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第126話 届かぬ想い

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「ナイム……」
 
 俺はナイムの背に手を回した。

「こんな形でも、一度でも想いを遂げれば……、俺のっ、気持ちにも区切りがつくと……、そう思っていたんです。
でも、それどころか、一度貴方の身体のぬくもりを、匂いを知ってしまったら、俺は……っ、もう自分の想いを止めることなどできないっ!
ジュール様っ! 叶うならば、俺は毎日でもあなたの肌に触れたい……! 貴方をずっと感じていたい!!」

 悲鳴のようなナイムの告白に、俺は戸惑っていた。


 ――ナイムは俺を、自分の想い人に重ねている……。


 俺はゆっくりとナイムから身体を離すと、ナイムのその滑らかな頬を撫でた。


「ナイム……。俺は、あなたの本当の好きな人ではないけど、今この時だけは、俺は……あなたのものだよ」

「ジュール様……っ!」

 ナイムは、どうすることもできない苦痛に耐えているとばかりに、その顔を歪めた。

 ナイムのそんな姿を見て、俺の心も締め付けられる思いだった。


 ーー少しでも、ナイムの心が慰められれば……。


 俺はナイムの唇に、自分の唇を重ねた。

「……っ」

 熱い吐息が混じり合う。

 

 気づくと、俺は天井を見ていた。

 ナイムが俺を寝台の上に押し倒したのだ。


 ギラギラとしたナイムの瞳。だが、その奥に潜むのは焦燥……。


 ーーナイムはいったい、どんな思いでここにいるのか……?


 だが、俺がそんなことを考えている間もなく、ナイムは性急に俺のバスローブの紐に手をかけた。


「……っ」

 合わせを緩められれば、素肌がむき出しになった。そのまま、ナイムの荒々しい手が、俺の胸元をまさぐった。

「はっ……、あ……」

「ジュール様っ、いつも……、こんな風に、されていたのですか? 無防備に、こんなに簡単に、貴方の素肌を晒して……っ!
男どもは、さぞかし悦んだでしょうねっ」

「やっ、ああ!」


 あっという間に裸に剥かれた。

 ナイムは俺の身体をその指でゆっくりとくまなく辿っていく。まるで、恨みでもあるかのように、丹念に、執拗に。

「ナイムっ、あっ、ああっ……」

 決して核心に触れることのない指先に、俺は焦れた。

 身をくねらせると、咎められるかのように身体の上に乗られた。


 ナイムは俺の淫紋を指で何度も擦った。

「あっ、んっ……」

 男に与えられる刺激を待ちわびているのか、淫紋が熱を帯びていくのがわかる。


「ジュール様っ……、貴方は……、もっとご自分のことを大切にしてください」

 これから身体をつなげようという男に言われるセリフとは思えない。


「ナイムっ……、お願いっ、ナイムっ……」

 ねだるように腕を伸ばすと、指を絡めあわせてシーツに縫い留められた。


「私がどれほど貴方に狂わされているかなど、一生貴方は気づくことなどないのでしょうね!
私が、一体どれほどの想いを抱えているかなど、貴方には全く関心のないことに違いない!」

 自虐めいたことを言ったナイムは、荒々しく着ていた暗い色合いのシャツを脱ぎ捨てた。

「……!」

 鍛え抜かれた筋肉で覆われた見事な肉体が現れる。


 だが、俺の目はナイムの首から下げられたネックレスに釘付けになった。


「ナイム、……その指輪は?」


 銀の鎖には、俺が左の指にはめている指輪に、とても良く似た黒い貴石がはまった指輪がかかっていた。


「……!」

 ナイムは一瞬戸惑った表情になり、その指輪を隠すように握りしめた。


「その指輪、俺がつけている指輪と……、そっくりだね……」 



「これは……、身代わりの指輪です」

 観念したかのように、ナイムは言った。


「身代わり?」

「これは私の魔力が込められている魔石です。この魔石を通じて、私の想い人といつも繋がっているのです」

 ナイムの静かな声の響きから、その人への想いがとても強く、揺るぎないものであるということがわかる。


「そう、なんだ……」

「もし私の愛する方に不慮の事態が起こった場合は、この魔石に力が宿り、その方に変わって私の命を捧げることとなっているのです……」

「命を!? どうしてそんな!」


 ーーその想い人に、ナイムは自らの命まで捧げているというのか。


「私の命一つで、その方が護られるのならば、本望です」

「ナイムは……、とても深くその人を愛しているんだね」

 俺の言葉に、ナイムは目を伏せた。


「……所詮、届かぬ想いです。それに、俺は……、その方の気持ちを無視して、自分の気持ちを押し通そうとしています……」

 俺はそっとナイムの二の腕を撫でた。


「ナイム……、あなたの想いが、いつかその人に届くといいね……」


 ナイムは今にも泣き出しそうに、顔を歪めた。


「ジュール様……。私達は、いったい、どこで間違ってしまったのでしょうか……?」


 



 
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