【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

.mizutama.

文字の大きさ
上 下
153 / 165
【番外編】

聖騎士テオドールの華麗なる一日 その3

しおりを挟む
 テオドールはイラついていた。

「最近では、国外からも聖騎士の活躍を一目見たいと、魔獣討伐の依頼も増えておりまして……」

「隣国の国王からの大口の寄附がありましたので、一度聖教会でもてなす必要もありまして、その際聖騎士にもぜひ出席を……」

「聖騎士のおかげで、シャルロット殿下をはじめ、国内からの寄附も相当なものになりました。
これで念願の大聖堂の大改修の目途もついたというものです……」


(老人たちはどうしてこうも話が長いのだ? 一体この会議はいつ終わるんだ!?
一刻も早くジュールを迎えにいかなければならないというのに!!)


「というわけで、聖騎士殿、いかがでしょう、一度、国外の……」

「お断りします!」

 テオドールの声に、しんと場が静まり返った。

「聖騎士、今まではあなたの最愛の事情で、様々なことに目をつぶってきました。
本来なら許されない職務違反も、見過ごしてきたつもりです。
しかし、貴方も最愛と無事婚儀をあげ、状況はすっかり落ち着いたのではありませんか?
今後は、もっと聖騎士としての自覚を持って……」

 司教の紫色の瞳を、テオドールは見返した。

「司教、私はそもそも、私の最愛とともに生きるために聖騎士になったのです。
聖騎士の任務が、私の最愛との時間を割くものであるというなら、それは本末転倒ではありませんか?
以前も申しました通り、私の働きが不十分であるというのなら、私はいつでも聖騎士の職を辞するつもりです」

「まあまあ、聖騎士殿、そんなことをおっしゃらずに!」

「そうですよ、司教! 聖騎士殿はよくやっておられます! この前も、ずっと北の洞窟にはびこって被害が拡大していたグーロの群れを、闇魔法で一網打尽に!」

「聖騎士殿のおかげで、この長きにわたって廃れていた聖教会は持ち直したのではありませんか!
聖騎士殿はいわば聖教会の救世主ですぞ!」

「聖騎士団の人気もたいしたものです! おかげ様で、どこへいっても聖教会の催しは人でごった返しておりますよ!」

「今となっては聖騎士あっての聖教会なのです! 聖騎士殿、我々のためにもどうか、どうか!」

 司祭たちが、一斉に騒ぎ出す。


 ――結局、なんの進展もないまま、会議は終了した。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「聖騎士、少し話をしましょうか」

 司祭の言葉に、退出しようとしていたテオドールは足を止めた。

「お急ぎでしょうか?」

「急ぎではありませんが、今、貴方は私の言葉を耳に入れておくべきだと思います。
とくに、貴方の最愛との関係においては……」

 ジュールのことを話に出されては、テオドールとしても聞かないわけにはいかなかった。


「聖騎士、貴方は今、貴方の最愛を鳥籠の中に閉じ込めてしまっていますね……」

 向かい合った席に座る、白いローブの司教。
 その役職からも、それなりの年齢の女性のはずなのだが、神秘的な紫色の髪とつるりとした頬からは、その実年齢を推し量ることができない。

「それは誤解です。私は彼を閉じ込めなどしていません。彼は自由に外出もできますし、見張りすらもつけてもおりません」

「精神的な鎖も、十分な足かせとなります」

「……」

 テオドールは歯がゆかった。
 なぜ誰もかれもが、自分のジュールに対する真の想いを理解しようとしないのだろうか。
 誰よりも愛しいジュールを守ろうとするテオドールの想いは、なぜ周りに正しく伝わらないのだろうか。


「聖騎士、私はあなたのお義父とう様から連絡をもらったのです」

義父ちちから……」

「貴方のことを、大変心配されていらっしゃいました。
聖騎士、貴方の生い立ちは複雑で、また貴方が最愛と結ばれる過程も大変困難に満ちたものだっと聞き及んでおります。
だがら、貴方があなたの最愛を片時も離したくないという思いは、十分に理解できます。
ですが……」

「理解など、できない……っ」

 テオドールの言葉に、司祭ははっとして口をつぐんだ。

「理解など、できるわけがないっ! 俺が、どれほど狂おしく叔父様を愛しているか。どんな気持ちで聖騎士になる道を選んだのか!
誰にも、決して!」

「聖騎士、お聞きなさい」

 司祭の凛とした声が響く。

「あなたの本質を変えることは、おそらく神の手をもってしても不可能でしょう。
ですが……」

 司祭は、慈愛に満ちた笑みを浮かべていた。

「行動を変えることはできます。
行動を変えれば、貴方の最愛も、安心してあなたに愛を示すことができるでしょう」

「ですが……っ」

 テオドールは拳を握り締めた。

「司祭は、私の最愛を大空に解き放てとおっしゃるのですか?
やっと捕まえた大切な私の最愛を!」

 テオドールの言葉に、司祭は首を振る。

「いいえ、私はそんなことを言っているのではありません。
鳥籠に入れられた鳥は、空を飛べないことを不満に思うでしょう。ですが……」

 紫色の瞳が、不思議な光を帯びる。

「もしその鳥籠が、それと気づかないくらい、広く、大きいものだったらどうでしょう?
あなたの最愛は、貴方の大きな掌のなかで、自由に羽ばたくことができるのです」




しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)

ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。 僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。 隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。 僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。 でも、実はこれには訳がある。 知らないのは、アイルだけ………。 さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

処理中です...