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【番外編】
聖騎士テオドールの華麗なる一日 その3
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テオドールはイラついていた。
「最近では、国外からも聖騎士の活躍を一目見たいと、魔獣討伐の依頼も増えておりまして……」
「隣国の国王からの大口の寄附がありましたので、一度聖教会でもてなす必要もありまして、その際聖騎士にもぜひ出席を……」
「聖騎士のおかげで、シャルロット殿下をはじめ、国内からの寄附も相当なものになりました。
これで念願の大聖堂の大改修の目途もついたというものです……」
(老人たちはどうしてこうも話が長いのだ? 一体この会議はいつ終わるんだ!?
一刻も早くジュールを迎えにいかなければならないというのに!!)
「というわけで、聖騎士殿、いかがでしょう、一度、国外の……」
「お断りします!」
テオドールの声に、しんと場が静まり返った。
「聖騎士、今まではあなたの最愛の事情で、様々なことに目をつぶってきました。
本来なら許されない職務違反も、見過ごしてきたつもりです。
しかし、貴方も最愛と無事婚儀をあげ、状況はすっかり落ち着いたのではありませんか?
今後は、もっと聖騎士としての自覚を持って……」
司教の紫色の瞳を、テオドールは見返した。
「司教、私はそもそも、私の最愛とともに生きるために聖騎士になったのです。
聖騎士の任務が、私の最愛との時間を割くものであるというなら、それは本末転倒ではありませんか?
以前も申しました通り、私の働きが不十分であるというのなら、私はいつでも聖騎士の職を辞するつもりです」
「まあまあ、聖騎士殿、そんなことをおっしゃらずに!」
「そうですよ、司教! 聖騎士殿はよくやっておられます! この前も、ずっと北の洞窟にはびこって被害が拡大していたグーロの群れを、闇魔法で一網打尽に!」
「聖騎士殿のおかげで、この長きにわたって廃れていた聖教会は持ち直したのではありませんか!
聖騎士殿はいわば聖教会の救世主ですぞ!」
「聖騎士団の人気もたいしたものです! おかげ様で、どこへいっても聖教会の催しは人でごった返しておりますよ!」
「今となっては聖騎士あっての聖教会なのです! 聖騎士殿、我々のためにもどうか、どうか!」
司祭たちが、一斉に騒ぎ出す。
――結局、なんの進展もないまま、会議は終了した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「聖騎士、少し話をしましょうか」
司祭の言葉に、退出しようとしていたテオドールは足を止めた。
「お急ぎでしょうか?」
「急ぎではありませんが、今、貴方は私の言葉を耳に入れておくべきだと思います。
とくに、貴方の最愛との関係においては……」
ジュールのことを話に出されては、テオドールとしても聞かないわけにはいかなかった。
「聖騎士、貴方は今、貴方の最愛を鳥籠の中に閉じ込めてしまっていますね……」
向かい合った席に座る、白いローブの司教。
その役職からも、それなりの年齢の女性のはずなのだが、神秘的な紫色の髪とつるりとした頬からは、その実年齢を推し量ることができない。
「それは誤解です。私は彼を閉じ込めなどしていません。彼は自由に外出もできますし、見張りすらもつけてもおりません」
「精神的な鎖も、十分な足かせとなります」
「……」
テオドールは歯がゆかった。
なぜ誰もかれもが、自分のジュールに対する真の想いを理解しようとしないのだろうか。
誰よりも愛しいジュールを守ろうとするテオドールの想いは、なぜ周りに正しく伝わらないのだろうか。
「聖騎士、私はあなたのお義父様から連絡をもらったのです」
「義父から……」
「貴方のことを、大変心配されていらっしゃいました。
聖騎士、貴方の生い立ちは複雑で、また貴方が最愛と結ばれる過程も大変困難に満ちたものだっと聞き及んでおります。
だがら、貴方があなたの最愛を片時も離したくないという思いは、十分に理解できます。
ですが……」
「理解など、できない……っ」
テオドールの言葉に、司祭ははっとして口をつぐんだ。
「理解など、できるわけがないっ! 俺が、どれほど狂おしく叔父様を愛しているか。どんな気持ちで聖騎士になる道を選んだのか!
誰にも、決して!」
「聖騎士、お聞きなさい」
司祭の凛とした声が響く。
「あなたの本質を変えることは、おそらく神の手をもってしても不可能でしょう。
ですが……」
司祭は、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「行動を変えることはできます。
行動を変えれば、貴方の最愛も、安心してあなたに愛を示すことができるでしょう」
「ですが……っ」
テオドールは拳を握り締めた。
「司祭は、私の最愛を大空に解き放てとおっしゃるのですか?
やっと捕まえた大切な私の最愛を!」
テオドールの言葉に、司祭は首を振る。
「いいえ、私はそんなことを言っているのではありません。
鳥籠に入れられた鳥は、空を飛べないことを不満に思うでしょう。ですが……」
紫色の瞳が、不思議な光を帯びる。
「もしその鳥籠が、それと気づかないくらい、広く、大きいものだったらどうでしょう?
あなたの最愛は、貴方の大きな掌のなかで、自由に羽ばたくことができるのです」
「最近では、国外からも聖騎士の活躍を一目見たいと、魔獣討伐の依頼も増えておりまして……」
「隣国の国王からの大口の寄附がありましたので、一度聖教会でもてなす必要もありまして、その際聖騎士にもぜひ出席を……」
「聖騎士のおかげで、シャルロット殿下をはじめ、国内からの寄附も相当なものになりました。
これで念願の大聖堂の大改修の目途もついたというものです……」
(老人たちはどうしてこうも話が長いのだ? 一体この会議はいつ終わるんだ!?
一刻も早くジュールを迎えにいかなければならないというのに!!)
「というわけで、聖騎士殿、いかがでしょう、一度、国外の……」
「お断りします!」
テオドールの声に、しんと場が静まり返った。
「聖騎士、今まではあなたの最愛の事情で、様々なことに目をつぶってきました。
本来なら許されない職務違反も、見過ごしてきたつもりです。
しかし、貴方も最愛と無事婚儀をあげ、状況はすっかり落ち着いたのではありませんか?
今後は、もっと聖騎士としての自覚を持って……」
司教の紫色の瞳を、テオドールは見返した。
「司教、私はそもそも、私の最愛とともに生きるために聖騎士になったのです。
聖騎士の任務が、私の最愛との時間を割くものであるというなら、それは本末転倒ではありませんか?
以前も申しました通り、私の働きが不十分であるというのなら、私はいつでも聖騎士の職を辞するつもりです」
「まあまあ、聖騎士殿、そんなことをおっしゃらずに!」
「そうですよ、司教! 聖騎士殿はよくやっておられます! この前も、ずっと北の洞窟にはびこって被害が拡大していたグーロの群れを、闇魔法で一網打尽に!」
「聖騎士殿のおかげで、この長きにわたって廃れていた聖教会は持ち直したのではありませんか!
聖騎士殿はいわば聖教会の救世主ですぞ!」
「聖騎士団の人気もたいしたものです! おかげ様で、どこへいっても聖教会の催しは人でごった返しておりますよ!」
「今となっては聖騎士あっての聖教会なのです! 聖騎士殿、我々のためにもどうか、どうか!」
司祭たちが、一斉に騒ぎ出す。
――結局、なんの進展もないまま、会議は終了した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「聖騎士、少し話をしましょうか」
司祭の言葉に、退出しようとしていたテオドールは足を止めた。
「お急ぎでしょうか?」
「急ぎではありませんが、今、貴方は私の言葉を耳に入れておくべきだと思います。
とくに、貴方の最愛との関係においては……」
ジュールのことを話に出されては、テオドールとしても聞かないわけにはいかなかった。
「聖騎士、貴方は今、貴方の最愛を鳥籠の中に閉じ込めてしまっていますね……」
向かい合った席に座る、白いローブの司教。
その役職からも、それなりの年齢の女性のはずなのだが、神秘的な紫色の髪とつるりとした頬からは、その実年齢を推し量ることができない。
「それは誤解です。私は彼を閉じ込めなどしていません。彼は自由に外出もできますし、見張りすらもつけてもおりません」
「精神的な鎖も、十分な足かせとなります」
「……」
テオドールは歯がゆかった。
なぜ誰もかれもが、自分のジュールに対する真の想いを理解しようとしないのだろうか。
誰よりも愛しいジュールを守ろうとするテオドールの想いは、なぜ周りに正しく伝わらないのだろうか。
「聖騎士、私はあなたのお義父様から連絡をもらったのです」
「義父から……」
「貴方のことを、大変心配されていらっしゃいました。
聖騎士、貴方の生い立ちは複雑で、また貴方が最愛と結ばれる過程も大変困難に満ちたものだっと聞き及んでおります。
だがら、貴方があなたの最愛を片時も離したくないという思いは、十分に理解できます。
ですが……」
「理解など、できない……っ」
テオドールの言葉に、司祭ははっとして口をつぐんだ。
「理解など、できるわけがないっ! 俺が、どれほど狂おしく叔父様を愛しているか。どんな気持ちで聖騎士になる道を選んだのか!
誰にも、決して!」
「聖騎士、お聞きなさい」
司祭の凛とした声が響く。
「あなたの本質を変えることは、おそらく神の手をもってしても不可能でしょう。
ですが……」
司祭は、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。
「行動を変えることはできます。
行動を変えれば、貴方の最愛も、安心してあなたに愛を示すことができるでしょう」
「ですが……っ」
テオドールは拳を握り締めた。
「司祭は、私の最愛を大空に解き放てとおっしゃるのですか?
やっと捕まえた大切な私の最愛を!」
テオドールの言葉に、司祭は首を振る。
「いいえ、私はそんなことを言っているのではありません。
鳥籠に入れられた鳥は、空を飛べないことを不満に思うでしょう。ですが……」
紫色の瞳が、不思議な光を帯びる。
「もしその鳥籠が、それと気づかないくらい、広く、大きいものだったらどうでしょう?
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