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第13話

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「セシル様、大丈夫ですか?」

 突然ぐらりとかしいだ身体を、後ろにひかえていたロイに支えられた。


「……大丈夫です。申し訳ありません」

 額の汗をぬぐうと、セシルは聖堂の外に出た。


「震えているのですか? 顔色が悪いようですね……。これから、新王の即位式ですが……」

 ロイがその長身をかがめて、セシルの顔を覗き込む。


「大丈夫です」

「しかし……」

「セシル様はどうぞゆっくりお休みになっていたください。
即位式にはベアトリス様がお出ましになられますのでどうぞご心配なく」

 ベアトリスのお付きの侍女が、声をかけてきた。

 表面上はセシルを気遣うようなふりをしているが、内心はベアトリスを差し置いて正妃となったセシルが邪魔で仕方がないのだろう。


「セシル様っ、大丈夫ですか? まあ、大変! 今にも倒れてしまいそうですわ。
どうぞ即位式は私にお任せください。
殿下からもセシル様に無理をさせないようにきつく言われていますの。人目が多い即位式はセシル様もおつらいだろうと……」

 後方から現れたベアトリスが、その柔らかな手のひらをセシルの背中に置いた。

「……」


 即位式は結婚式とは違い、広く国民一般にも公開される。セシルが欠席し、ベアトリスだけが出席すれば、より華やかな祭典で『誰が本当の正妃』なのか、貴族たちだけでなく民衆の目にも明らかになる。

 ベアトリスが「正妃扱い」であることはこの国に広く知れ渡ることになるだろう。

 あれほどセシルを憎んでいるエドガーが、セシルの体調など気遣うはずもない。
 おそらくエドガーをはじめ、この場も誰もが、セシルが即位式に出ることを望んではいないのだ。

 ――復讐のためだけに正妃に据えた先王のオメガなど、誰が人前に出して披露したいと思うものか。

 セシルの心には、どす黒い澱がまっていくようだった。



「では、皆様には大変申し訳ありませんが、体調が優れませんので、お言葉に甘えて私は部屋に戻らせていただきます……」

 セシルの言葉に、ベアトリスはあからさまにほっとした表情になる。
 もしかしたら、エドガーからセシルを即位式にださないよう念押しされていたのかもしれない。

 
「そのほうがよろしいですわ。お部屋に戻ってゆっくりお身体を休めてください。後はすべて私におまかせを」

 ベアトリスの声は、小鳥の美しいさえずりのようだった。

 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王宮の部屋に戻ろうとするセシルを、ロイが止めた。

「セシル様……、その……、新王が即位された後、セシル様には離宮にお移りいただくよう、仰せつかっております……」

 言いにくそうに口ごもると、ロイはセシルから目をそらす。

「そう……、ですか……」

 心無い貴族からの言葉は本当だった。


 ーー自分は、これから離宮に隔離されるのだ……。

 セシルを憎むエドガーが、今後セシルを側に置くはずはない。


 正妃に据えられたからといって、当たり前のように王宮で暮らすと思っていた自分が恥ずかしかった。


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