上 下
54 / 60

第54話

しおりを挟む
 その日の夕食は、食べた気がしなかった。
 
 何を口に運んでも、自分を見つめるエドガーと目が合い、そのたびにセシルは目を伏せるのだった。

 おかげで、この国随一だと評判の料理人がわざわざこの夜のために作ってくれた晩餐だというのに、何を口に入れても全く味がわからない始末だった。

 エドガーにしても同じようなもので、なぜかさっきから水をがぶ飲みするばかりで、テーブルに並べられた豪華な料理はほとんど手つかずのまま下げられていくのだった。

 そして、エドガーの意向なのか、なぜか酒類は一切供されることなく、食後はお茶が出された。
 むしろ酔っぱらってしまいたい気分のセシルだったが、こうなってしまっては素面のまま、王と向き合うしかない。

「あの、そろそろ……、寝所へ……」

 消え入りそうな声でセシルが言うと、エドガーはガタンと椅子を派手に鳴らして立ちあがった。

「行こう!」

「……っ」

 セシルはぐっと唇を引き結んで耐えた。

 前王の時には当たり前のようにしていた閨の相手だというのに、どうしてここまで恥ずかしいのか!?

 なぜこうも、ぎくしゃくしてしまうのか!?

 心なしか、周りの女官たちも、なにか必死でこらえているような表情をしているように見える!!



 エドガーも緊張しているのか、言葉少なで、表情も硬いままだ。

 ――大丈夫なのだろうか? 私たちは、本当に無事に朝を迎えられるのか!?

 だが、そんな心配は全くの杞憂であったと、寝台の上でセシルは嫌というほど思い知ることになる。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「あっ、嫌っ、駄目っ……!!」

「駄目? 何が駄目なのか、私に言ってみて?」

「あっ、違っ、いやっ、そこっ、あああああっ!」

 ――セシルは完全に、十も年下の若き王に翻弄されていた。

 全裸に剥かれたセシルは、息も絶え絶えに敷布をつかむ。

 もしかしたら自分が主導権を握ったほうがいいのだろうか――などと、さきほどまで考えていた自分が恨めしい。


 エドガーは完全にセシルを支配していた。

 発情期でもないというのに、セシルの全身がアルファの王を求めている。
 
 拒絶の言葉を口にしていても、セシルの身体すべてが、エドガーを欲しがっていた。

 
 全身に口づけを受け、余すところなく指で愛撫される。

 溶かされた秘部は、早くアルファが欲しいと蜜を流し続けている。


「セシル……、美しい……、私だけのセシル……」

 お互いの素肌が触れ合うと、これ以上ない多幸感にセシルは包まれた。
 今まで、数えきれないほど先王と褥を共にしたが、こんな感覚は初めてだった。

「エドガー様っ、もっと……、もっと……」

 溺れかけた子どものように、エドガーに縋りつく。
 エドガーはゆっくりとあやすように、セシルの身体を開いていく。


「セシル、次の発情期で貴方を番にするよ」

 開いた脚の間に身体を滑り込ませると、エドガーがセシルの裸の胸を撫でる。

「あっ、んっ、もうっ、焦らさ、ない、で……、今すぐっ、番にして、いいから……っ!」

 酩酊したような感覚のまま、セシルがエドガーにねだる。

 こんな風では、いざ発情期のときに自分はどうなってしまうのだろう?
 セシルは自分自身が恐ろしくなった。

「もう、誰にも…‥、見せない……、もう誰にも……、絶対に触れさせない」

 エドガーが低くつぶやくと、セシルの後ろの窄まりに己の剛直を押し当てる。

「ああっ、エドガー様っ、早く来てっ!」

「セシル、力を抜いて、息を吐いて……」

「んはっ、あっ、ぐっ……」

 驚くほど固く重量をもったものが、セシルの内部に埋め込まれていく。

「ああ、熱いっ、くっ、絡みついてくるっ!」

「あっ、深いっ、奥っ、んんんっ!」

「ああ、セシル、私のセシル……っ」

 エドガーが腰を進めながら、セシルと唇を合わせてくる。

「んっ、ああっ、ふうっ」

 舌を絡めあい、夢中で吸い合う。

「セシル、力を、抜いて……、そう、もっと、深く入るよ」

 エドガーがセシル自身に手を伸ばし、愛撫する。

「あっ、駄目ッ、すぐに出ちゃうっ、あああっ……」

「何度でも出していいから、もっと貴方を感じさせて……」

 エドガーがセシルの片足を自分の肩にかけると、さらに接合を深めていった。

「んんっ、ああああっ、深いっ、ああっ、おかしく、なるっ……」

 目の前が白くはじけるような感覚に、セシルの意識が一瞬かすむ。

「ああっ、いいよっ、セシル……っ、おかしくなって、私だけに……、もう絶対、誰にもっ……!」

 エドガーがゆっくりと腰を引き、そしてまた深く深くセシルの内奥に入り込んでいく。

「こんなのっ、駄目っ、エドガー様っ、あっ、あああああああああ!」

「受け止めて、私の、思いを、全部……、もう絶対に、離したりしない!」

 最奥まで突かれると、セシルの背が大きく反る。

 それと同時に、エドガーは熱いしぶきをセシルの内部に放ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こじらせΩのふつうの婚活

深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。 彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。 しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。 裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

αは僕を好きにならない

宇井
BL
同じΩでも僕達は違う。楓が主役なら僕は脇役。αは僕を好きにならない…… オメガバースの終焉は古代。現代でΩの名残である生殖器を持って生まれた理人は、愛情のない家庭で育ってきた。 救いだったのは隣家に住む蓮が優しい事だった。 理人は子供の頃からずっと蓮に恋してきた。しかし社会人になったある日、蓮と親友の楓が恋をしてしまう。 楓は同じΩ性を持つ可愛らしい男。昔から男の関心をかっては厄介事を持ち込む友達だったのに。 本編+番外 ※フェロモン、ヒート、妊娠なし。生殖器あり。オメガバースが終焉した独自のオメガバースになっています。

しっかり者で、泣き虫で、甘えん坊のユメ。

西友
BL
 こぼれ話し、完結です。  ありがとうございました!  母子家庭で育った璃空(りく)は、年の離れた弟の面倒も見る、しっかり者。  でも、恋人の優斗(ゆうと)の前では、甘えん坊になってしまう。でも、いつまでもこんな幸せな日は続かないと、いつか終わる日が来ると、いつも心の片隅で覚悟はしていた。  だがいざ失ってみると、その辛さ、哀しみは想像を絶するもので……

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

NPCのストーカーの件について

草薙翼
BL
大人気MMORPG「シャドウナイト」の世界に突然トリップした高校生。 魔王を倒すのが面倒でのんびり生活してお嫁さん探しをしています。 あれ?なんで影騎士が俺を見てるの? えっ、結婚なんて知らないよ!? 影騎士にストーカーされながら、いつの間にか嫁認定されてました。 これって明らかにバグだよね! 誰か助けてください。 デロデロに甘やかされ愛され最終的に絆されていく自分がいる。 チートNPCヤンデレ騎士×そこそこ強い黒魔導士ツンデレ平凡 ※ゲーム用語を多々使用しています、ご注意下さい。

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

処理中です...