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第28話

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「セシルっ、セシルっ……」

 きつく抱きしめられ、切なげに名を呼ばれると、セシルの身体の奥にある熱を帯びた何かが目を覚ました。


「あ……っ」

 においをかがれるように首筋に顔を埋められ、セシルは小さく吐息を漏らす。


「私のことは、エドガーと呼べ」

「エドガー様っ……」

 二人の視線が絡み合った。

 エドガーの指が、セシルの顎を持ち上げる。


「目を閉じろ……」

 何をされるかなど、わかっていた。

 だが、こんな状況になっていてもセシルはまだ信じられずにいた。


「セシル……」


 囁きとともに、唇が重なる。

 温かく、柔らかい感触に、セシルの胸が、甘く疼く。


「んっ……」

 口づけは優しかった。

 小鳥がついばむように、何度も触れるだけの口づけを繰り返す。


「セシル……」

「エドガーさまっ、……っ」

 ふっと力が抜けた瞬間を見計らうかのように、おずおずと舌が差し入れられた。


「あっ……、はぁっ……」

 熱い舌がセシルのそれを絡めとろうとするかのように蠢くと、セシルの腰から力が抜ける。

 エドガーは、自分のマントを外すと地面に敷き、そのまま抱えるようにセシルをそこに横たえた。


「あのっ、マントが、汚れ……っ、あっ…‥」

「どうでもいい」

 セシルの指摘など無視して、エドガーはセシルに覆いかぶさる。

 エドガーはセシルの首の後ろに手をまわすと、するりと紫のスカーフを抜き取った。


「あっ……」

「こんなものは必要ない」

 スカーフを放り投げるエドガーの青い瞳には、情欲の焔が揺れている。


 ――どうしよう、このままでは……。


 エドガーを拒んだ方がいいのか、……拒んでもいいのか、セシルには判断がつかない。

 ただエドガーの下で身を固くするセシルだったが、エドガーの手がシャツのボタンに伸びたところで我に返った。


「いけません……、エドガー様っ」

 とっさにシャツの前をあわせて抵抗するセシルだったが、あっという間にエドガーに両手をつかまれ押さえつけられてしまう。

「いまさら抵抗するな」

「……っ」

 エドガーの瞳に射すくめられると、セシルの身体から力が抜けた。

「セシル、よく覚えておけ。そんな表情は、私を煽るだけだと」

 エドガーは酷薄な笑みを浮かべると、セシルの首筋に唇を寄せる。


「エドガーさまっ、駄目ですっ……!」

「何が駄目なのだ? セシル、お前は私の正妃だ。
王が正妃を抱くのに、許可が必要なのか?」

「いえ……っ、あの……」

 エドガーの言葉に、己の立場を思い知らされる。


 エドガーはくすりと笑うと、セシルの上着をはぎ取り、シャツのボタンを外しはじめた。セシルは思わず顔をそむける。

 だが、ボタンを二つ外したところで、エドガーの手がとまった。

「……」

「エドガー様?」

 起き上がろうとするセシルの肩を、エドガーは強く押し戻した。

「……なるほどな……、そういうことか」

 エドガーの指が、セシルの鎖骨をなぞった。

「あの……、っ!!」

「だから『駄目』だと? セシル、そういうことか!?」

 エドガーは語気を荒げると、力任せにセシルのネックレスを引きちぎった。

「……痛っ」

 顔をしかめるセシル。
 エドガーは引きちぎられたチェーンにぶら下がっているジャックス王の指輪を、セシルの鼻先で揺らした。

「いまだに先王に操を立てているのだな。こんなものをいつまでも後生大事に身に着けて……」

「それは……、あのっ……」

 釈明の言葉が出てこない。


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