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第10話
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セシルは、部屋の外で言い争っているのが、エドガー王太子と近衛師団のロイであることを知った。
おそらく倒れたセシルを運び、寝台に寝かせたのはロイだろう。
「しかし、ずっと王の番だった者だぞ。番の契約が解除されるからといって、そんなに急に心変わりもできないだろう。
こんなまねをして、持ちこたえることができるのか?」
セシルは、近衛師団のロイの、エドガー王太子への不躾ともいえる物言いに驚いていた。仲がいい友人というのは本当なのだろう。
「あの者は、私のものだ!」
「だが……!」
「中にいるのだな。様子を見てくる」
エドガーの声に、セシルは思わず目をつぶり、寝台の上で身を固くした。
「セシル……」
エドガーの声がすぐそばでした。
セシルは、起きていることを悟られないよう、静かにゆっくりと呼吸を繰り返した。
「セシル……」
何かが、頬に触れた。
おそらく、エドガーの指だろう。
まるで壊れ物にでも触るように、鼻筋や唇をなぞるように触れていく。
「セシル……、お前はもう私の正妃だ。
もう、誰にも邪魔はさせない」
何かを決意したような真剣な声。
そして衣擦れの音がしたかと思うと、温かい何かがそっと唇に触れた。
口づけをされた、と気が付いた瞬間、セシルの胸の奥が甘く疼いた。
だが、次にエドガーから吐き出された言葉に、セシルは驚愕した。
「セシル……、今まで味わった苦痛のすべてを私は決して忘れない。
お前には、これからじっくりその代償を支払わせてやる――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
触れるだけの口づけをした後、エドガーは静かに部屋を出て行った。
まだ鼓動がおさまらなかった。
やはり……、やはり、エドガーはセシルに復讐しようとしている。
――これからどんな仕打ちを計画しているのか。
セシルは寝台の上で、胎児のように丸まり、自分自身をぎゅっと抱きしめていた。
しばらくたつと、温かい食事とともに、今後セシルの世話を請け負うというメイドがあらわれた。
「明日は、婚姻の儀です。しっかり食べてゆっくりお休みになられますように。」
アビーと名乗ったメイドは、てきぱきとセシルの世話をした。
歳は、セシルと同じくらいだろう。赤毛の頼もしそうな女性だった。
「婚姻……? そんなに早く?」
セシルは驚きに目を見開く。
まだジャックス王の葬儀すら行われていない。
「エドガー殿下は独身ですから、王に即位されるためには今すぐに結婚しなければなりません」
「そうだったのか……」
今更ながら、誰もが知っている王家のしきたりすらよくわかっていない自分を恥じた。
もしかすると、取り急ぎの間に合わせの正妃としてセシルが選ばれたのかもしれない。
「先王の葬儀の喪主は、新王が行われることが決まりです。
ですから、先にエドガー殿下の即位式が行われるんです」
そして突然アビーはセシルの周りをぐるりと一周すると、怖い顔で言った。
「セシル様! セシル様はどこからどう見ても細すぎです!
いままで一体何を食べていらしたんですか?
お顔の色も良くないです!
このアビーが来たからには、半月……、いえ十日でつやつやのお肌のふっくらしたお身体にして差し上げますからね!!」
おそらく倒れたセシルを運び、寝台に寝かせたのはロイだろう。
「しかし、ずっと王の番だった者だぞ。番の契約が解除されるからといって、そんなに急に心変わりもできないだろう。
こんなまねをして、持ちこたえることができるのか?」
セシルは、近衛師団のロイの、エドガー王太子への不躾ともいえる物言いに驚いていた。仲がいい友人というのは本当なのだろう。
「あの者は、私のものだ!」
「だが……!」
「中にいるのだな。様子を見てくる」
エドガーの声に、セシルは思わず目をつぶり、寝台の上で身を固くした。
「セシル……」
エドガーの声がすぐそばでした。
セシルは、起きていることを悟られないよう、静かにゆっくりと呼吸を繰り返した。
「セシル……」
何かが、頬に触れた。
おそらく、エドガーの指だろう。
まるで壊れ物にでも触るように、鼻筋や唇をなぞるように触れていく。
「セシル……、お前はもう私の正妃だ。
もう、誰にも邪魔はさせない」
何かを決意したような真剣な声。
そして衣擦れの音がしたかと思うと、温かい何かがそっと唇に触れた。
口づけをされた、と気が付いた瞬間、セシルの胸の奥が甘く疼いた。
だが、次にエドガーから吐き出された言葉に、セシルは驚愕した。
「セシル……、今まで味わった苦痛のすべてを私は決して忘れない。
お前には、これからじっくりその代償を支払わせてやる――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
触れるだけの口づけをした後、エドガーは静かに部屋を出て行った。
まだ鼓動がおさまらなかった。
やはり……、やはり、エドガーはセシルに復讐しようとしている。
――これからどんな仕打ちを計画しているのか。
セシルは寝台の上で、胎児のように丸まり、自分自身をぎゅっと抱きしめていた。
しばらくたつと、温かい食事とともに、今後セシルの世話を請け負うというメイドがあらわれた。
「明日は、婚姻の儀です。しっかり食べてゆっくりお休みになられますように。」
アビーと名乗ったメイドは、てきぱきとセシルの世話をした。
歳は、セシルと同じくらいだろう。赤毛の頼もしそうな女性だった。
「婚姻……? そんなに早く?」
セシルは驚きに目を見開く。
まだジャックス王の葬儀すら行われていない。
「エドガー殿下は独身ですから、王に即位されるためには今すぐに結婚しなければなりません」
「そうだったのか……」
今更ながら、誰もが知っている王家のしきたりすらよくわかっていない自分を恥じた。
もしかすると、取り急ぎの間に合わせの正妃としてセシルが選ばれたのかもしれない。
「先王の葬儀の喪主は、新王が行われることが決まりです。
ですから、先にエドガー殿下の即位式が行われるんです」
そして突然アビーはセシルの周りをぐるりと一周すると、怖い顔で言った。
「セシル様! セシル様はどこからどう見ても細すぎです!
いままで一体何を食べていらしたんですか?
お顔の色も良くないです!
このアビーが来たからには、半月……、いえ十日でつやつやのお肌のふっくらしたお身体にして差し上げますからね!!」
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