上 下
135 / 165

第135話 負け犬

しおりを挟む
「叔父様っ!」
「ジュールっ!」

 テオドールとマリユスが同時に声を張り上げた。

「ははっ、おかしいだろ。軽蔑しろよ、二人とも!
マリユス、びっくりした? そうだよ。俺は、お前の息子を愛してしまったんだ! 心の底から!
テオドール、ずっと黙っててごめん。俺は、本当はずっと君の気持に応えたかった。
でも……、怖かったんだ。俺なんかじゃ、素晴らしい君にはふさわしくない。そう自分にそう言い聞かせてた……、でも」

 俺は、自嘲した。

「そんなの、所詮綺麗ごとだ。本当は、俺はわかってたんだ。
君の気持ちに応えたところで、若くて有望な君はあっという間に俺に飽きてしまうだろう……、
だから、君の気持ちにあえて応えないことで、俺はずっと君の気を引き続けようという汚い選択をした……」

「叔父様……っ、そんな!」

「笑えるだろ! どれほど俺は自分勝手なんだろうな? しかも、ずっとなんでもないふうを装ってたけど、君がシャルロット殿下と親しくしてるって話を聞くたびに、身体中が焦げそうなほど嫉妬してた! シャルロット殿下のことは尊敬してるけど、ずっと、ずっと邪魔だと思ってた!
君が黒の聖騎士になって、周りからちやほやされているのを見るのも、すごく嫌だ!
国中の女の子たちがみんなテオドールに夢中になってるのを目の当たりにして、俺は……、俺はっ、君が聖騎士なんかにならなければ良かったとさえ思ってた!!」

「ジュール、嘘だろう……、まさか、そんな……」

 あの自信満々だったマリユスが、初めてうろたえた表情をした。


「どうだい? 最低だろう? 俺も自分がここまで虫唾が走るような酷い人間だって思いもしなかったよ!
真実の愛なんて、本当に最低の感情の塊だった! 本当の愛とやらを知って、俺はますます自分のことが嫌いになったよ! だから……、俺はずっと今まで、自分の本当の気持ちを隠してきたんだ。
でも……、もっと早く君に伝えていればよかったね。そうすれば、テオ……、君もそれだけ早く俺への執着が消えたはずなのに……。
ごめんね。君に好かれていたいばかりに、こんなことになってしまった。全部、俺のせいだ……。
マリユスも……、ごめん。俺が不甲斐ないばかりに、大事な一人息子を、こんな目に……」

「やめろっ、そんな話、聞きたくないっ!」

 マリユスが頭を振って、俺につかみかかろうとした。

 だが……、
 

「叔父様、今の話は、全部、本当ですか?」

「え!?」

 突然、目の前にテオドールの顔があった。

 どうして? テオドールはマリユスに拘束されていたはずなのに!


「叔父様、俺を愛しているというのは、本当ですか?」

 テオドールにかけられていた魔力の拘束はなぜかすっかり外れており、俺はテオドールに両肩をつかまれて揺すぶられていた。


「は? え? テオ、どうして?」

「答えてください! 本当の、本当ですかっ!? この場をうまく逃れるための叔父様のウソなどではありませんかっ!?」

「ち、違う! ほ、本当だよ! 俺は、テオのことを、愛してる……んっ!」

 テオドールは強引に俺に唇を重ねてきた。

「俺も、愛していますっ! しかも、今の叔父様の告白を聞いて、ますます叔父様への愛が深まりましたっ!
俺は、今まで生きてきて、これまでにない感動に打ち震えていますっ!」

 テオドールの漆黒の瞳は、キラキラと輝いている。

「は!?」


 ――テオ、人の話、ちゃんと聞いてた……?


「叔父様っ、叔父様が嫌なら俺はいますぐ聖騎士を辞めます! もともと、聖騎士になんて、何の未練もありませんのでお気になさらず!
シャルロット殿下とは、今後一切の交流を断ちますのでご安心を!
また、俺がほかの人間と話したりするのが気に入らないのであれば、俺は叔父様と二人、どこか誰もいないところで暮らしたいと思っておりますが、叔父様はそれでよろしいでしょうかっ!?」

「……え!?」


 ――全然、よろしくない、気が、する……。



「叔父様っ、危ないっ!」

 テオドールが俺を抱きしめ、そのまま飛び上がった。
 マリユスが風魔法で、切り裂くような攻撃を繰り出したのだ。
 見ると闘技場の床は、斬撃で切り裂かれたようになっていた。


「おいおい、どうやって魔法の使えないお前がこの拘束を解いたんだ?
説明してもらおうか、……ナイム!」

 マリユスが憎悪に満ちた瞳をこちらに向けている。


「ナイム……?」

 俺はテオドールを見上げた。
 ――なぜ、テオドールがその名で呼ばれているのだ?


 テオドールは少し離れた場所に着地して俺をおろすと、マリユスに向かって微笑んで見せた。


「ああ、申し訳ありません。叔父様からの愛の告白を受けて、すっかり舞い上がってしまって忘れてしまっていました。
ーーもはや負け犬でいらっしゃるお父様のことなど……」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂わせたのは君なのに

白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。 完結保証 番外編あり

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

キミと2回目の恋をしよう

なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。 彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。 彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。 「どこかに旅行だったの?」 傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。 彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。 彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが… 彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

処理中です...