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第133話 不倶戴天
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「ふざけるなっ! 貴様っ、この神聖な御前試合を何だと思っているんだっ!」
テオドールが剣を構えてマリユスに向き直った。
「へえ。神聖な……、ね。聖騎士殿、君はこの試合で優勝したら何を望むつもりだったのかな?
まあ、俺にかなうはずもない君の願いが、聞き届けられることなど決してないのだけどね」
その美しい唇をゆがめると、マリユスはその手にまた魔力を集め始める。
テオドールはマリユスに切りかかろうと隙を伺うが、その魔力での護りは驚くほど強固で、テオドールはじりじりと間合いを詰めることしかできない。
「俺はここで優勝して、俺自身ーーマリユス・ロルジュの恩赦を国王に願うつもりだ。もちろんフィリップ・ヴェルジーとしてね。
そうすれば晴れて自由の身、だ。ジュールを連れて、俺はどこへでも行くことができる」
マリユスの手のひらから、鞭のような細長い物体があらわれる、それは光ったかと思うとあっという間にテオドールの身体にぐるぐると巻き付いて、その自由を奪った。
「……っ!! 貴様などに、叔父様を渡すものかっ!」
テオドールが叫ぶが、その身体を動かすごとに、その拘束は強くなり、ついにテオドールは身動きすらできなくなってしまった。
「ああ、君は俺の血を分けたたった一人の息子だというのに、なぜ俺のこの偉大な魔力を引き継ぐことができなかったんだろうね?
俺は昔から、泥臭い騎士は大嫌いなんだ。剣を振り回すだけが取り柄の、野蛮な人種だ。君が騎士になんてなってしまって、俺はとても悲しいよ」
「貴様のような人間に、いったい何がわかる!」
マリユスは肩をすくめてみせた。
「つらいねえ。そんな目で俺を見ないでくれよ。俺の親心がわからないのかい?
こうやって結界を張って帳をおろして、君のみっともない姿を観客からは見えないようにしてあげているんだ。
国の宝とうたわれる聖騎士様が、怪しげな魔法使いに無様に破れるところなんて、見られたくなんてないだろう?
きっと王様も、国民も心底落胆してしまうだろう。そんなのかわいそうじゃないか。俺は、優しいから、たった一人の可愛い息子をそんな目には遭わせたりしたくないんだ」
「マリユス、お前は……っ、何がしたいんだ?
なぜこの試合に参加したっ? 今までいったい、どこにいたんだ?」
結界のぎりぎりのところに立ち、マリユスと距離を保った俺は叫んだ。
「ジュール。言っただろう? 君を迎えに来たんだ。
今まで寂しい思いをさせて悪かったね。だが、さすがに国のお尋ね者になってしまったから、こんなに時間がかかってしまったんだよ。
俺のことを心配してくれていたのかな? 俺は大丈夫だよ。この魔力と風魔法があればどこでだって通用するんだ。まあ、王立研究所での実績は国外でもすごく役立ったけどね。魔道具の開発なんて、どの国も喉から手が出るほど欲しい情報ばかりだからさ。
……それにしてもこの国の人間は、相変わらず人を疑うことを知らないお人よしばかりだね。だから助かったよ。今、国外にいるフィリップの名前を借りて出場登録をしてもほとんど怪しまれたりしなかった。
まあちょっと疑念を抱くヤツはいたけど、それは魔法で簡単に口を封じることができたしね。
この剣術試合は実にエキサイティングな催しだね! まるで俺のために開かれたようなものじゃないか!
運命を感じるよ! やはり、俺と君は……」
「黙れっ! ペラペラと、この外道がっ!!
叔父様、そいつと話をしないで! その男は口の上手い悪魔と同じですっ!」
拘束されたテオドールがもがく。
「テオ……っ」
「おい、俺はジュールと話をしているんだ。お子様の出る幕じゃない! お前はしばらく黙っていろ」
マリユスはその手のひらをテオドールに向けると、強い光をほとばしらせた。
「ぐっ、あっ……!」
衝撃を受け、テオドールは血反吐を吐いた。
「テオッ!!」
「大丈夫だよ。ジュール、死にやしない。ちょっと静かにさせただけだ。どうやら、見たところこの聖騎士殿もジュールに夢中らしいね。
まったく、父親の恋人に横恋慕なんて、聖騎士が聞いてあきれるよ!
それに聖騎士というから、どれほどのものかと思ったら……。所詮、魔法の前に、剣なんて無力なものだよ。
……ねえ、ジュールもそう思うだろ?」
マリユスは微笑みを浮かべながら、俺にむかってゆっくりと歩いてきた。
「来るなっ!」
俺は後ずさるが、結界の外には出られるはずもない。
「ジュール。わかってるよ。ずっと俺を待っていてくれたんだね。
俺も、ずっと、会いたかったよ」
テオドールが剣を構えてマリユスに向き直った。
「へえ。神聖な……、ね。聖騎士殿、君はこの試合で優勝したら何を望むつもりだったのかな?
まあ、俺にかなうはずもない君の願いが、聞き届けられることなど決してないのだけどね」
その美しい唇をゆがめると、マリユスはその手にまた魔力を集め始める。
テオドールはマリユスに切りかかろうと隙を伺うが、その魔力での護りは驚くほど強固で、テオドールはじりじりと間合いを詰めることしかできない。
「俺はここで優勝して、俺自身ーーマリユス・ロルジュの恩赦を国王に願うつもりだ。もちろんフィリップ・ヴェルジーとしてね。
そうすれば晴れて自由の身、だ。ジュールを連れて、俺はどこへでも行くことができる」
マリユスの手のひらから、鞭のような細長い物体があらわれる、それは光ったかと思うとあっという間にテオドールの身体にぐるぐると巻き付いて、その自由を奪った。
「……っ!! 貴様などに、叔父様を渡すものかっ!」
テオドールが叫ぶが、その身体を動かすごとに、その拘束は強くなり、ついにテオドールは身動きすらできなくなってしまった。
「ああ、君は俺の血を分けたたった一人の息子だというのに、なぜ俺のこの偉大な魔力を引き継ぐことができなかったんだろうね?
俺は昔から、泥臭い騎士は大嫌いなんだ。剣を振り回すだけが取り柄の、野蛮な人種だ。君が騎士になんてなってしまって、俺はとても悲しいよ」
「貴様のような人間に、いったい何がわかる!」
マリユスは肩をすくめてみせた。
「つらいねえ。そんな目で俺を見ないでくれよ。俺の親心がわからないのかい?
こうやって結界を張って帳をおろして、君のみっともない姿を観客からは見えないようにしてあげているんだ。
国の宝とうたわれる聖騎士様が、怪しげな魔法使いに無様に破れるところなんて、見られたくなんてないだろう?
きっと王様も、国民も心底落胆してしまうだろう。そんなのかわいそうじゃないか。俺は、優しいから、たった一人の可愛い息子をそんな目には遭わせたりしたくないんだ」
「マリユス、お前は……っ、何がしたいんだ?
なぜこの試合に参加したっ? 今までいったい、どこにいたんだ?」
結界のぎりぎりのところに立ち、マリユスと距離を保った俺は叫んだ。
「ジュール。言っただろう? 君を迎えに来たんだ。
今まで寂しい思いをさせて悪かったね。だが、さすがに国のお尋ね者になってしまったから、こんなに時間がかかってしまったんだよ。
俺のことを心配してくれていたのかな? 俺は大丈夫だよ。この魔力と風魔法があればどこでだって通用するんだ。まあ、王立研究所での実績は国外でもすごく役立ったけどね。魔道具の開発なんて、どの国も喉から手が出るほど欲しい情報ばかりだからさ。
……それにしてもこの国の人間は、相変わらず人を疑うことを知らないお人よしばかりだね。だから助かったよ。今、国外にいるフィリップの名前を借りて出場登録をしてもほとんど怪しまれたりしなかった。
まあちょっと疑念を抱くヤツはいたけど、それは魔法で簡単に口を封じることができたしね。
この剣術試合は実にエキサイティングな催しだね! まるで俺のために開かれたようなものじゃないか!
運命を感じるよ! やはり、俺と君は……」
「黙れっ! ペラペラと、この外道がっ!!
叔父様、そいつと話をしないで! その男は口の上手い悪魔と同じですっ!」
拘束されたテオドールがもがく。
「テオ……っ」
「おい、俺はジュールと話をしているんだ。お子様の出る幕じゃない! お前はしばらく黙っていろ」
マリユスはその手のひらをテオドールに向けると、強い光をほとばしらせた。
「ぐっ、あっ……!」
衝撃を受け、テオドールは血反吐を吐いた。
「テオッ!!」
「大丈夫だよ。ジュール、死にやしない。ちょっと静かにさせただけだ。どうやら、見たところこの聖騎士殿もジュールに夢中らしいね。
まったく、父親の恋人に横恋慕なんて、聖騎士が聞いてあきれるよ!
それに聖騎士というから、どれほどのものかと思ったら……。所詮、魔法の前に、剣なんて無力なものだよ。
……ねえ、ジュールもそう思うだろ?」
マリユスは微笑みを浮かべながら、俺にむかってゆっくりと歩いてきた。
「来るなっ!」
俺は後ずさるが、結界の外には出られるはずもない。
「ジュール。わかってるよ。ずっと俺を待っていてくれたんだね。
俺も、ずっと、会いたかったよ」
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