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第130話 捲土重来
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そうこうしているうちに、テオドールの次の試合が始まった。
相手はその制服から、現役の騎士団員であることがわかる。
開始の合図とともに、お互いに長剣を引き抜いた二人。
二人とも手にしているのは魔剣ではないため、純粋な剣技のみの戦いとなるのだろう。
「さすがは聖騎士様と騎士団員だ。やはり、剣一本で戦うというのが本来の騎士としての姿だよ。
まったく、先程の試合はいったいなんだ! 剣を一回も合わさずに魔法だけで戦いを終えるだなんて、剣術大会の本来の意味を履き違えておる!」
まるで俺の父親が言うようなセリフに、思わず俺は振り返った。もちろんそこにいたのは俺の父親などではなく、父親とほぼ同年代の恰幅のいい貴族の男だった。
こうして周りを見てみると、テオドールのファンというのは女性たちばかりでなく、意外にも俺の父親の年代くらいの壮年の男性が多いことに気付かされる。
テオドールに強い憧れを感じ、若い頃の自分のやり残した何かを重ねているのだろうか?
それとも、理想の息子としてテオドールを身近に感じている?
それにしても、テオドールへの声援はすさまじいものだった。観客のほとんどがテオドールを応援しているのではないかと思うほどだ。
だが、ここまで勝ち上がってきただけあり、相手の騎士団員もなかなかの剣の使い手のようだった。
長剣がぶつかり合う甲高い音が、闘技場に響き渡る。
「本当に、聖騎士様は我が国の誇りであるな!」
「黒の聖騎士がいるかぎり、この国は安泰ですよ!」
「あんな素晴らしい方を世に出されたダンデス伯爵はさぞかし鼻が高いだろうな!」
「ダンデス家の爵位が上がるという噂もありますわ!」
どこからともなく聞こえてくるテオドールへの賞賛の嵐!
やがて、テオドールは騎士団員の一瞬のすきをついて、鋭い一撃を繰り出した。
観客が息を呑む中、騎士団員の男の長剣は無情にも弾き飛ばされ、衝撃で闘技場の場外の石畳に突き刺さってしまった。
すぐさま剣を下ろしたテオドールに、騎士団員は片膝をついた。
「参りました」
テオドールは長剣をしまうと、騎士団員へ手を差し出した。
「手合わせありがとうございました。有意義な一戦となりました」
「こちらこそ、聖騎士様のお相手を務めさせていただきいただき光栄です」
立ち上がり、二人が固い握手を交わす。
そんな様子を見守っていた俺は、年甲斐もなく涙ぐんでいた。
ーーテオドール、なんて立派な聖騎士になったんだ!
周りの人々も、惜しみない拍手を二人に送っている。
「素晴らしい試合だ!」
「これぞ、騎士の模範だ」
「黒の聖騎士、万歳!!」
二人の退場が終わっても、場内にはしばらくずっと拍手は鳴り止まなかった。
俺は感動を噛み締めていた。
この6年、本当にいろいろなことがあった。
でも、俺はついにやりとげたんだ!
俺はテオドールを立派に育て上げた!
誰からも尊敬され、愛される男に!!
テオドールこそ、王女の結婚相手にふさわしい!!
テオドールへのあふれる賛美のなか、俺はそっと涙を拭う。
そして……、
そんな俺の前に、白い綺麗なハンカチが差し出された。
「あ……、どうも……」
顔を上げた俺の前に、楽しげな男の顔があった。
「マリユス!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「貴様っ! 叔父様からその汚い手を離せっ!!」
「テオ!」
テオドールはマリユスから俺を引き離し、その前に立ちはだかった。
「テオ……? ああ、黒の聖騎士殿か……。
ここのところ、この国は君の話題で持ちきりだね」
マリユスはその深緑の瞳を細めてテオドールを眺めた。
「何の用だ? どうしてここに戻ってきた?」
テオドールは全身から怒りのオーラを発しているようだった。
「用? そんなの……、決まってるだろ。
愛するジュールを迎えに来た。それだけだよ」
相変わらず人を食ったようなセリフに、俺はカッとなった。
「何が、迎えに来た、だ! アンタのせいで、俺は……っ!」
「お前に……、お前なんかに……、叔父様は絶対に渡さないっ……!」
低く唸るように言うと、テオドールは腰の長剣に手をかけた。
俺たちの騒ぎに、遠巻きにしていた人たちから悲鳴が上がる。
「テオ、やめろ!」
「そうだよ、聖騎士殿。こんなところで殺生沙汰は良くない。
一般の方々にもご迷惑がかかってしまうからね」
飄々とした表情で告げると、マリユスはその優美な深緑色の上着から何かを取り出した。
「それに、あいにく俺も追われている身だ。あまりここに長居はできないんだ。
ごめんね、ジュール。後でゆっくりこれからのことを話そう。
では聖騎士殿、また後ほど。
君の顔が屈辱に歪むのを見るのが、今から待ちきれないよ!」
ニヤリと笑うと、マリユスは取り出した小さな玉を指で弾いて空中に放った。
「……っ!!」
ポン、と小さな音が弾けて、それと同時にマリユスの姿はその場から忽然と消えた。
相手はその制服から、現役の騎士団員であることがわかる。
開始の合図とともに、お互いに長剣を引き抜いた二人。
二人とも手にしているのは魔剣ではないため、純粋な剣技のみの戦いとなるのだろう。
「さすがは聖騎士様と騎士団員だ。やはり、剣一本で戦うというのが本来の騎士としての姿だよ。
まったく、先程の試合はいったいなんだ! 剣を一回も合わさずに魔法だけで戦いを終えるだなんて、剣術大会の本来の意味を履き違えておる!」
まるで俺の父親が言うようなセリフに、思わず俺は振り返った。もちろんそこにいたのは俺の父親などではなく、父親とほぼ同年代の恰幅のいい貴族の男だった。
こうして周りを見てみると、テオドールのファンというのは女性たちばかりでなく、意外にも俺の父親の年代くらいの壮年の男性が多いことに気付かされる。
テオドールに強い憧れを感じ、若い頃の自分のやり残した何かを重ねているのだろうか?
それとも、理想の息子としてテオドールを身近に感じている?
それにしても、テオドールへの声援はすさまじいものだった。観客のほとんどがテオドールを応援しているのではないかと思うほどだ。
だが、ここまで勝ち上がってきただけあり、相手の騎士団員もなかなかの剣の使い手のようだった。
長剣がぶつかり合う甲高い音が、闘技場に響き渡る。
「本当に、聖騎士様は我が国の誇りであるな!」
「黒の聖騎士がいるかぎり、この国は安泰ですよ!」
「あんな素晴らしい方を世に出されたダンデス伯爵はさぞかし鼻が高いだろうな!」
「ダンデス家の爵位が上がるという噂もありますわ!」
どこからともなく聞こえてくるテオドールへの賞賛の嵐!
やがて、テオドールは騎士団員の一瞬のすきをついて、鋭い一撃を繰り出した。
観客が息を呑む中、騎士団員の男の長剣は無情にも弾き飛ばされ、衝撃で闘技場の場外の石畳に突き刺さってしまった。
すぐさま剣を下ろしたテオドールに、騎士団員は片膝をついた。
「参りました」
テオドールは長剣をしまうと、騎士団員へ手を差し出した。
「手合わせありがとうございました。有意義な一戦となりました」
「こちらこそ、聖騎士様のお相手を務めさせていただきいただき光栄です」
立ち上がり、二人が固い握手を交わす。
そんな様子を見守っていた俺は、年甲斐もなく涙ぐんでいた。
ーーテオドール、なんて立派な聖騎士になったんだ!
周りの人々も、惜しみない拍手を二人に送っている。
「素晴らしい試合だ!」
「これぞ、騎士の模範だ」
「黒の聖騎士、万歳!!」
二人の退場が終わっても、場内にはしばらくずっと拍手は鳴り止まなかった。
俺は感動を噛み締めていた。
この6年、本当にいろいろなことがあった。
でも、俺はついにやりとげたんだ!
俺はテオドールを立派に育て上げた!
誰からも尊敬され、愛される男に!!
テオドールこそ、王女の結婚相手にふさわしい!!
テオドールへのあふれる賛美のなか、俺はそっと涙を拭う。
そして……、
そんな俺の前に、白い綺麗なハンカチが差し出された。
「あ……、どうも……」
顔を上げた俺の前に、楽しげな男の顔があった。
「マリユス!!!!」
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「貴様っ! 叔父様からその汚い手を離せっ!!」
「テオ!」
テオドールはマリユスから俺を引き離し、その前に立ちはだかった。
「テオ……? ああ、黒の聖騎士殿か……。
ここのところ、この国は君の話題で持ちきりだね」
マリユスはその深緑の瞳を細めてテオドールを眺めた。
「何の用だ? どうしてここに戻ってきた?」
テオドールは全身から怒りのオーラを発しているようだった。
「用? そんなの……、決まってるだろ。
愛するジュールを迎えに来た。それだけだよ」
相変わらず人を食ったようなセリフに、俺はカッとなった。
「何が、迎えに来た、だ! アンタのせいで、俺は……っ!」
「お前に……、お前なんかに……、叔父様は絶対に渡さないっ……!」
低く唸るように言うと、テオドールは腰の長剣に手をかけた。
俺たちの騒ぎに、遠巻きにしていた人たちから悲鳴が上がる。
「テオ、やめろ!」
「そうだよ、聖騎士殿。こんなところで殺生沙汰は良くない。
一般の方々にもご迷惑がかかってしまうからね」
飄々とした表情で告げると、マリユスはその優美な深緑色の上着から何かを取り出した。
「それに、あいにく俺も追われている身だ。あまりここに長居はできないんだ。
ごめんね、ジュール。後でゆっくりこれからのことを話そう。
では聖騎士殿、また後ほど。
君の顔が屈辱に歪むのを見るのが、今から待ちきれないよ!」
ニヤリと笑うと、マリユスは取り出した小さな玉を指で弾いて空中に放った。
「……っ!!」
ポン、と小さな音が弾けて、それと同時にマリユスの姿はその場から忽然と消えた。
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