【完結】偽りの宿命~運命の番~

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
56 / 60
~番外編~

愛の言葉(前編)

しおりを挟む
【ご注意】
ベアトリスsideのストーリー。嫉妬の激しすぎるエドガー王の話。
もちろんBLなのですが、ファリン&ベアトリスのお話なので多分に百合要素も含みます。
(直接的な表現はほぼない・・・たぶん・・・)
苦手な方は閲覧注意でお願いします!!
本編の補完の意味も込めたお話になっています。






・・・・・・・・・・・・・・・・





 今夜は王宮主催の舞踏会。
 こぞって着飾った国の有力貴族たちが、宮殿の広間にひしめきあっている。

 臣下の拝謁、そして儀礼通りのダンスを終えたエドガーとベアトリスは、用意された椅子に座ってしばらく休みをとることになった。

 ベアトリスは横に座る彫像のように整った王の顔を、ちらりと盗み見る。

「陛下、さっきから熱心に年若いご令嬢ばかりご覧になっていらっしゃいますけど…‥」

「ああ、あの黄色のドレスがポーレット子爵の娘、水色のドレスがチャムニー男爵の娘だ。どちらがいいと思う?」

 エドガーの言葉に、ベアトリスが目をむく。

「は? どちらがって……!? まさかまさかまさかっ! やっとセシル様と念願の両想いに慣れた途端、新しい側妃の品定めですのっ!? 嫌ッ!
不潔ですわ、陛下っ! セシル様というものがありながらっ!」

 エドガーはギロリとベアトリスを睨む。

「は? 側妃だと? そんなものはお前一人で十分だ。何を誤解しているかしらないが、私がセシル以外に目を向けることなどないということはお前が一番よく知っているはずだろう?」

「ええ、まあ、それはそうですけれども……」
 
 エドガーとベアトリスは幼馴染。それはもう昔から「セシルセシルセシル」と耳がおかしくなるくらい聞かされてきたものだ。

「エイルマー子爵も年頃だ。そろそろ身を固めてもいいだろうと思ってな」

「ああ、セシル様の弟君のお相手ですか……」

 なるほどと納得するベアトリスだったが……。

「それにしてもなぜ陛下はエイルマー子爵のお相手探しにそんなに熱心ですの? そんなことは、新しい宰相にでもお任せすればいいものを」

「そうもいかぬ! エイルマー子爵が夢中になるほどの相手を探さなくてはならんのだ! 夢中になって、セシルに手紙を出すのを忘れるほどの相手を……」

 エドガーは白い手袋をはめた手をぎりぎりと握りしめる。


 ――ああ、なるほどね。

「陛下、セシル様が弟君と手紙のやりとりをするのがそんなに気に入らないのですの?」

「ち、違うっ、別に私はっ……」

 エドガーの青い瞳が揺らぐ。


 ――気に入らないのね。たとえ、弟といえども、自分以外の誰かがセシル様と親しく文を交わすのが……。

 このエドガー王の狭量には本当にあきれてしまう。

 だが意外にも、セシル以外のことに関しては、この王は非常に有能であった。

 その辣腕ぶりは、国政に限らず、民への配慮へも現れているほどだ。


 ――確かに、なんでもおできになる方だわね。陛下よりもダンスが上手い人もいないし……。

 大広間でくるくると楽し気に踊る若い貴族たちを見て、ベアトリスはふと思った。


「陛下、陛下は舞踏会でセシル様と一緒にダンスを踊ってみたいとは思いませんの?」

 ずっと離宮に閉じ込められている正妃。
 騒動も終わり、もうセシルに身の危険はないのだから、いつ王宮に戻ってもいいはずなのだが、エドガーは頑なにセシルを離宮から出そうとはしなかった。

 そのせいで、事情を知るごく少数のものを除いては、王宮の貴族たちも国民も、ベアトリスこそがエドガー王の寵妃だと勘違いしたままなのだ。

「愚問だな」

 冷たい瞳がベアトリスを射抜く。

「さきほどだって、陛下と私のお子はもうすぐですね……、なんてしたり顔で言われて! 誤解されたままで陛下は悔しくないのですか?」

「全く構わない」

「でも……!」

「よく考えてもみろ。もしセシルが舞踏会に顔を出したりしたら、セシルに劣情を抱く邪な輩をいたずらに増やすだけだ。
しかも国外でセシルの美しさが噂になったりしたら、国同士の争いの火種になることすら考えられる!!!」

 ぐっと拳を握り締めるエドガー。
 ベアトリスは絶句する。

 ――この方、本気だわ……。だから、誰の目にも触れさせないように、セシル様をずっと離宮に……。

 ベアトリスは貼り付けたような笑みを浮かべる。


「そう、ですわね……。確かに……、そういったことも、考えられますわね」

「ところでロイはお前の専属騎士としてうまくやっているのか? よもやセシルに会いに離宮に行くときに、連れていったりしていないだろうな!」

「え、ええ、もちろんですわ」

 ――ロイ・ジファール。セシルの専属騎士になりたいと王に直談判し、辺境の地に飛ばされた哀れな騎士……。

 セシルに出会う前は、もっともエドガーの信頼の厚い騎士だったのだが、いまではもっとも要注意な人物としてエドガーに敵視されている。


 騒動がひと段落し、エドガーとセシルが結ばれたことで、エドガーはロイを王宮に呼び戻していた。
 王宮への帰還後、ロイはベアトリスの専属騎士として配属され、セシルへの想いは封印したかのように見えていたのだが……。

 ――ロイのセシルへの慕情は、収まるどころかますます燃え上っていたらしい。


「あいつ……、非番の時に、わざわざ離宮までセシルに会いに行っているらしい。もちろん門前払いに決まっているが!
辺境に飛ばされてもまだ懲りないとは……。今度は国外に偵察にやってしまおうか……」

 ぶつぶつとつぶやくエドガーは、ほの昏い目をしている。

「まあまあ、陛下。セシル様が素敵なのは仕方がないことですわ。ロイだって心の中だけでお慕いするくらい、いいじゃありませんか!」

「何が心の中だけだ! あれほどあからさまに想いを垂れ流して、騎士が聞いてあきれる!!!」

 エドガーは憤懣やるかたないといった表情だ。


 ――それにしても……。

「私は舞踏会で、ファリン様と一緒に踊ってみたいですわ!」

 ベアトリスはほぉっとため息をつく。

 ファリン様とのダンスは、どんな気分だろう……?

 あの黒い瞳に、ずっと見つめられていたい……。

 この美しい人は、私の運命の番なのだと、周りに知らしめたい……。


「まあ、無理だろうな。あの女の関心事は、薬と病気のみだ」

「……」
 
 現実に引き戻されたベアトリスは、エドガーを睨む。

「わかっていて番になったんだろう? あきらめることだ」

「はあ……。私、たまにセシル様がうらやましいと思うことがありますわ……」

 エドガーがセシルに向ける恐ろしいまでの執着と愛情。
 過去に悲劇があったからこそなおさら、エドガーはセシルを決して自分の籠から出そうとはしないのだろう。

 そんなセシルを気の毒に思う一方、そんながんじがらめにされるような愛情に憧れてしまう自分がいる。

「ファリン様は私がこうして舞踏会に出ていても、心配なんかしてくださらない……」

 ましてや、愛の言葉をかけてもらったことすら、記憶にはない。

「お前のそういう態度が相手をそうさせているようにも思えるがな……。
まあ、あれはあれなりに、お前のことを想っているのだろう。あまり気に病むな」

「陛下ぁ!!」

 ――まさかあのエドガーに慰めの言葉をかけられるとは!


 ベアトリスはますます落ち込んでしまうのだった。



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【短編】旦那様、2年後に消えますので、その日まで恩返しをさせてください

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
「二年後には消えますので、ベネディック様。どうかその日まで、いつかの恩返しをさせてください」 「恩? 私と君は初対面だったはず」 「そうかもしれませんが、そうではないのかもしれません」 「意味がわからない──が、これでアルフの、弟の奇病も治るのならいいだろう」 奇病を癒すため魔法都市、最後の薬師フェリーネはベネディック・バルテルスと契約結婚を持ちかける。 彼女の目的は遺産目当てや、玉の輿ではなく──?

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

処理中です...