厚い胸板に、俺の頬が当たる。


「ティト、肉ばっかり食べててもだめだぞ! ほら、この野菜も食べるんだ!」

「ぐ、むぐっ……!」

 強引にグリル野菜を口に突っ込まれ、俺は目を白黒させた。


「あはは! 涙目になっちゃって、かーわいー! ファビオ、今度はティトにその太い人参をまるごと食べさせてみなよ。きっとすごーくエロ……、かわいい絵面になるんじゃないかな?」

「オルランド、お前はなんでいつもそういう思考しかできないんだ……、フン、だがお前の頼みとあれば致し方ない、はい、ティト、大きく口を開けるんだ、あーん!」

 ーー国の将来を担う大貴族のご令息に、平民の俺が逆らえるはずもない。


「ふぁい、ファビオ様。……あーん」


 俺は言われたとおり、ファビオに向かって大きく口を開けた。

「「……っ!!!!」」


 途端に目の前の二人の顔が、みるみるうちに紅潮した。


「??」

「ちょ、ちょっと席を外すぞ、ティト!」

「私も、……すまないが、少し失礼するよ」

 慌てた様子で席を立つ二人。


「はい……」

 そそくさと酒場の外に出る二人を、俺はぽかんとした表情で見送った。

 ーーもしかして、俺、なにか粗相をした!?



「ほらよっ、追加オーダーの葡萄酒だ!」

 ドンっと荒々しい音をたてて、木製のテーブルの上にグラスが2つ置かれた。

「あ、どうも」

 俺を見るなり、酒場の若い店員はチッと舌打ちした。

「なあ、アンタら、ついに第3層のモンスターも壊滅させたんだってなあ? 本当にアンタのパーティのお貴族様たちはお強いよ! このままじゃ、ダンジョン攻略もあっという間だよなあ?
本当に迷惑な奴らだぜ! こっちは生活かかってんだよ。貴族の道楽なら王都か城でやれって話だぜ! ったく!」

「あの……、すみません」

 俺が謝ると、店員はますます眉間のシワを深くした。

「謝るんならさっさと王都に帰れよ。アンタのご主人様たちが、あのダンジョンをクリアしちまったら、こっちは商売上がったりになるんだよっ!」

 捨て台詞をはくと、店員は厨房に戻っていく。

「……」

 そう。このままではそう遠くない未来に、ファビオとオルランドがこの国内最大にして難攻不落とよばれるダンジョンの最下層まで行き着き、ボスを倒してダンジョンをクリアしてしまう!
 それはもちろん素晴らしく、めでたいことなのだが、このダンジョンのある町で暮らす人たちにとっては、決して喜ぶべき事態ではないのだ……。

 ダンジョン攻略を目指す冒険者たちのための宿屋や酒場。そしてこの国内最大のダンジョンはすでに観光地としての地位すら確立しており、お土産として人気の「キングスライムゼリー」や「ゴーレム最中」、そしてダンジョンのボスといわれているダークドラゴンをかたどった「ダークドラゴンそっくりクッキー」……。この町は長い間、ダンジョンがあることによって栄えてきたのだ。
 しかしダークドラゴンが討伐されてしまったら、そういった意味での町の収入はなくなってしまう。

 また、ダンジョンというのはこの国にとって必要悪でもあり、次々生み出されるダンジョンのモンスターを倒すことによって得られる数々のアイテムは高値で取引され、冒険者たちやこの町で暮らす人たちの貴重な収入源となっていた……。

 だからこの町の人たちは、ダンジョン内のモンスターを総ざらいにし、さらにはボスを倒してダンジョンを殲滅しようとする『勇者』の登場をある意味恐れていたのだ。


 だから俺たちは……、実をいうとこの町の人たちには全く歓迎されていない、いわば「招かれざるパーテイ」なのだ!



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