上 下
123 / 165

第123話 招かれざる客

しおりを挟む
 ミラボーは、青ざめるのを通り越して、顔がすっかり緑色に変色していた。

 人間、本当の恐怖を感じると、こんな風に肌の色まで変わり果てた姿になってしまうのかと俺は驚愕した。

 ーーこれほどまでにさせるテオドールの圧って一体……。



「さあ、ミラボー先輩、参りましょうか?」

 にっこりと微笑みかけるテオドール。だがその笑顔の裏には、バトルアックスを隠し持っていることが明らかである。

 ーー確実に、一刀両断される。(何を?)


「いっ、いや、俺は今しがた大切な用事を思い出したのでこれで失礼させていただくっ! クソッ、シャンタルめ! 今日は聖騎士は絶対来ないと言っていたのに!
俺は騙された、だから俺は悪くないっ! 俺は被害者だあっ!!」

 よほど悔しかったのか、へっぴり腰になりながらもミラボーは悪態をつき、じりじりと後ずさっていった。

「テオドール……」

「叔父様、どこをどう触られましたか? きちんと確かめておきたいので、これから叔父様の部屋でゆっくりと教えていただけますか?」

 テオドールは黒の革の手袋をゆっくりと脱ぐと、俺に向き直った。

「ヒイッ……!」

 テオドールの笑顔が不審すぎる!!
 なんか絶対にろくなことにならない予感!!

「さあ、叔父様、参りましょう!」

 だが、テオドールに促されて階段を上がりかけたところで、待ったがかかった。


「そこまでよ、黒の聖騎士!!」

「お姉様ッ!!」

 われらが救世主(?)シャンタルお姉様の登場である。
 お姉様は、瞳と同じ色のエメラルドグリーンのきらびやかなドレスに身を包んでいる。さっきまで赤いドレスだったというのに、一体いつの間に早着替えしたのだろうか!?


 シャンタルは芝居がかった足取りで、ゆっくりと階段を上がってきた。

「黒の聖騎士、今日はお忙しいんじゃなかったかしら?
パーティの招待状はお送りしていないわよ?」

 勝気そうなグリーンの眼差しは、まっすぐにテオドールに向けられている。

「我が家に帰るのに招待状が必要とは存じませんでした」

 シャンタルにひるむことなく、テオドールは答える。

「あら、あなたの我が家とやらは、ついこの間から聖教会になったのではなかったかしら?」

 シャンタルから繰り出される嫌味にも、テオドールは堂々としたものだった。

「そちらは数か月間の仮の住まいです。私の家は叔父様のいらっしゃるここ以外あるはずもありません」

「その割には、私の可愛い弟を、この屋敷に一人放っておくのは平気なのね」

「放っておいたわけではありません。きちんと護衛をつけていますし、このように悪い虫がつきそうだと察知した場合は
命に代えても叔父様を守る所存です。
シャンタル様、私の留守に乗じて、私の叔父様にあのように軽薄で安っぽい男を近づけるのは金輪際おやめください!」

 テオドールの言葉に、シャンタルは顔色を変えた。

「まあ、私の長年の友人に対して結構な言いがかりだこと!
貴方がジュールのことを放っておくから、姉の私がジュールにふさわしい相手を探してあげようかと思っていただけのことよ!」

「そのために、シャンタル様はこのような軽佻浮薄なパーティを開かれた、ということでしょうか?」

「なああああああんですってええええ!!!!」

 シャンタルお姉様の目が三角に吊り上がる。
 当然のことながら、俺の肝は大いに冷えた。


「それに、今日は、体調を崩したといって鍛錬を休んでいた副団長の二人までこちらに来ているようです。
我が聖騎士団にはびこる乱れた風紀を取り締まるのも、当然、聖騎士としての役目です!!」

 ギロリと鋭いまなざしを、フロアに向けたテオドール。

「ち、違うんだ、テオドール! 俺はたしかに昼くらいから腹が痛かったんだ!
ほら、ちょっと食いモンにあたったっつーか!」

 取ってつけたような言い訳をするオレンジの髪のセルジュ。


「だってさー、聖騎士様さあ、最近ちょっと鍛錬とか言って団員に対して厳しすぎない?
自分が邪念を振り払いたいのかなんか知らないけどさー、団員まで巻き込まないでほしいって話だよ!
素振り三千回したいなら一人でやってくれよ!」

 オーバンは悪びれず聖騎士団への率直な不満を口にする。

「お前らの性根が腐っていることはよくわかった。明日から鍛錬の量を5倍にするから覚悟しておけ!」

「マジかよ、テオドール! お前には血も涙もないのかっ!? 俺だってちょっとくらい息抜きしたいんだよおっ!」

 思わず涙目になるセルジュ。

「きっつー! そんなんじゃ、ジュール叔父様どころか、団員の心まで離れていっちゃうよー!」

 オーバンのからかいに、テオドールの眉間の皺はこれ以上なく深くなった。

「うるさい!! ……そして、シャンタル様! シャンタル様にはぜひ会っていただきたい方がいます」

 テオドールの言葉は想定外だったのだろう。シャンタルは瞠目した。


「会ってほしい人? いったい誰よ!」

「今、ちょうどこちらに入っていただいたところです」

 テオドールが目を向けた先にいたのは……、

「シャンタルっ! お前っ、まだこんな浮ついたことをしていたのかっ!?」

「お、お父様っ……!」

 青ざめるシャンタルお姉様。

 ――まさか、お父様がここに現れるとは!

 俺たちの父親は、いかめしい面持ちでこちらに向かってくる。テオドールの手前、いつもより胸を張り、幾分得意げな様子にも見える。

「これは……っ、だからっ……、違うんですっ! 私はジュールのためにっ!」

 さすがのシャンタルも、厳格すぎる父親を前にしては打つ手がない様子だ。
 
「ジュールのために、こんな馬鹿げたパーティを開いた、というわけか!?
お前は……、ジュールの面倒を見るどころか、自らジュールを悪の道に引っ張ろうというわけだな。
私がそうはさせん! テオドール、安心しろ! 
ジュールは、今日から本宅で引き取る! シャンタル! お前もだ。さっそく準備しろ。
さあ、すぐにパーティはお開きにするんだっ!!」



しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...