【完結】偽りの宿命~運命の番~

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~番外編~

愛の言葉(前編)

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【ご注意】
ベアトリスsideのストーリー。嫉妬の激しすぎるエドガー王の話。
もちろんBLなのですが、ファリン&ベアトリスのお話なので多分に百合要素も含みます。
(直接的な表現はほぼない・・・たぶん・・・)
苦手な方は閲覧注意でお願いします!!
本編の補完の意味も込めたお話になっています。






・・・・・・・・・・・・・・・・





 今夜は王宮主催の舞踏会。
 こぞって着飾った国の有力貴族たちが、宮殿の広間にひしめきあっている。

 臣下の拝謁、そして儀礼通りのダンスを終えたエドガーとベアトリスは、用意された椅子に座ってしばらく休みをとることになった。

 ベアトリスは横に座る彫像のように整った王の顔を、ちらりと盗み見る。

「陛下、さっきから熱心に年若いご令嬢ばかりご覧になっていらっしゃいますけど…‥」

「ああ、あの黄色のドレスがポーレット子爵の娘、水色のドレスがチャムニー男爵の娘だ。どちらがいいと思う?」

 エドガーの言葉に、ベアトリスが目をむく。

「は? どちらがって……!? まさかまさかまさかっ! やっとセシル様と念願の両想いに慣れた途端、新しい側妃の品定めですのっ!? 嫌ッ!
不潔ですわ、陛下っ! セシル様というものがありながらっ!」

 エドガーはギロリとベアトリスを睨む。

「は? 側妃だと? そんなものはお前一人で十分だ。何を誤解しているかしらないが、私がセシル以外に目を向けることなどないということはお前が一番よく知っているはずだろう?」

「ええ、まあ、それはそうですけれども……」
 
 エドガーとベアトリスは幼馴染。それはもう昔から「セシルセシルセシル」と耳がおかしくなるくらい聞かされてきたものだ。

「エイルマー子爵も年頃だ。そろそろ身を固めてもいいだろうと思ってな」

「ああ、セシル様の弟君のお相手ですか……」

 なるほどと納得するベアトリスだったが……。

「それにしてもなぜ陛下はエイルマー子爵のお相手探しにそんなに熱心ですの? そんなことは、新しい宰相にでもお任せすればいいものを」

「そうもいかぬ! エイルマー子爵が夢中になるほどの相手を探さなくてはならんのだ! 夢中になって、セシルに手紙を出すのを忘れるほどの相手を……」

 エドガーは白い手袋をはめた手をぎりぎりと握りしめる。


 ――ああ、なるほどね。

「陛下、セシル様が弟君と手紙のやりとりをするのがそんなに気に入らないのですの?」

「ち、違うっ、別に私はっ……」

 エドガーの青い瞳が揺らぐ。


 ――気に入らないのね。たとえ、弟といえども、自分以外の誰かがセシル様と親しく文を交わすのが……。

 このエドガー王の狭量には本当にあきれてしまう。

 だが意外にも、セシル以外のことに関しては、この王は非常に有能であった。

 その辣腕ぶりは、国政に限らず、民への配慮へも現れているほどだ。


 ――確かに、なんでもおできになる方だわね。陛下よりもダンスが上手い人もいないし……。

 大広間でくるくると楽し気に踊る若い貴族たちを見て、ベアトリスはふと思った。


「陛下、陛下は舞踏会でセシル様と一緒にダンスを踊ってみたいとは思いませんの?」

 ずっと離宮に閉じ込められている正妃。
 騒動も終わり、もうセシルに身の危険はないのだから、いつ王宮に戻ってもいいはずなのだが、エドガーは頑なにセシルを離宮から出そうとはしなかった。

 そのせいで、事情を知るごく少数のものを除いては、王宮の貴族たちも国民も、ベアトリスこそがエドガー王の寵妃だと勘違いしたままなのだ。

「愚問だな」

 冷たい瞳がベアトリスを射抜く。

「さきほどだって、陛下と私のお子はもうすぐですね……、なんてしたり顔で言われて! 誤解されたままで陛下は悔しくないのですか?」

「全く構わない」

「でも……!」

「よく考えてもみろ。もしセシルが舞踏会に顔を出したりしたら、セシルに劣情を抱く邪な輩をいたずらに増やすだけだ。
しかも国外でセシルの美しさが噂になったりしたら、国同士の争いの火種になることすら考えられる!!!」

 ぐっと拳を握り締めるエドガー。
 ベアトリスは絶句する。

 ――この方、本気だわ……。だから、誰の目にも触れさせないように、セシル様をずっと離宮に……。

 ベアトリスは貼り付けたような笑みを浮かべる。


「そう、ですわね……。確かに……、そういったことも、考えられますわね」

「ところでロイはお前の専属騎士としてうまくやっているのか? よもやセシルに会いに離宮に行くときに、連れていったりしていないだろうな!」

「え、ええ、もちろんですわ」

 ――ロイ・ジファール。セシルの専属騎士になりたいと王に直談判し、辺境の地に飛ばされた哀れな騎士……。

 セシルに出会う前は、もっともエドガーの信頼の厚い騎士だったのだが、いまではもっとも要注意な人物としてエドガーに敵視されている。


 騒動がひと段落し、エドガーとセシルが結ばれたことで、エドガーはロイを王宮に呼び戻していた。
 王宮への帰還後、ロイはベアトリスの専属騎士として配属され、セシルへの想いは封印したかのように見えていたのだが……。

 ――ロイのセシルへの慕情は、収まるどころかますます燃え上っていたらしい。


「あいつ……、非番の時に、わざわざ離宮までセシルに会いに行っているらしい。もちろん門前払いに決まっているが!
辺境に飛ばされてもまだ懲りないとは……。今度は国外に偵察にやってしまおうか……」

 ぶつぶつとつぶやくエドガーは、ほの昏い目をしている。

「まあまあ、陛下。セシル様が素敵なのは仕方がないことですわ。ロイだって心の中だけでお慕いするくらい、いいじゃありませんか!」

「何が心の中だけだ! あれほどあからさまに想いを垂れ流して、騎士が聞いてあきれる!!!」

 エドガーは憤懣やるかたないといった表情だ。


 ――それにしても……。

「私は舞踏会で、ファリン様と一緒に踊ってみたいですわ!」

 ベアトリスはほぉっとため息をつく。

 ファリン様とのダンスは、どんな気分だろう……?

 あの黒い瞳に、ずっと見つめられていたい……。

 この美しい人は、私の運命の番なのだと、周りに知らしめたい……。


「まあ、無理だろうな。あの女の関心事は、薬と病気のみだ」

「……」
 
 現実に引き戻されたベアトリスは、エドガーを睨む。

「わかっていて番になったんだろう? あきらめることだ」

「はあ……。私、たまにセシル様がうらやましいと思うことがありますわ……」

 エドガーがセシルに向ける恐ろしいまでの執着と愛情。
 過去に悲劇があったからこそなおさら、エドガーはセシルを決して自分の籠から出そうとはしないのだろう。

 そんなセシルを気の毒に思う一方、そんながんじがらめにされるような愛情に憧れてしまう自分がいる。

「ファリン様は私がこうして舞踏会に出ていても、心配なんかしてくださらない……」

 ましてや、愛の言葉をかけてもらったことすら、記憶にはない。

「お前のそういう態度が相手をそうさせているようにも思えるがな……。
まあ、あれはあれなりに、お前のことを想っているのだろう。あまり気に病むな」

「陛下ぁ!!」

 ――まさかあのエドガーに慰めの言葉をかけられるとは!


 ベアトリスはますます落ち込んでしまうのだった。



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