37 / 60
第37話
しおりを挟む
「……薔薇をありがとうございました」
セシルの言葉に、エドガーは歩みをゆるめた。
「……白が好きだと手紙に書いてあった」
「はい、とてもきれいな白薔薇でした」
「……宝石は好きではないのか?」
ぶっきらぼうな問い。
「私にはもったいない気がしています」
「そんなことはない……、セシルの瞳には、サファイアの石が良く映える」
その宝石と同じ色の瞳に見つめられ、セシルの鼓動は早くなる。
「もったいないお言葉にございます」
「ファリンに、はじめからやり直すのがいい、と言われたのだ。
馬鹿馬鹿しいとは思ったが、手紙のやりとりは……、確かに有益であった」
なぜか拗ねたような物言いに、セシルは思わず微笑んだ。
少し頬を染めてセシルを見返すその様子は、年相応の青年に見える。
あらためて、自分より十も下なのだということを意識させられた。
「セシル……、お前のことを私は何も知らなかった。
それなのに、すっかりわかった気になって、勝手に自分で判断していた」
「これまで話したことすらなかったのです。お互いのことなど、わかるはずもありません。
現に私も……」
言いかけてセシルは口をつぐんだ。
王に対して、不敬すぎると思ったのだ。
「これからは、お互いのことをもっと知っていきたい。……セシル」
真剣な瞳に、セシルは思わずたじろいだ。
気づくと、二人は薔薇園のちょうど中心部に来ていた。
「エドガー様、私は……っ」
ぐい、と強く手を引かれた。
そして次の瞬間には、セシルはエドガーの腕の中にいた。
エドガーは長身だ。
セシルはちょうどエドガーの鎖骨あたりに顔をうずめる形になっていた。
「セシル、セシルっ……」
エドガーはまるでセシルを締め付けるかのように、腕に力を込め、セシルを抱き込んでくる。
体中が圧迫され、セシルは息が苦しくなった。
「エドガー様っ」
セシルがうめくと、エドガーはようやく力を緩めた。
「セシル……、ずっと、私は……」
サファイアの瞳がうるんでいる。
あたりの薔薇の香が一層強くなった気がする。
高貴で気高く……、それでいて、優しく、どこまでも甘い香り……。
香りに酔いそうになるセシルを、エドガーはしっかりと支えた。
「エドガー様……」
見つめ合う……。
二人の瞳には、もうお互いの姿しか映っていなかった。
――唇が重なりあう瞬間、セシルはそっと目を閉じた。
口づけは優しく、蕩けるように甘美だった。
「はっ、ンッ……、ふぅっ……」
「セシルっ……、もっと、もっとだ……っ」
唇を食み、お互いの舌を夢中で吸いあう。
熱い口づけに、セシルの身体からはすっかり力が抜ける。ふらつきそうになったセシルは、思わずエドガーにしがみついた。
「エドガー、さまっ……!」
エドガーがセシルを抱きとめ、その身体を密着させる。
「ああ、たまらない……、セシル……、セシル……」
「あっ、んんっ……!」
セシルは自分の使命も忘れて、エドガーとの口吻におぼれてしまいそうになる。
妖しく腰を押し付けあうと、お互いの身体が固く反応しているのがわかった。
セシルはほっとする。
ーー良かった。この私でも感じてくださっている……。
同じオメガとはいえ、ベアトリスとはまるで容姿の違う自分。性別すらも違う。
ベアトリスを寵愛するエドガーが、果たしてセシルに欲望をいだき、身体を繋ぐことができるのか、セシルには不安があった。
ーーこれも、私のオメガ性が回復しているおかげなのかもしれない。
アルファは、オメガのフェロモンには本能的に逆らえないという。
だから本来なら食指が動くはずもない、みすぼらしいオメガの自分にもエドガーの身体は反応しているに違いない。
ーーファリン様のおかげで、私は自分の責務を果たすことができます。
セシルはファリンに心から感謝した。
「エドガーさまっ、もうっ……」
口づけの間に息も絶え絶えになったセシルが、エドガーを見上げる。
「……っ、セシルっ!」
エドガーは、セシルのシャツのボタンを引きちぎると、その白い首筋に吸い付く。
「ああっ……!」
「はあっ、もうっ……、我慢ができない……、ファリンには止められたが……、くそっ……」
舌打ちすると、エドガーはセシルの鎖骨に舌を這わせた。鎖骨に噛みつきそうな勢いのエドガーの髪を、セシルはそっと撫でた。
「エドガーさまっ、どうか、私の部屋へ……」
「……」
顔を上げたエドガーと目が合う。
オメガがアルファを自室へ誘う意味……、説明する必要もない。
「いいのか……?」
エドガーの瞳が揺れている。
セシルは頷いた。
「どうか、このまま、私を……」
セシルの言葉に、エドガーは歩みをゆるめた。
「……白が好きだと手紙に書いてあった」
「はい、とてもきれいな白薔薇でした」
「……宝石は好きではないのか?」
ぶっきらぼうな問い。
「私にはもったいない気がしています」
「そんなことはない……、セシルの瞳には、サファイアの石が良く映える」
その宝石と同じ色の瞳に見つめられ、セシルの鼓動は早くなる。
「もったいないお言葉にございます」
「ファリンに、はじめからやり直すのがいい、と言われたのだ。
馬鹿馬鹿しいとは思ったが、手紙のやりとりは……、確かに有益であった」
なぜか拗ねたような物言いに、セシルは思わず微笑んだ。
少し頬を染めてセシルを見返すその様子は、年相応の青年に見える。
あらためて、自分より十も下なのだということを意識させられた。
「セシル……、お前のことを私は何も知らなかった。
それなのに、すっかりわかった気になって、勝手に自分で判断していた」
「これまで話したことすらなかったのです。お互いのことなど、わかるはずもありません。
現に私も……」
言いかけてセシルは口をつぐんだ。
王に対して、不敬すぎると思ったのだ。
「これからは、お互いのことをもっと知っていきたい。……セシル」
真剣な瞳に、セシルは思わずたじろいだ。
気づくと、二人は薔薇園のちょうど中心部に来ていた。
「エドガー様、私は……っ」
ぐい、と強く手を引かれた。
そして次の瞬間には、セシルはエドガーの腕の中にいた。
エドガーは長身だ。
セシルはちょうどエドガーの鎖骨あたりに顔をうずめる形になっていた。
「セシル、セシルっ……」
エドガーはまるでセシルを締め付けるかのように、腕に力を込め、セシルを抱き込んでくる。
体中が圧迫され、セシルは息が苦しくなった。
「エドガー様っ」
セシルがうめくと、エドガーはようやく力を緩めた。
「セシル……、ずっと、私は……」
サファイアの瞳がうるんでいる。
あたりの薔薇の香が一層強くなった気がする。
高貴で気高く……、それでいて、優しく、どこまでも甘い香り……。
香りに酔いそうになるセシルを、エドガーはしっかりと支えた。
「エドガー様……」
見つめ合う……。
二人の瞳には、もうお互いの姿しか映っていなかった。
――唇が重なりあう瞬間、セシルはそっと目を閉じた。
口づけは優しく、蕩けるように甘美だった。
「はっ、ンッ……、ふぅっ……」
「セシルっ……、もっと、もっとだ……っ」
唇を食み、お互いの舌を夢中で吸いあう。
熱い口づけに、セシルの身体からはすっかり力が抜ける。ふらつきそうになったセシルは、思わずエドガーにしがみついた。
「エドガー、さまっ……!」
エドガーがセシルを抱きとめ、その身体を密着させる。
「ああ、たまらない……、セシル……、セシル……」
「あっ、んんっ……!」
セシルは自分の使命も忘れて、エドガーとの口吻におぼれてしまいそうになる。
妖しく腰を押し付けあうと、お互いの身体が固く反応しているのがわかった。
セシルはほっとする。
ーー良かった。この私でも感じてくださっている……。
同じオメガとはいえ、ベアトリスとはまるで容姿の違う自分。性別すらも違う。
ベアトリスを寵愛するエドガーが、果たしてセシルに欲望をいだき、身体を繋ぐことができるのか、セシルには不安があった。
ーーこれも、私のオメガ性が回復しているおかげなのかもしれない。
アルファは、オメガのフェロモンには本能的に逆らえないという。
だから本来なら食指が動くはずもない、みすぼらしいオメガの自分にもエドガーの身体は反応しているに違いない。
ーーファリン様のおかげで、私は自分の責務を果たすことができます。
セシルはファリンに心から感謝した。
「エドガーさまっ、もうっ……」
口づけの間に息も絶え絶えになったセシルが、エドガーを見上げる。
「……っ、セシルっ!」
エドガーは、セシルのシャツのボタンを引きちぎると、その白い首筋に吸い付く。
「ああっ……!」
「はあっ、もうっ……、我慢ができない……、ファリンには止められたが……、くそっ……」
舌打ちすると、エドガーはセシルの鎖骨に舌を這わせた。鎖骨に噛みつきそうな勢いのエドガーの髪を、セシルはそっと撫でた。
「エドガーさまっ、どうか、私の部屋へ……」
「……」
顔を上げたエドガーと目が合う。
オメガがアルファを自室へ誘う意味……、説明する必要もない。
「いいのか……?」
エドガーの瞳が揺れている。
セシルは頷いた。
「どうか、このまま、私を……」
153
お気に入りに追加
1,083
あなたにおすすめの小説
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
森の中の華 (オメガバース、α✕Ω、完結)
Oj
BL
オメガバースBLです。
受けが妊娠しますので、ご注意下さい。
コンセプトは『受けを妊娠させて吐くほど悩む攻め』です。
ちょっとヤンチャなアルファ攻め✕大人しく不憫なオメガ受けです。
アルファ兄弟のどちらが攻めになるかは作中お楽しみいただけたらと思いますが、第一話でわかってしまうと思います。
ハッピーエンドですが、そこまで受けが辛い目に合い続けます。
菊島 華 (きくしま はな) 受
両親がオメガのという珍しい出生。幼い頃から森之宮家で次期当主の妻となるべく育てられる。囲われています。
森之宮 健司 (もりのみや けんじ) 兄
森之宮家時期当主。品行方正、成績優秀。生徒会長をしていて学校内での信頼も厚いです。
森之宮 裕司 (もりのみや ゆうじ) 弟
森之宮家次期当主。兄ができすぎていたり、他にも色々あって腐っています。
健司と裕司は二卵性の双子です。
オメガバースという第二の性別がある世界でのお話です。
男女の他にアルファ、ベータ、オメガと性別があり、オメガは男性でも妊娠が可能です。
アルファとオメガは数が少なく、ほとんどの人がベータです。アルファは能力が高い人間が多く、オメガは妊娠に特化していて誘惑するためのフェロモンを出すため恐れられ卑下されています。
その地方で有名な企業の子息であるアルファの兄弟と、どちらかの妻となるため育てられたオメガの少年のお話です。
この作品では第二の性別は17歳頃を目安に判定されていきます。それまでは検査しても確定されないことが多い、という設定です。
また、第二の性別は親の性別が反映されます。アルファ同士の親からはアルファが、オメガ同士の親からはオメガが生まれます。
独自解釈している設定があります。
第二部にて息子達とその恋人達です。
長男 咲也 (さくや)
次男 伊吹 (いぶき)
三男 開斗 (かいと)
咲也の恋人 朝陽 (あさひ)
伊吹の恋人 幸四郎 (こうしろう)
開斗の恋人 アイ・ミイ
本編完結しています。
今後は短編を更新する予定です。
この噛み痕は、無効。
ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋
α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。
いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。
千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。
そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。
その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。
「やっと見つけた」
男は誰もが見惚れる顔でそう言った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる