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第21話
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翌朝--。
蒼玉宮のセシルの居室には、アビーの悲鳴が響き渡っていた。
「せ、セシル様……っ! そのお顔っ、いったいどうなさったのです!!??」
カーテンを開けられ、差し込んでくる朝日にセシルは目を細めた。
「あ、アビー、おはよう……、ん、あれ? 目がちゃんと開かない……」
目のあたりが腫れぼったく、いつもの三分の一程度しか瞼が開いていない気がする。
「セシル様……、なんておいたわしい、いったい昨夜なにがあったのですか?」
「……」
アビーの言葉に、セシルは昨夜、はからずも自分のもとに届いたジャックス王の形見の指輪を思い出す。
「とにかくっ、何か冷やすものを持ってまいります」
あれから、寝台の上でずっとジャックス王の指輪を握り締めて泣き続けていた。
そのまま泣きながら眠ってしまったため、目がひどく腫れてしまったらしい。
恐る恐る鏡をのぞき込むと、一目見て泣きはらしたとわかるほど目の周りが赤くなっていた。
――こんな顔をして新しい陛下にお目にかからなければならないなんて!
自分のふがいなさに情けなくなる。
セシルは、アビーが部屋を出て行った隙に、戸棚の鍵を取り出すと、エドガーから送られた宝飾品が詰め込まれている棚を開けた。
そこには指輪やブレスレット、ネックレスなど、目を疑うような高価な宝飾品がこれでもかとしまわれていた。
セシルはそこからネックレスの入った細長い箱を出すと、大粒のサファイアのペンダントトップを外し、シルバーのチェーンだけを取り出した。
そして、そのチェーンにジャックス王の指輪を通すと、それを自ら首にかけた。
「……エドガー王、申し訳ありません。チェーンだけ少しの間お借りさせていただきます」
ジャックス前王の形見を身に着けることで、なぜかわからないが、セシルはほんの少しだけ心が強くなった気がする。
――陛下、私を見守っていてください。
セシルは、服の上からジャックス王の指輪を強く握りしめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日は、まさに行楽にうってつけの良い天気だった。
だが晴れ渡る青空とは正反対に、セシルの心はどんよりと曇っていた。
指定されば場所はちょうど王宮と離宮からの真ん中あたりにある、貴族の間では有名な湖だった。
離宮からの馬車を降りると、もうすでにそこにはエドガー、ベアトリス、ファリンの姿があった。
エドガーは、裏が青地の金色のマントに白い軍服姿。黄金の髪が風になびくその姿は、神話から出てきたのかと思うほどの神々しい美しさだったが、ピクニックにしては妙にめかしこんでいる印象だった。
その隣のベアトリスも、およそピクニックには似つかわしくない繊細なレースがこれでもかと施されたドレスで決めこんでいる。
二人から少し離れた場所にいるファリンだけは、いつものゆったりとした薄紫色のローブを羽織っていた。
「なんだ、その顔は!」
慌てて馬車を降りてきたセシルを見るなり、エドガーは憤怒の表情を浮かべる。
「も、申し訳ありま……」
驚きのあまり、目を伏せて首をたれるセシルだったが、エドガーは傍らの花木をしげしげと観察しているファリンに牙を向けた。
「おい、ファリン! 一体どういうことだ? お前の報告では、治療は順調にすすみ、体調も回復しているということだったが……。
貴様、いったい昨日の診察でセシルに何をした? 返答によってはただではおかぬぞ!」
エドガーの怒号に震え上がるセシル。
やはりこの場はセシルの断罪の場に違いない。
蒼玉宮のセシルの居室には、アビーの悲鳴が響き渡っていた。
「せ、セシル様……っ! そのお顔っ、いったいどうなさったのです!!??」
カーテンを開けられ、差し込んでくる朝日にセシルは目を細めた。
「あ、アビー、おはよう……、ん、あれ? 目がちゃんと開かない……」
目のあたりが腫れぼったく、いつもの三分の一程度しか瞼が開いていない気がする。
「セシル様……、なんておいたわしい、いったい昨夜なにがあったのですか?」
「……」
アビーの言葉に、セシルは昨夜、はからずも自分のもとに届いたジャックス王の形見の指輪を思い出す。
「とにかくっ、何か冷やすものを持ってまいります」
あれから、寝台の上でずっとジャックス王の指輪を握り締めて泣き続けていた。
そのまま泣きながら眠ってしまったため、目がひどく腫れてしまったらしい。
恐る恐る鏡をのぞき込むと、一目見て泣きはらしたとわかるほど目の周りが赤くなっていた。
――こんな顔をして新しい陛下にお目にかからなければならないなんて!
自分のふがいなさに情けなくなる。
セシルは、アビーが部屋を出て行った隙に、戸棚の鍵を取り出すと、エドガーから送られた宝飾品が詰め込まれている棚を開けた。
そこには指輪やブレスレット、ネックレスなど、目を疑うような高価な宝飾品がこれでもかとしまわれていた。
セシルはそこからネックレスの入った細長い箱を出すと、大粒のサファイアのペンダントトップを外し、シルバーのチェーンだけを取り出した。
そして、そのチェーンにジャックス王の指輪を通すと、それを自ら首にかけた。
「……エドガー王、申し訳ありません。チェーンだけ少しの間お借りさせていただきます」
ジャックス前王の形見を身に着けることで、なぜかわからないが、セシルはほんの少しだけ心が強くなった気がする。
――陛下、私を見守っていてください。
セシルは、服の上からジャックス王の指輪を強く握りしめた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日は、まさに行楽にうってつけの良い天気だった。
だが晴れ渡る青空とは正反対に、セシルの心はどんよりと曇っていた。
指定されば場所はちょうど王宮と離宮からの真ん中あたりにある、貴族の間では有名な湖だった。
離宮からの馬車を降りると、もうすでにそこにはエドガー、ベアトリス、ファリンの姿があった。
エドガーは、裏が青地の金色のマントに白い軍服姿。黄金の髪が風になびくその姿は、神話から出てきたのかと思うほどの神々しい美しさだったが、ピクニックにしては妙にめかしこんでいる印象だった。
その隣のベアトリスも、およそピクニックには似つかわしくない繊細なレースがこれでもかと施されたドレスで決めこんでいる。
二人から少し離れた場所にいるファリンだけは、いつものゆったりとした薄紫色のローブを羽織っていた。
「なんだ、その顔は!」
慌てて馬車を降りてきたセシルを見るなり、エドガーは憤怒の表情を浮かべる。
「も、申し訳ありま……」
驚きのあまり、目を伏せて首をたれるセシルだったが、エドガーは傍らの花木をしげしげと観察しているファリンに牙を向けた。
「おい、ファリン! 一体どういうことだ? お前の報告では、治療は順調にすすみ、体調も回復しているということだったが……。
貴様、いったい昨日の診察でセシルに何をした? 返答によってはただではおかぬぞ!」
エドガーの怒号に震え上がるセシル。
やはりこの場はセシルの断罪の場に違いない。
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