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第47話

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「エドガー様っ、エドガー様っ!!!」

 セシルは甲冑姿のエドガーにすがりついた。

 白金の鎧が邪魔で、エドガーに直接触れられないことがどうしようもなくもどかしい。


「セシル……っ、思い出した、のか?」

 エドガーの押し殺した声に、セシルの頬に涙が伝う。


「どうして、どうして今まで私は……、こんなにも長い間……、
エドガー様のことを……っ」

「しっ、静かに。誰かに聞かれては困る。……場所を変えるぞ」

 エドガーはセシルを抱き直すと、足早に外へ出た。



「……ここは?」

 あたりは暗い。ほとんど人気はないが、集落のようで周りに何件も民家が建っていた。

「国境の村だ。離宮からはそう遠くはない」

 エドガーは迷う素振りもなく、暗い路地へと入った。
 そこには馬車が止められていた。

 シーツにくるまったままのセシルを抱いたまま、エドガーが馬車に乗り込む。


「出せ」

「はっ」

 馬車が走り出すと、エドガーは兜を脱いだ。

 輝くような金髪がこぼれ落ちる。


「馬車も連れてきていてよかった。こんな姿のお前を抱いたまま、騎乗はできないからな」

「エドガー様っ!」

 セシルはエドガーの首に手を回して抱きついた。

 少しも離れていたくなかった。



「セシル……」

 エドガーは、セシルをゆっくりと離すとその頬を愛しげに撫でた。


「エドガー様っ、私は、私は今まで……っ!」

「ファリンに言われた。もし、真実の運命の番であれば、どんなに時間がかかろうが、きっと思い出す時が来る、と」

「……」

「だが、本当はずっと自信がなかった。もしかして私の勘違いだったのかもしれない。すべては単なる私の思い上がりだったのかもしれない。
その証拠に、セシル……、お前はずっと私に怯えるばかりで……、お前はずっと、私に心を隠して……」

 エドガーが優しくセシルの髪を梳く。

「私は……、どう、償えば……」

 セシルの唇は震える。

 涙をためるセシルのまなじりに、エドガーは口づけた。


「もちろん、生涯をかけて償ってもらうつもりだ。
私が今まで受けた苦しみ、悲しみ……、すべて償ってもらう。ーーお前の愛で」

「エドガー様っ!」


 唇が重なる。


 もう言葉は必要なかった。



「あ……、む、ぅ……」

「セシルっ、私のセシル……っ」

 エドガーが、セシルの上唇を食む。


 シーツが肩から落ち、セシルの肢体があらわになる。

 エドガーは鎧を脱ぎ捨てると、セシルに覆いかぶさる。


「エドガー様っ、身体がっ、熱くて……っ」


 あのとき離宮の薔薇園で嗅いだ香りが、今満ちている……。

 あれはエドガーのフェロモンだったのだと、セシルにはやっとわかった。


 ーーそしておそらく、エドガーも今、セシルのフェロモンを感じている。


「もしかして、ヒートが、今っ?」

 エドガーの手が止まる。

「エドガー様っ、お願いですっ、私を、貴方の番に……っ」

 セシルがエドガーの首筋に顔を埋める。



 ーー身体の奥が疼く。

 ーー欲しい。

 ーー眼の前のアルファが、欲しい。



「セシル……、今は駄目だ」

 エドガーの言葉に、セシルは絶望の淵に叩き落される。

「どう、して……?」

「ファリンから薬をもらっている。
大丈夫、ベアトリスも服用しているものだ。
これを飲めば、ヒートの最中はほとんど眠って過ごすことができる。
身体への負担も少ない……、だから」

「いやっ、いやですっ! 噛んでください! どうか、どうか……」

 セシルは首を振る。

「わかってくれ。私は同じ過ちは繰り返さない。
父上の二の舞いは、自分が許さない」

「いや、いやです……っ、エドガーさまっ」


 ヒートの影響で乱れるセシルの背中をなだめるように撫でると、
エドガーは懐から取り出した丸薬を口に含む。

「セシル、お願いだから……」

「やだっ、どうして!? あっ、ああ……」

 口付けられ、無理やりに薬を飲み込まされる。


「おやすみ、セシル。……あとでゆっくり話そう」

「いやっ、エドガー様っ、どうか私を……、貴方の……っ」


 だが、急激に訪れる眠気に、セシルは抗うことができない。




「ーー愛している、セシル……、もう絶対に誰にも渡さない……」

「エドガー、さま……」



 エドガーの口づけを受けながら、セシルの意識は途切れた。


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