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第128話 御前試合
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あっという間に月日は過ぎた。
数か月に及ぶ、お父様の「教育」という名のしごきにより、俺も少しは次期伯爵らしくなった……気がする。
あれから、ナイムとも何回か逢ったが、逢う度にナイムの表情がどんどん暗くなっていくのが俺は気になっていた。
彼のつらい恋の状況がずっと続いているのだろうか?
そして、俺とテオドールといえば、表面的には二人とも何事もなく穏やかに過ごしていた。
といっても、聖騎士として忙しいテオドールとは、夕食の席で少し話をするくらいのことしかできないのだが……。
――そして、当然のごとく運命の日はやってきた!
「ジュール、準備はできたのかっ!?」
まるでこれから向かうのは、自分の晴れ舞台だといわんばかりの父親が、俺を玄関ホールで急かす。隣に立つ母親もいつになくめかしこんでいる。
「はい! 今すぐ!」
「まったく、そんなにぐずぐずして、今日という日がどれほど大切かということがわかっているのか? そもそもお前は……」
「早く行きましょうよ! 試合がはじまっちゃうわ!」
これまた気合の入ったドレスのシャンタルが、今まさに始まろうとする父親の説教をさえぎってくれた。
「せっかくテオドールが一番いい席を用意してくれたのだからな! 家族一同でテオドールの優勝を祝おう!」
試合が始まってもいないのに、もうすでに優勝したような気分になっている父親。まあ、これから行われる御前試合はテオドールのために開かれているといっても過言ではないので、あながち間違いではない。
もし万が一、テオドールが優勝を逃すようなことがあっては、それこそ一大事だ!!
俺はといえば、父親のハイテンションに比べて、気分はどんどん泥の底に沈み込んでいくようだった。
――今日、テオドールとシャルロット殿下の婚約が決定する。
俺は、どんな顔をしてテオドールを祝えばいいのだろうか。テオドールはシャルロット殿下との結婚について、俺になにか遠慮を感じているようだから、それこそ思いっきり喜んでやってテオドールの余計な心配を払拭してやらなければならない。
だが、そんな器用な芝居が俺にできるのだろうか?
そんな俺の不安をよそに、俺たちを乗せた馬車はあっという間に王立学園に到着してしまった。
すでにお祭り騒ぎとなっている会場。学園の生徒や卒業生、保護者、その他関係者たちが闘技場にひしめいている。闘技場観覧席の最上部には貴賓席がすでに設けられていた。ここに、国王陛下、王妃、王女がもうすぐ姿を現すはずだ。
試合はトーナメント制の勝ち抜き戦。参加の条件は、学園の現生徒か卒業生であること。
優勝候補のテオドールに恐れをなしたのか、参加者はそれほど多くないようだ。ほとんどが、セルジュの父親が団長をしている騎士団所属の騎士たちのようだった。彼らは当然、この学園の卒業生でもある。
そしてテオドールの言葉通り、オーバン・ノアイユもエントリーしているようだ。
シャルロット王女とテオドールの結婚を阻止するつもりなのだろうか。とても健気で俺としても応援してやりたいところだが、相手がテオドールでは実力の差は歴然。勝ち目はないことは明らかだった。
王のお出ましとともに、出場者一同が闘技場に勢ぞろいした。当然、「黒の聖騎士」として名を馳せているテオドールは、ひときわ大きな黄色い声援を浴びていた。
今日も黒に錦糸の刺繍が煌めく聖騎士団の制服が、とても美しい。テオドールの周りだけ静謐な空気が満ちているようだった。
だが、観客席から見るテオドールの顔はいつになく強張っていて、その表情はどこか思いつめた様子だった。
――人生を左右する試合が今から始まるのだ。テオドールといえどもやはり緊張するのだろうか?
昨日の夕食の席では「明日は精一杯頑張ります」と言葉少なに語っていたテオドール。
これほどの観客を前に、いざとなると怖くなった……?
俺は、すぐにでもテオドールの側にいって「大丈夫だよ」と背中をさすってやりたい気分だった。だが、もちろんそんなことはできないし、今のテオドールに必要なのは、俺ではなくシャルロット王女なのだろう。
そう考えると俺の胸はズキリと痛んだ。
御前試合はもちろん剣技を競うためにあるのだが、この試合においては魔法の使用も制限されていない。使用する剣に関しても、魔法が繰り出される魔剣の使用も可能だ。
そういった意味では、魔法をほとんど使用しないテオドールは不利であるともいえた。
といっても、ドラゴンをたった一人で倒した「聖騎士」であるテオドールが負けるはずはないのだが……。
大方の予想通り、テオドールは順調に勝ち進んでいた。ほとんどテオドールが剣を抜いた瞬間に勝敗が決まってしまうので、見ている方としては随分とあっけないものだった。
一方、オーバンもその高度な魔法を武器に、次の試合へとコマを進めていった。
……だが、3回戦で対戦した相手が悪かった。
数か月に及ぶ、お父様の「教育」という名のしごきにより、俺も少しは次期伯爵らしくなった……気がする。
あれから、ナイムとも何回か逢ったが、逢う度にナイムの表情がどんどん暗くなっていくのが俺は気になっていた。
彼のつらい恋の状況がずっと続いているのだろうか?
そして、俺とテオドールといえば、表面的には二人とも何事もなく穏やかに過ごしていた。
といっても、聖騎士として忙しいテオドールとは、夕食の席で少し話をするくらいのことしかできないのだが……。
――そして、当然のごとく運命の日はやってきた!
「ジュール、準備はできたのかっ!?」
まるでこれから向かうのは、自分の晴れ舞台だといわんばかりの父親が、俺を玄関ホールで急かす。隣に立つ母親もいつになくめかしこんでいる。
「はい! 今すぐ!」
「まったく、そんなにぐずぐずして、今日という日がどれほど大切かということがわかっているのか? そもそもお前は……」
「早く行きましょうよ! 試合がはじまっちゃうわ!」
これまた気合の入ったドレスのシャンタルが、今まさに始まろうとする父親の説教をさえぎってくれた。
「せっかくテオドールが一番いい席を用意してくれたのだからな! 家族一同でテオドールの優勝を祝おう!」
試合が始まってもいないのに、もうすでに優勝したような気分になっている父親。まあ、これから行われる御前試合はテオドールのために開かれているといっても過言ではないので、あながち間違いではない。
もし万が一、テオドールが優勝を逃すようなことがあっては、それこそ一大事だ!!
俺はといえば、父親のハイテンションに比べて、気分はどんどん泥の底に沈み込んでいくようだった。
――今日、テオドールとシャルロット殿下の婚約が決定する。
俺は、どんな顔をしてテオドールを祝えばいいのだろうか。テオドールはシャルロット殿下との結婚について、俺になにか遠慮を感じているようだから、それこそ思いっきり喜んでやってテオドールの余計な心配を払拭してやらなければならない。
だが、そんな器用な芝居が俺にできるのだろうか?
そんな俺の不安をよそに、俺たちを乗せた馬車はあっという間に王立学園に到着してしまった。
すでにお祭り騒ぎとなっている会場。学園の生徒や卒業生、保護者、その他関係者たちが闘技場にひしめいている。闘技場観覧席の最上部には貴賓席がすでに設けられていた。ここに、国王陛下、王妃、王女がもうすぐ姿を現すはずだ。
試合はトーナメント制の勝ち抜き戦。参加の条件は、学園の現生徒か卒業生であること。
優勝候補のテオドールに恐れをなしたのか、参加者はそれほど多くないようだ。ほとんどが、セルジュの父親が団長をしている騎士団所属の騎士たちのようだった。彼らは当然、この学園の卒業生でもある。
そしてテオドールの言葉通り、オーバン・ノアイユもエントリーしているようだ。
シャルロット王女とテオドールの結婚を阻止するつもりなのだろうか。とても健気で俺としても応援してやりたいところだが、相手がテオドールでは実力の差は歴然。勝ち目はないことは明らかだった。
王のお出ましとともに、出場者一同が闘技場に勢ぞろいした。当然、「黒の聖騎士」として名を馳せているテオドールは、ひときわ大きな黄色い声援を浴びていた。
今日も黒に錦糸の刺繍が煌めく聖騎士団の制服が、とても美しい。テオドールの周りだけ静謐な空気が満ちているようだった。
だが、観客席から見るテオドールの顔はいつになく強張っていて、その表情はどこか思いつめた様子だった。
――人生を左右する試合が今から始まるのだ。テオドールといえどもやはり緊張するのだろうか?
昨日の夕食の席では「明日は精一杯頑張ります」と言葉少なに語っていたテオドール。
これほどの観客を前に、いざとなると怖くなった……?
俺は、すぐにでもテオドールの側にいって「大丈夫だよ」と背中をさすってやりたい気分だった。だが、もちろんそんなことはできないし、今のテオドールに必要なのは、俺ではなくシャルロット王女なのだろう。
そう考えると俺の胸はズキリと痛んだ。
御前試合はもちろん剣技を競うためにあるのだが、この試合においては魔法の使用も制限されていない。使用する剣に関しても、魔法が繰り出される魔剣の使用も可能だ。
そういった意味では、魔法をほとんど使用しないテオドールは不利であるともいえた。
といっても、ドラゴンをたった一人で倒した「聖騎士」であるテオドールが負けるはずはないのだが……。
大方の予想通り、テオドールは順調に勝ち進んでいた。ほとんどテオドールが剣を抜いた瞬間に勝敗が決まってしまうので、見ている方としては随分とあっけないものだった。
一方、オーバンもその高度な魔法を武器に、次の試合へとコマを進めていった。
……だが、3回戦で対戦した相手が悪かった。
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