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【番外編】

聖騎士テオドールの華麗なる一日 その6

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「ごめんね、テオ。頬っぺた、痛かった?」
 
 別宅へと戻る馬車の中。
 隣に座るジュールが、テオドールの左頬に手のひらをあてた。

「なんともないよ。大丈夫」

「あと、ごめんね、……朝、あの、俺……」

 ジュールは甘えるようにテオドールの肩にしなだれかかった。


 デマル男爵がいそいそと退出したあと、久しぶりに本宅で家族水入らずのディナーとなった。

 最近顔を合わせていなかった義父母はとても喜び、二人ともワインを飲みすぎてすっかりご機嫌になっていた。

 そして今朝喧嘩したはずのジュールも、デマル男爵とのやりとりにすっかり毒気を抜かれてしまったのか、嫌がらずにテオドールとともに別宅に帰ることに同意した。


 テオドールは、ジュールを引き寄せ、その唇を奪った。

「あ……、んっ……」

「ジュール、俺の方こそごめんなさい……」

 上気したジュールの頬を撫でる。

「あ、テオ……、もっと……」

 ジュールも酔っているのか、いつもよりも積極的に舌を絡ませてくる。

「ジュール、俺はずっと自分の気持を押し付けてばかりだった。
あなたの状況も何も考えずに、俺に縛り付けて、あなたの自由を奪って、それが愛だと、勘違いしていた……」

 ジュールはテオドールの首に両腕を伸ばして抱き着いた。

「テオ……、俺、すごく、うれしかったよ……!
テオが、俺と一緒にエディマに行ってくれるって、言ってくれて!
俺も……、本当は、君の聖騎士の仕事が忙しいこと、ずっと、嫉妬してたんだ……。
だから、本当は俺だって、できるならずっとテオを自分に縛り付けておきたい!」

「ジュールっ!!」

 テオドールは馬車の座席にジュールを押し倒した。

 潤んだ青灰色の瞳が、テオドールを見上げる。

「テオ、好きだよ。愛してる……」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 馬車から降りたテオドールは、ジュールをその腕に抱いたまま、寝室へと直行した。

 だが……、

「え、テオ? なんで?」

 ジュールを絹のネグリジェに着替えさせたテオドールは、自分も寝間着に着替えるとそのままベッドに横たわったのだった。

「ジュール、俺もちょっとは反省したんだ。今まで……、ジュールには無理をさせすぎた。
だから、昨夜はジュールにあんなことを言わせちゃったんだね」

 テオドールは隣に寝かせたジュールにシーツをかけると、まるで子供にするみたいにポンポンと頭を撫でた。

「あれは……っ、だってっ!!」

 そう、昨日の夜、誕生日プレゼントに何が欲しいかと尋ねたテオドールに、ジュールはこう答えたのだ。


『え? 本当になんでもいいの? じゃあ……、じゃあさ、夜のこと、なんだけど、ちょっとの間でいいから、二日に一回とかに、できないかな……』

 
 もちろんそんなことを言われたテオドールは、瞬間的に我を失い、ジュールに思い知らせるかのように、その身体を明け方まで貪り続けたのだった。


「今まで毎日俺に付き合わせて悪かった。ジュールの体調のことも考えずに、俺は自分の欲望ばかり優先してた。
だから、ジュール、これからは2日にいっぺんと言わないで、もう少し間をあけようか? 例えば、週末だけにするとか……」

「週末だけ……」

 ジュールは何か考え込むように、唇に手をあてた。

「ああ、もちろん誕生日プレゼントは別にちゃんと考えるから、欲しいものがあるなら何でも言って!」

「……わかった」

「じゃあ、おやすみ」

 テオドールは部屋の明かりを落とすと、ジュールの隣に横たわり、目を閉じた。


「……ねえ、テオ」

 ジュールがベッドのなかで身体を擦りよらせてくる。

「どうしたの? ジュール」

「テオ、テオ……っ」

 まるで幼い子どものように、ジュールはテオドールの胸にしがみついた。

「おいで、ジュール」

 甘く耳元で囁くと、テオドールはジュールを抱き寄せた。

 ジュールの温かい体温が伝わってくる。

「テオっ……!」

 ジュールはテオドールの背中に手を回した。


「今日はゆっくり眠って……。ジュール、愛してる……」

 テオドールはジュールの髪にキスを落とした。


「……嫌だっ!!」

 突然ジュールは叫ぶと、テオドールの身体の上に乗り上げた。

「ジュールっ!?」

「なんなんだよっ、それはっ! 週末だけ? 俺はそんなこと、一言も頼んでないだろっ!
テオ、もしかして……っ、もう、俺のことなんて、どうでもよくなったのかっ!?」

 ジュールは言うと、テオドールの寝間着のボタンを荒っぽく外し、その裸の胸に手を這わせた。



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