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第8話
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「これ以上の狼藉は、正妃候補に対する不敬と見なすぞ!」
後ろで両手首をひねりあげられたラッセル大臣は悲鳴を上げた。
「……っ、わかったっ! わかったから、その手を離せ」
ロイは、ラッセル大臣を扉の方に押しやった。
「確認は済んだな? なら、しかるべき報告しろ」
ロイの冷たい視線に、ラッセル大臣は顔をゆがめた。
「フン、エドガー殿下のお気に入りかなにか知らないが、近衛兵ごときが偉そうに!
少しばかり興がのっただけではないか!
おい、エドガー殿下にいらぬことを告げ口したらただでは済まさぬぞ!」
「そちらが調査の報告を正しくすればいいだけのことだ!」
ロイは、半ば追い出すような形でラッセル大臣と宮廷医師を部屋から出した。
「……服を着てください。私は後ろを向いていますから」
マントをかけられたセシルに、ロイがつっけんどんに告げる。
「あの……、ありがとうございます」
「感謝されるようなことなど、なにもしておりません」
背を向けたまま、ロイは答える。
急いで服を着たセシルは、ロイにまた王宮内の別の場所へと連れていかれた。
「ここは……?」
「セシル様の居室です」
「……」
そこは、清潔に整えられた感じの良い部屋だった。
ジャックス王から与えられた豪華絢爛な調度品とは全く違う、無駄な装飾はないが、品が良く洗練された家具や調度品で整えられていた。
――この部屋、好きだ……。それに、いい匂いがする。
まるで新緑の風に包まれているようなさわやかな気配。
ジャックス王は香を焚くのが好きだったため、セシルの居場所はいつも甘くかぐわし香りで満たされていたが、セシルにはそれよりもずっとこの部屋の空気がとても好ましく感じられた。
「疲れたでしょう。しばらく、お休みください。夕刻にはエドガー殿下もいらっしゃいます」
ロイの言葉に、セシルは硬直した。
ついに、エドガー殿下に対面する……。
エドガー殿下は、自分のことを何と言って罵るのだろう?
どんな罰を与えるのだろう?
どんな蔑んだ目で、自分を見つめるのだろう……。
柔らかな椅子に腰かけたセシルは青ざめ、ロイを見上げた。
「……っ、そんな目で見ないでくださいっ!
これでも俺は、アルファの端くれです。……親友を裏切るようなことはしたくないっ……」
なぜか頬を赤らめるロイに、セシルは首をかしげる。
「あの……」
「と、とにかくっ、ここでしばらく休んでいてください!」
怒ったように言うと、ロイは部屋から荒々しい足取りで出て行ってしまった。
後ろで両手首をひねりあげられたラッセル大臣は悲鳴を上げた。
「……っ、わかったっ! わかったから、その手を離せ」
ロイは、ラッセル大臣を扉の方に押しやった。
「確認は済んだな? なら、しかるべき報告しろ」
ロイの冷たい視線に、ラッセル大臣は顔をゆがめた。
「フン、エドガー殿下のお気に入りかなにか知らないが、近衛兵ごときが偉そうに!
少しばかり興がのっただけではないか!
おい、エドガー殿下にいらぬことを告げ口したらただでは済まさぬぞ!」
「そちらが調査の報告を正しくすればいいだけのことだ!」
ロイは、半ば追い出すような形でラッセル大臣と宮廷医師を部屋から出した。
「……服を着てください。私は後ろを向いていますから」
マントをかけられたセシルに、ロイがつっけんどんに告げる。
「あの……、ありがとうございます」
「感謝されるようなことなど、なにもしておりません」
背を向けたまま、ロイは答える。
急いで服を着たセシルは、ロイにまた王宮内の別の場所へと連れていかれた。
「ここは……?」
「セシル様の居室です」
「……」
そこは、清潔に整えられた感じの良い部屋だった。
ジャックス王から与えられた豪華絢爛な調度品とは全く違う、無駄な装飾はないが、品が良く洗練された家具や調度品で整えられていた。
――この部屋、好きだ……。それに、いい匂いがする。
まるで新緑の風に包まれているようなさわやかな気配。
ジャックス王は香を焚くのが好きだったため、セシルの居場所はいつも甘くかぐわし香りで満たされていたが、セシルにはそれよりもずっとこの部屋の空気がとても好ましく感じられた。
「疲れたでしょう。しばらく、お休みください。夕刻にはエドガー殿下もいらっしゃいます」
ロイの言葉に、セシルは硬直した。
ついに、エドガー殿下に対面する……。
エドガー殿下は、自分のことを何と言って罵るのだろう?
どんな罰を与えるのだろう?
どんな蔑んだ目で、自分を見つめるのだろう……。
柔らかな椅子に腰かけたセシルは青ざめ、ロイを見上げた。
「……っ、そんな目で見ないでくださいっ!
これでも俺は、アルファの端くれです。……親友を裏切るようなことはしたくないっ……」
なぜか頬を赤らめるロイに、セシルは首をかしげる。
「あの……」
「と、とにかくっ、ここでしばらく休んでいてください!」
怒ったように言うと、ロイは部屋から荒々しい足取りで出て行ってしまった。
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