50 / 60
第50話
しおりを挟む「ファリン様が、ベアトリス様の……」
ファリンはアルファ、ベアトリスはオメガ。
もちろん女性同士だとしても、番うことは可能だ。
「でも……、ベアトリス様はエドガー様の側妃で……」
「話せばとても長くなりますわ」
ベアトリスが両手を胸の前で組んだ。
「簡潔に説明しろ。時間がない」
エドガーの言葉に、ベアトリスはギロリとにらむ。
「セシル様っ、セシル様は本当に陛下なんかでいいんですの!?」
ベアトリスの言葉に、エドガーは唇をゆがめる。
「ファリンはよくもまあ、このようなキャンキャンうるさい者を番にしたものだ……」
「なあああんですってええええ!!!!」
「さすが幼馴染だ。息がぴったりだな」
二人の諍いなどどこ吹く風で、ファリンは飄々としている。
ファリンはセシルの寝台の側の椅子に、腰を下ろした。
「ベアトリスに子が望めぬとわかったとき、ティンダル公爵はベアトリスの縁談をまとめた」
「このままでは貰い手はないとか言って、お父様は私をうんと年上のアルファと結婚させようとしたのですわ!」
ベアトリスが割って入ってくる。
「ちょうどその時、私も幻燈の国から見合いをすすめられていた。家柄も人柄も申し分のない
オメガの男性が見つかったのだと……」
「そんなこと!私がさせるわけありませんわっ!!」
ベアトリスの鼻息は荒い。
「もともと私は、誰とも結婚するつもりはなかった。また、ベアトリスの気持ちに答えることもできなかった。
……我が祖国では、異国の者との婚姻は認められておらぬ」
ファリンの言葉に、ベアトリスは目を伏せる。
「でも私は……、どうしてもあきらめることはできなかったのです。
誰が何と言おうと、私の運命の相手は、ファリン様に違いありませんから……」
ベアトリスがそっとファリンの肩に手を置く。
「見合いを断るための書面をしたためていたところ、まだ王太子だったエドガー王から思わぬ申し出があったのだ。
何らかの病か薬の影響で、オメガ性を失われているとおもわれるセシル殿を元の状態なおしてほしい、
それができるなら、どんな望みも叶えてやる……と。
返答の期限は驚くほど短かった。なにしろ、王自身が即位するまで間がなかったからな」
「この取引を持ち出したのは、ベアトリスだ。
私はベアトリスを側妃に望んだことは一度もない」
エドガーはセシルを見て言った。
「私がもともと考えていたことですの。王の妃ならば、お父様も誰も文句は言わない。
陛下はもとより、セシル様のことしか眼中にない。
ファリン様を陛下とセシル様、そして側妃になった私の主治医として王宮に迎え入れることができれば、
もう誰もファリン様を幻燈に呼び戻すことはできない。
どんなに身勝手とののしられても良かったんです。ファリン様とともに生きることができるならば!」
ベアトリスのアメジストの瞳。
優しく明るい色だと思っていたが、セシルにはそこに力強い意志を感じ取った。
「結局私もベアトリスに根負けし……、現在に至る、というわけだ」
ファリンが小さく息をつく。
「そんなことが……、あったのですね。だから、いつもベアトリス様とファリン様はいつも一緒に……」
思えば、主治医と患者という関係にしては親しすぎる二人だった。
「思えばこれまで大変であった。……王は王で、妙な意地からセシル殿へ、私とベアトリスとの関係を秘密にしろと命じるし……」
「それはっ! まだ誰がどんなところでこの王宮のたくらみに関わっているかわからなかったからだ!
……どんな秘密も、すべてが明らかになるまでは誰にも漏らすことはできなかったのだ!」
「ベアトリスはベアトリスで、どうにかセシル殿の気持を王に向かせようと、無駄なことばかり画策するし……」
「それにしても、セシル様は本当に鈍感にもほどがありますわ! あれほど陛下に執着されていながら、まったく陛下の想いに気づいておられないなんて!」
ベアトリスの長いまつげがぱちぱちと瞬く。
「私は、エドガー様にはずっと、憎まれているとばかり……」
セシルがうつむく。
――本当は、ずっとエドガーに愛されていたのに……。
周りに秘密にされていたとはいえ、すべては自分の思い込みから起こった勘違いの数々……。
セシルはシーツをぎゅっと握り締めた。
「わかってもらえただろうか。王の愛をめぐって、セシル殿がベアトリスに遠慮することなど何もない」
「私にはファリン様がいますからね!」
「はい、ファリン様、ベアトリス様……、ありがとうございます」
礼を言ってからエドガーのほうを見やると、エドガーはいつものように難しい顔をしている。
だが、セシルの視線に気づくと一瞬何とも言えない表情になった。
「……っ、セシル、出かけるぞ。連れていきたいところがある。日が暮れる前に」
162
お気に入りに追加
1,083
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)
Oj
BL
オメガバースBLです。
受けが妊娠しますので、ご注意下さい。
コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。
ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。
アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。
ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。
菊島 華 (きくしま はな) 受
両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。
森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄
森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。
森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟
森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。
健司と裕司は二卵性の双子です。
オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。
男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。
アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。
その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。
この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。
また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。
独自解釈している設定があります。
第二部にて息子達とその恋人達です。
長男 咲也 (さくや)
次男 伊吹 (いぶき)
三男 開斗 (かいと)
咲也の恋人 朝陽 (あさひ)
伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう)
開斗の恋人 アイ・ミイ
本編完結しています。
今後は短編を更新する予定です。
売れ残りの神子と悪魔の子
のらねことすていぬ
BL
神子として異世界トリップしてきた元サラリーマン呉木(くれき)。この世界では神子は毎年召喚され、必ず騎士に「貰われて」その庇護下に入る、まるで結婚のような契約制度のある世界だった。だけど呉木は何年経っても彼を欲しいという騎士が現れなかった。そんな中、偶然美しい少年と出会い彼に惹かれてしまうが、彼はとても自分には釣り合わない相手で……。
※年下王子×おじさん神子
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる