1 / 63
冒険の始まり
しおりを挟む
「君、君、そこの君だよ! 君!」
よく通る声が魔法学園の大講堂に響き渡った。
でもその「君」が、「俺」だなんてあるはずないと思うだろ?
だから俺は、そのまま背もたれの布地が破けた椅子を持って、倉庫へ続く通用口へ向かおうとしたんだ。
「おいっ、ティト! 止まれ! ファビオ様がこっちを見てるぞ!」
俺と同じように修繕が必要な椅子をかかえたパオロさんが、横から俺をどやした。
「へ? …‥え!?」
振り向くと、何百という目が一斉に俺を見ていた。
この国の平民として生まれ、この魔法学園で雑用係の下男として働いている俺。
――こんなに注目を浴びたことなんて、生まれてこのかた一回もない!
「なんでアイツなんだ!?」
「何かの間違いだろ? ファビオ様も冗談が過ぎるぞ!」
「あんな、平民……、ありえないだろ!」
「見ろよ、あのみすぼらしいなり!」
大講堂に集まっていた学園の生徒たちがざわつく。
やんごとない血筋の良家の子女たちの険しい視線が、俺に容赦なく突き刺さる。
どうすればいいかわからず、凍り付いたように固まってしまった俺に、壇上のその人ーーファビオ・サヴォイアは、その澄み切った空色の瞳を満足気に細めた。
「そう、君だよ。ティト!
君は今日から俺たちの仲間だ!」
そしてファビオの隣に悠然と立つ長い黒髪の男は、小首をかしげると俺に優しく微笑みかけた。
「これは楽しみだな。いい旅になりそうだね。ティト」
そして俺は、この国史上最強といわれるとんでもないチートパーティに強制的に参加させられることになったんだ。
ーー奇しくも、その日は俺の18歳の誕生日だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ティト、そっちを頼む!」
前衛のファビオの鋭い声とともに、俺の目の前にはマミーが現れた。
包帯でぐるぐる巻きになったミイラのアンデッドのモンスター。それなりにHPが高い。
だが、このダンジョン第3層では最弱の類だ。
『ちょっとアンタっ! 何へっぴり腰になってんの!? せっかくファビオ様が弱っちいアンタでも倒せる雑魚を回してくださったのよっ! さっさと振り上げなさいよっ!』
そして俺が手にした魔剣『イラーリア』から激しい叱責が飛ぶ。
魔剣とは、魔法を繰り出すことができる特別な剣で、その剣自体に人格が宿っている。
もちろんこの魔剣『イラーリア』は、そもそも俺のようなヘボい人間が手にできるような代物ではないわけで、ファビオの命令で無理やり俺に使役されている『彼女』はいつも不満たらたらだ。
俺が魔剣を振り上げると、その剣身が赤い光を帯びた。魔法が発動する合図だ。
『はぁーっ、ったく、一体いつになったらこの私がタイミングを合わせなくてもよくなるのかしらね!?』
嫌味たっぷりな声とともに、その切っ先からは雷撃が放たれた。
そして、あっという間にマミーは灰と散った。
「……」
「やったな、ティト!」
前衛で、俺が倒したマミーよりもずっと強いヒュドラ3体を瞬殺したファビオが、キラキラとした瞳で俺を振り返る。
「よくやったね。偉いよ、ティト」
そしてファビオのとなりで、やすやすと翼竜・ワイバーン3体を呪い殺したオルランドが手放しで俺を褒める。
「……」
『はっ、何が偉いのよ。バッカじゃないの!? マミーたった一体倒しただけじゃない! それでアンタは、ファビオ様とあの下種の稼いだ高ポイントをもらってレベル上げってわけ? アンタねえ、恥ずかしくないの? ファビオ様に寄生するのもいい加減に……、ちょっとぉ、聞いてるのっ!?』
ーーチン。
無言で魔剣『イラーリア』を、優美な装飾に彩られた鞘に収めた俺は改めて思った。
ーーこのパーティに俺がいる意味って、ある!?
よく通る声が魔法学園の大講堂に響き渡った。
でもその「君」が、「俺」だなんてあるはずないと思うだろ?
だから俺は、そのまま背もたれの布地が破けた椅子を持って、倉庫へ続く通用口へ向かおうとしたんだ。
「おいっ、ティト! 止まれ! ファビオ様がこっちを見てるぞ!」
俺と同じように修繕が必要な椅子をかかえたパオロさんが、横から俺をどやした。
「へ? …‥え!?」
振り向くと、何百という目が一斉に俺を見ていた。
この国の平民として生まれ、この魔法学園で雑用係の下男として働いている俺。
――こんなに注目を浴びたことなんて、生まれてこのかた一回もない!
「なんでアイツなんだ!?」
「何かの間違いだろ? ファビオ様も冗談が過ぎるぞ!」
「あんな、平民……、ありえないだろ!」
「見ろよ、あのみすぼらしいなり!」
大講堂に集まっていた学園の生徒たちがざわつく。
やんごとない血筋の良家の子女たちの険しい視線が、俺に容赦なく突き刺さる。
どうすればいいかわからず、凍り付いたように固まってしまった俺に、壇上のその人ーーファビオ・サヴォイアは、その澄み切った空色の瞳を満足気に細めた。
「そう、君だよ。ティト!
君は今日から俺たちの仲間だ!」
そしてファビオの隣に悠然と立つ長い黒髪の男は、小首をかしげると俺に優しく微笑みかけた。
「これは楽しみだな。いい旅になりそうだね。ティト」
そして俺は、この国史上最強といわれるとんでもないチートパーティに強制的に参加させられることになったんだ。
ーー奇しくも、その日は俺の18歳の誕生日だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ティト、そっちを頼む!」
前衛のファビオの鋭い声とともに、俺の目の前にはマミーが現れた。
包帯でぐるぐる巻きになったミイラのアンデッドのモンスター。それなりにHPが高い。
だが、このダンジョン第3層では最弱の類だ。
『ちょっとアンタっ! 何へっぴり腰になってんの!? せっかくファビオ様が弱っちいアンタでも倒せる雑魚を回してくださったのよっ! さっさと振り上げなさいよっ!』
そして俺が手にした魔剣『イラーリア』から激しい叱責が飛ぶ。
魔剣とは、魔法を繰り出すことができる特別な剣で、その剣自体に人格が宿っている。
もちろんこの魔剣『イラーリア』は、そもそも俺のようなヘボい人間が手にできるような代物ではないわけで、ファビオの命令で無理やり俺に使役されている『彼女』はいつも不満たらたらだ。
俺が魔剣を振り上げると、その剣身が赤い光を帯びた。魔法が発動する合図だ。
『はぁーっ、ったく、一体いつになったらこの私がタイミングを合わせなくてもよくなるのかしらね!?』
嫌味たっぷりな声とともに、その切っ先からは雷撃が放たれた。
そして、あっという間にマミーは灰と散った。
「……」
「やったな、ティト!」
前衛で、俺が倒したマミーよりもずっと強いヒュドラ3体を瞬殺したファビオが、キラキラとした瞳で俺を振り返る。
「よくやったね。偉いよ、ティト」
そしてファビオのとなりで、やすやすと翼竜・ワイバーン3体を呪い殺したオルランドが手放しで俺を褒める。
「……」
『はっ、何が偉いのよ。バッカじゃないの!? マミーたった一体倒しただけじゃない! それでアンタは、ファビオ様とあの下種の稼いだ高ポイントをもらってレベル上げってわけ? アンタねえ、恥ずかしくないの? ファビオ様に寄生するのもいい加減に……、ちょっとぉ、聞いてるのっ!?』
ーーチン。
無言で魔剣『イラーリア』を、優美な装飾に彩られた鞘に収めた俺は改めて思った。
ーーこのパーティに俺がいる意味って、ある!?
449
お気に入りに追加
2,341
あなたにおすすめの小説
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
可愛くない僕は愛されない…はず
おがこは
BL
Ωらしくない見た目がコンプレックスな自己肯定感低めなΩ。痴漢から助けた女子高生をきっかけにその子の兄(α)に絆され愛されていく話。
押しが強いスパダリα ✕ 逃げるツンツンデレΩ
ハッピーエンドです!
病んでる受けが好みです。
闇描写大好きです(*´`)
※まだアルファポリスに慣れてないため、同じ話を何回か更新するかもしれません。頑張って慣れていきます!感想もお待ちしております!
また、当方最近忙しく、投稿頻度が不安定です。気長に待って頂けると嬉しいです(*^^*)
僕の策略は婚約者に通じるか
藍
BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。
フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン
※他サイト投稿済です
※攻視点があります
僕のお兄様がヤンデレなんて聞いてない
ふわりんしず。
BL
『僕…攻略対象者の弟だ』
気付いた時には犯されていました。
あなたはこの世界を攻略
▷する
しない
hotランキング
8/17→63位!!!から48位獲得!!
8/18→41位!!→33位から28位!
8/19→26位
人気ランキング
8/17→157位!!!から141位獲得しました!
8/18→127位!!!から117位獲得
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる