136 / 165
第136話 闇の属性
しおりを挟む
「なん、だと……!」
マリユスは、野獣のような唸り声をあげた。
いままでずっと余裕綽々といった態度を崩さなかったマリユスだったが、今となってはもう、その全身から沸き起こる怒りを隠そうともしていない。
俺は、テオドールの影響なのか、さきほどまでの身体の拘束はすっかり解かれていた。
「貴方はご存じないかもしれませんが、私はもう『ナイム』ではありません。
私はテオドールです」
テオドールは俺をその背に隠すように、マリユスの前に立ちはだかった。
「せっかく俺が付けた名を捨てたとは! お前をアルボン家に託したのはやはり間違いだったな!」
「私がなぜ『ナイム』の名を捨てることになったか、そのことを話せば、私がなぜあの拘束をいとも簡単に解くことができたのか、あなたにもきっとお分かりになることでしょう」
テオドールは片手を上げる。その手のひらの上には、黒い魔力の珠が集められていた。
「テオ!?」
「お前っ、魔力がっ!」
――テオドールは、魔法はほとんど使えないはずだ。それなのに……!
大きくなった魔力の珠をのせたまま、テオドールがすっと手のひらをマリユスに向ける。
それと同時に、大きな爆発音がマリユスの背後でした。
マリユスに当たっていればほぼ即死だっただろう。
「……闇魔法、なのかっ! 貴様っ……、どうしてっ!」
マリユスは歯ぎしりする。
「私が闇の魔力に目覚めたのは5歳の時。ご存知の通り、強大な威力を持つ闇魔法は使いこなすことが困難なため、魔法の中でも禁忌とされています。
アルボン家はそのことを知ったすぐに、俺を聖教会へ預け、魔力を封印しました。
その際テオドールと名を改め、それ以降、私はほとんど魔力を持たぬものとして生活していました。ですが……」
テオドールはさきほどまで魔力を集めていた手のひらを、じっくりと眺めた。
「聖騎士になる試練の際、私はドラゴンから深手を負い、一時瀕死の状態となりました。
その際、封印された闇の魔力が再び目覚め、私はドラゴンを倒すことができたのです……」
俺はナイムの背中にあった深い爪痕を思い出していた。
あれはドラゴンにつけられた、テオドールの背中の傷だったのだ……。
――ナイムは、テオドールだった……。
「あなたの血筋は確実に私に受け継がれていますよ。これでご満足ですか? お父様……」
テオドールは冷徹ともいえる眼差しを、マリユスに向ける。
「貴様っ、どれだけ俺を愚弄する気だ……。テオドール、お前が魔力を使えるというのなら、俺も遠慮はいらないな。
どれ、お前の実力を、父親の俺が確かめてやろう!」
マリユスは両手を天に掲げると、詠唱を始める。
ものすごい魔力の渦が、マリユスの頭上に広がっていく。
「おもしろい! 私自身も闇の魔力の力はすべて試したことがないのです。
お父様、ここで帳を下ろしてしまったことを、あとで後悔しても知りませんよ……」
テオドールの瞳が一瞬だけ赤く光った。
同時にマリユスが作った魔力の渦よりずっと大きな黒い空間が、ぽっかりとそこに現れた。
「冥界へと通じる経路を開きました。
ここに囚われたが最後、死ぬこともできず、永遠に冥界をさまよう影となるのです。
あなたに、その覚悟がありますか……?」
「そんな与太話は、俺の攻撃をかわしてからにしろッ!」
マリユスが両手を振り下ろす。
が、しかし、その暴風の渦は、テオドールが作った闇の空間にたやすく吸い込まれてしまった。
「……っ!!」
「叔父様のおっしゃる通り、私も到底あなたを許すことはできません!
永遠に冥界の影となり、さまよい続けるがいい! それがあなたのような下種にはふさわしい道だ!」
テオドールは、両手を合わせると目を閉じ、その魔力をすべて闇の空間へと注ぎ込む。
その闇の空間はテオドールに呼応するように、どんどんと膨れ上がっていった。
「嫌だっ、やめろっ! ジュールっ、助けてくれっ、ジュールっ!」
マリユスの悲痛な叫びに俺は耳を塞ぎたくなる。
「死すらも、お前には贅沢すぎる裁きだ。今までの行いをせいぜい悔いておけ!」
闇の空間がマリユスに迫る。
「テオっ! もうやめろっ!」
俺がテオドールの背中にしがみついたその時、俺たちとマリユスの間に七色の光があらわれた。
「そこまでにしておきなさい。黒の聖騎士……」
マリユスは、野獣のような唸り声をあげた。
いままでずっと余裕綽々といった態度を崩さなかったマリユスだったが、今となってはもう、その全身から沸き起こる怒りを隠そうともしていない。
俺は、テオドールの影響なのか、さきほどまでの身体の拘束はすっかり解かれていた。
「貴方はご存じないかもしれませんが、私はもう『ナイム』ではありません。
私はテオドールです」
テオドールは俺をその背に隠すように、マリユスの前に立ちはだかった。
「せっかく俺が付けた名を捨てたとは! お前をアルボン家に託したのはやはり間違いだったな!」
「私がなぜ『ナイム』の名を捨てることになったか、そのことを話せば、私がなぜあの拘束をいとも簡単に解くことができたのか、あなたにもきっとお分かりになることでしょう」
テオドールは片手を上げる。その手のひらの上には、黒い魔力の珠が集められていた。
「テオ!?」
「お前っ、魔力がっ!」
――テオドールは、魔法はほとんど使えないはずだ。それなのに……!
大きくなった魔力の珠をのせたまま、テオドールがすっと手のひらをマリユスに向ける。
それと同時に、大きな爆発音がマリユスの背後でした。
マリユスに当たっていればほぼ即死だっただろう。
「……闇魔法、なのかっ! 貴様っ……、どうしてっ!」
マリユスは歯ぎしりする。
「私が闇の魔力に目覚めたのは5歳の時。ご存知の通り、強大な威力を持つ闇魔法は使いこなすことが困難なため、魔法の中でも禁忌とされています。
アルボン家はそのことを知ったすぐに、俺を聖教会へ預け、魔力を封印しました。
その際テオドールと名を改め、それ以降、私はほとんど魔力を持たぬものとして生活していました。ですが……」
テオドールはさきほどまで魔力を集めていた手のひらを、じっくりと眺めた。
「聖騎士になる試練の際、私はドラゴンから深手を負い、一時瀕死の状態となりました。
その際、封印された闇の魔力が再び目覚め、私はドラゴンを倒すことができたのです……」
俺はナイムの背中にあった深い爪痕を思い出していた。
あれはドラゴンにつけられた、テオドールの背中の傷だったのだ……。
――ナイムは、テオドールだった……。
「あなたの血筋は確実に私に受け継がれていますよ。これでご満足ですか? お父様……」
テオドールは冷徹ともいえる眼差しを、マリユスに向ける。
「貴様っ、どれだけ俺を愚弄する気だ……。テオドール、お前が魔力を使えるというのなら、俺も遠慮はいらないな。
どれ、お前の実力を、父親の俺が確かめてやろう!」
マリユスは両手を天に掲げると、詠唱を始める。
ものすごい魔力の渦が、マリユスの頭上に広がっていく。
「おもしろい! 私自身も闇の魔力の力はすべて試したことがないのです。
お父様、ここで帳を下ろしてしまったことを、あとで後悔しても知りませんよ……」
テオドールの瞳が一瞬だけ赤く光った。
同時にマリユスが作った魔力の渦よりずっと大きな黒い空間が、ぽっかりとそこに現れた。
「冥界へと通じる経路を開きました。
ここに囚われたが最後、死ぬこともできず、永遠に冥界をさまよう影となるのです。
あなたに、その覚悟がありますか……?」
「そんな与太話は、俺の攻撃をかわしてからにしろッ!」
マリユスが両手を振り下ろす。
が、しかし、その暴風の渦は、テオドールが作った闇の空間にたやすく吸い込まれてしまった。
「……っ!!」
「叔父様のおっしゃる通り、私も到底あなたを許すことはできません!
永遠に冥界の影となり、さまよい続けるがいい! それがあなたのような下種にはふさわしい道だ!」
テオドールは、両手を合わせると目を閉じ、その魔力をすべて闇の空間へと注ぎ込む。
その闇の空間はテオドールに呼応するように、どんどんと膨れ上がっていった。
「嫌だっ、やめろっ! ジュールっ、助けてくれっ、ジュールっ!」
マリユスの悲痛な叫びに俺は耳を塞ぎたくなる。
「死すらも、お前には贅沢すぎる裁きだ。今までの行いをせいぜい悔いておけ!」
闇の空間がマリユスに迫る。
「テオっ! もうやめろっ!」
俺がテオドールの背中にしがみついたその時、俺たちとマリユスの間に七色の光があらわれた。
「そこまでにしておきなさい。黒の聖騎士……」
90
お気に入りに追加
1,467
あなたにおすすめの小説
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます
ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜
名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。
愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に…
「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」
美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。
🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶
応援していただいたみなさまのおかげです。
本当にありがとうございました!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

平民男子と騎士団長の行く末
きわ
BL
平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。
ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。
好きだという気持ちを隠したまま。
過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。
第十一回BL大賞参加作品です。

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる