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第122話 誘惑
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「聖騎士様は心から尊敬できる方ですが、ジュール様に対する態度だけはどうしても看過することはできません!
親友の想い人を強引に我がモノにして、こうして郊外の屋敷に囲って、昼夜問わず見張りまでつけて……!
こんなことをしていても、聖騎士様はジュール様に愛されるわけもありません!」
「え、は? ……ええっ!?」
いや、そもそもここはダンデス家の別宅なのであるから、俺は別にテオドールに囲われているわけではなく、しかも大前提として俺とオーバンはそういう関係ではいっさいないわけで……!
「大丈夫です、ジュール様! このことは誰にも言っていません!
しかし、もし、オーバン様への文や、言付けがありましたらいつでも仰ってください! 俺が秘密裏に取り次ぎますから!」
ロイクは声をひそめる。
「いや、ロイク、君は誤解してるよ! あのときの学園でのあれは、オーバン君がとっさについた嘘なんだよ! オーバン君と俺はそういう関係ではないし、俺はもともとテオドールとここに住んでいただけで……」
「わかっております、ジュール様! 決して公にはできないことですものね。このことが聖騎士様に知られては、オーバン様の身も危うくなることでしょう。ジュール様とて、あの嫉妬深い聖騎士様にどこぞに監禁されないとも限りません! ジュール様は、自分の本当の想いを偽ってまでオーバン様の身を案じて……! ううっ、尊いです!」
ーー駄目だ、この子! 思い込みが激しすぎる!!
「ロイク、この件は今度ゆっくり説明するから! でも安心して! 君の心配するようなことは何もないよ。俺は大丈夫だから。
……俺、ちょっと疲れたから部屋に戻るね」
今度オーバンに、しっかりとロイクに誤解を解いておくように諭しておこう!
オーバンは根はいい子なんだが、いろいろなことを茶化して楽しむ傾向があるのが困ったところだ。
ーーあんな純粋な子まで騙したままでいるなんて、年長者として見過ごすわけにはいかない!
2階への階段を上がり始めたところで、また俺に声がかかった。
「ジュール!」
ーーもういい加減にしてくれっ!
感情がそのまま表情に出てしまったのだろう、振り向いた俺を見たその男は驚いた顔をしていた。
「あ、どうも……、何か、御用でしょうか?」
俺は慌てて顔を真顔に戻した。
おそらくお姉様のお友達である茶色い髪のにやけた男に、俺は少しだけ見覚えがあった。
「やあ、ジュール。久しぶりじゃないか。会えて嬉しいよ。俺のこと、もちろん覚えてるよな?」
ーーもちろん、名前すらも思い出せない!
「あ、えーっと、その……」
「しばらく国を離れてたんだって? ずいぶん日焼けしてるじゃないか。
ところで婚約を解消したって本当か? 俺はまえから君はイネスとは合わないと思ってたんだ」
男は俺に並ぶと、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「はあ……、あの、せっかくですが俺、体調が悪いので、部屋に……」
「ああ、具合が悪いのか? それはいけないな。俺が部屋まで送ってやろう」
男は俺の耳を舐め始めるんじゃないかというくらい近くで、俺のことをねっとりと眺めた。
「いえ、大丈夫、ですので……」
男の腕を外そうと、身を捩ったところで、不意打ちで尻を鷲掴みにされた。
「ヒャっ!!」
「相変わらずいい反応だな。なあ、誘ってるんだろ?
俺も今日は男とヤりたい気分なんだ。……いいだろ?
いつもなら、シャンタルからジュールには絶対に近づくなってお触れが出るはずだけど、
今日に限ってはなんにも言われてない……、ってことは、俺にもチャンスがあるってことだよな?」
「は?」
ーーなんだよ、そのチャンスっていうのはっ!
男の欲に満ちた瞳に、俺はだんだんムカついてきた。
「ジュールのこと、昔っから一度啼かせてみたかったんだよな。
いいよな? 大先輩の俺が、ベッドの上であれこれいろいろと教えてやるよ!
学園時代にできなかったことを、今晩後輩の君にしっかりレクチャーしてやろう」
ーーよし、一発殴る!
これ以上のセクハラ発言は許さないとばかりに、俺が拳を握りしめたその時、冥界から魔王が蘇ってきたのかと思うほどの恐ろしい声が降ってきた。
「それはそれは、同じく学園の後輩である私にもぜひご教示いただきたいものです。
これからベッドの上で、私の叔父にいったいどんなことを教えてくださるというのでしょうか?
ミラボー大先輩は!」
「ひええええええええええええっ!!!! くっ、黒のっ、聖騎士っ!」
「テオドールっ!!」
そこには完璧なまでの美しい微笑をたたえた聖騎士が、禍々しいオーラをまとって立っていた。
親友の想い人を強引に我がモノにして、こうして郊外の屋敷に囲って、昼夜問わず見張りまでつけて……!
こんなことをしていても、聖騎士様はジュール様に愛されるわけもありません!」
「え、は? ……ええっ!?」
いや、そもそもここはダンデス家の別宅なのであるから、俺は別にテオドールに囲われているわけではなく、しかも大前提として俺とオーバンはそういう関係ではいっさいないわけで……!
「大丈夫です、ジュール様! このことは誰にも言っていません!
しかし、もし、オーバン様への文や、言付けがありましたらいつでも仰ってください! 俺が秘密裏に取り次ぎますから!」
ロイクは声をひそめる。
「いや、ロイク、君は誤解してるよ! あのときの学園でのあれは、オーバン君がとっさについた嘘なんだよ! オーバン君と俺はそういう関係ではないし、俺はもともとテオドールとここに住んでいただけで……」
「わかっております、ジュール様! 決して公にはできないことですものね。このことが聖騎士様に知られては、オーバン様の身も危うくなることでしょう。ジュール様とて、あの嫉妬深い聖騎士様にどこぞに監禁されないとも限りません! ジュール様は、自分の本当の想いを偽ってまでオーバン様の身を案じて……! ううっ、尊いです!」
ーー駄目だ、この子! 思い込みが激しすぎる!!
「ロイク、この件は今度ゆっくり説明するから! でも安心して! 君の心配するようなことは何もないよ。俺は大丈夫だから。
……俺、ちょっと疲れたから部屋に戻るね」
今度オーバンに、しっかりとロイクに誤解を解いておくように諭しておこう!
オーバンは根はいい子なんだが、いろいろなことを茶化して楽しむ傾向があるのが困ったところだ。
ーーあんな純粋な子まで騙したままでいるなんて、年長者として見過ごすわけにはいかない!
2階への階段を上がり始めたところで、また俺に声がかかった。
「ジュール!」
ーーもういい加減にしてくれっ!
感情がそのまま表情に出てしまったのだろう、振り向いた俺を見たその男は驚いた顔をしていた。
「あ、どうも……、何か、御用でしょうか?」
俺は慌てて顔を真顔に戻した。
おそらくお姉様のお友達である茶色い髪のにやけた男に、俺は少しだけ見覚えがあった。
「やあ、ジュール。久しぶりじゃないか。会えて嬉しいよ。俺のこと、もちろん覚えてるよな?」
ーーもちろん、名前すらも思い出せない!
「あ、えーっと、その……」
「しばらく国を離れてたんだって? ずいぶん日焼けしてるじゃないか。
ところで婚約を解消したって本当か? 俺はまえから君はイネスとは合わないと思ってたんだ」
男は俺に並ぶと、馴れ馴れしく肩を組んできた。
「はあ……、あの、せっかくですが俺、体調が悪いので、部屋に……」
「ああ、具合が悪いのか? それはいけないな。俺が部屋まで送ってやろう」
男は俺の耳を舐め始めるんじゃないかというくらい近くで、俺のことをねっとりと眺めた。
「いえ、大丈夫、ですので……」
男の腕を外そうと、身を捩ったところで、不意打ちで尻を鷲掴みにされた。
「ヒャっ!!」
「相変わらずいい反応だな。なあ、誘ってるんだろ?
俺も今日は男とヤりたい気分なんだ。……いいだろ?
いつもなら、シャンタルからジュールには絶対に近づくなってお触れが出るはずだけど、
今日に限ってはなんにも言われてない……、ってことは、俺にもチャンスがあるってことだよな?」
「は?」
ーーなんだよ、そのチャンスっていうのはっ!
男の欲に満ちた瞳に、俺はだんだんムカついてきた。
「ジュールのこと、昔っから一度啼かせてみたかったんだよな。
いいよな? 大先輩の俺が、ベッドの上であれこれいろいろと教えてやるよ!
学園時代にできなかったことを、今晩後輩の君にしっかりレクチャーしてやろう」
ーーよし、一発殴る!
これ以上のセクハラ発言は許さないとばかりに、俺が拳を握りしめたその時、冥界から魔王が蘇ってきたのかと思うほどの恐ろしい声が降ってきた。
「それはそれは、同じく学園の後輩である私にもぜひご教示いただきたいものです。
これからベッドの上で、私の叔父にいったいどんなことを教えてくださるというのでしょうか?
ミラボー大先輩は!」
「ひええええええええええええっ!!!! くっ、黒のっ、聖騎士っ!」
「テオドールっ!!」
そこには完璧なまでの美しい微笑をたたえた聖騎士が、禍々しいオーラをまとって立っていた。
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