【完結】究極のざまぁのために、俺を捨てた男の息子を育てています!

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第124話 伯爵

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 というわけで、パーティは当然すぐにお開きとなり、会場となった別宅のフロアにはなんとも白けたムードが漂った。

 とぼとぼと帰っていく招待客を尻目に、俺とシャンタルお姉様は、テオドールと父親とともに馬車で本宅へ戻ることとなった。



 そして……、

「朝だぞ、ジュール!! 起きろっ!!」

 俺は、なぜか父親に「テオドールにふさわしい人間になるように、根本から叩き直してやる」と宣言され、おはようからおやすみまで父親の監視下に置かれるという地獄のような生活を本宅で送る羽目になってしまったのだった!!


「お父様、まだ朝早いですし、もうすこし……」

 まだ日も出ていないというのに、父親の一喝で起こされる俺の身にもなってほしい。

「何を甘えたことを! それでも伯爵家の嫡男か!?」

 テオドールのおかげですっかり元気になったという俺の父親は、なぜか俺の「再教育」とやらに目覚めてしまったらしい。
 もうすでにテオドールという立派な養子がいるのだから、俺のことはもうあきらめてほしいのだが、そうもいかないようだ。


 そして俺は眠い目をこすりながら、父親の日課だという早朝の散歩に付き合わされている……。


「ジュール、王立学園の剣術大会のことはすでに聞いているな」

 父親は咳ばらいをした。

「はい、聞いています」

 俺はまだぼんやりする頭で反射的に答えていた。
 最近寒くなってきたようで、朝の空気がとりわけ冷たく感じる。

「テオドールが優勝することも、もちろんわかっているな」

「はい、もちろんわかっています」

 オウム返しのように俺は答える。

 日課の散歩コースは常に決まっていて、父親は背筋をピンと伸ばしてシャキシャキと俺の隣を歩いている。
 一時は、ベッドから起き上がれないほど臥せっていたとは思えないほどの快活さだ。


「優勝したテオドールがどうなるか、もちろん胡乱なお前にも想像がついているであろうな?」

 もったいぶった言いまわしで、父親が言う。

「ええ、もちろん。どうなるかなんて、わかりきったことです」

 シャルロット王女と婚約して、国を挙げての華々しい結婚式を挙げることを父親も心待ちにしていることであろう。


「お前は……、その……、心づもりはできているのだろうなっ!?」

 なぜか急に怒ったような口調になった父親に、俺は面食らった。

「心づもり、ですか? まあ、それは、はい。それなりに……」

 義理の叔父として、テオドールに恥ずかしくないふるまいをしろ、ということだろうか。

 父親はまた、咳ばらいをすると俺の顔を見た。

「ジュール、私はテオドールの剣術大会での優勝を機に、お前に爵位を譲ることとするっ!」

「ええっ!?」

 突然の爆弾発言に、俺は何と答えていいかさえもわからない。

 ちなみに、テオドールが優勝することが前提条件となっているわけだが、これはもうゆるぎない決定事項として父親の頭の中にあるのだろう。



「お前にも聖騎士にふさわしいそれなりの称号が必要となるだろう。
お前が伯爵となれば、テオドールも隣にいて恥ずかしくないはずだ。
式に間に合うよう、私はお前に伯爵としての仕事の引継ぎをしていくから、そのつもりで!
ジュール、そんな呆けた顔をしてどうする! もう時間の猶予はないぞ!」

「へ、あ、はい? って、えええーっ!?」

 テオドールの結婚式に間に合うように、俺を伯爵に?

 ということは、結婚式で育ての親である俺が恥ずかしくないようにするそのためだけに、父親は俺に爵位を譲ろうというのか?

 ――どんだけ、テオドールファーストなんだよっ!!


 っていうか、今までぐうたらな生活に慣れきってしまっている俺。
 

 急に伯爵になれとか、絶対、絶対無理だあああああ!!!!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 しかし無情にも、日々は何事もなかったように過ぎていった。

 俺は父親から昼夜問わず「伯爵としての心得」のスパルタ指導を受け、精神的にかなり追い詰められていた。どこをどう考えても、俺が父親の求める「立派なダンデス伯爵」となる未来がやってくるとは思えない。この際、聖騎士であるテオドールに爵位も一緒に継いでもらえないだろうかと、俺はそれとなく父親にほのめかしてみたが、もちろん秒で却下された。


 そんな中でも、聖教会にいるはずのテオドールは毎日夕食時には本宅に顔を出したので、俺はここにきてようやくテオドールの聖騎士としての忙しい日々も伺い知ることができた。

 相変わらずテオドールと俺は、お互い妙な距離感を感じてはいたが、夕食の席で会う限りは、いつものように会話することができていたので俺はほっとしていた。

 テオドールも一応、父親の「詰め込み式・伯爵教育」については心配してくれているらしい。いつも顔色が悪い俺のためにと、もはや俺の専属メイドとなっているエマと共に、食後においしい果物のタルトを焼いてくれたりする。超多忙な聖騎士になっても、やっぱりテオドールは優しい。
 ただ、そんな俺を見て、父親はすかさず「甘やかしすぎだ! 甘いものの過剰摂取は身体によくない!」と俺から一切れを残して残りのタルト全部奪い去ってしまうので、俺の父親に対する不満は日々募るばかりだった。
 

 もちろん、毎日テオドールに会えて、父親も母親もとても嬉しそうだった。シャンタルお姉様は内心不服だったに違いないが、両親の手前、いつものように猫をかぶり、にこやかにテオドールに接していた。

 というわけで、テオドールのおかげで、ダンデス家は一つにまとまり、今までの暗い過去などまるでなかったかのように平和な日々を過ごしていた。

 ――表面上は!


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